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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖職者の謎解き

密室のダンジョンと聖職者の謎解き

作者: 如月 和

 人が死んでいる。その言葉が町中に響き渡ったのは、西日に眩しさを感じる頃だった。


 教会で今後の予定を確認していた私は、部屋のドアを蹴破るかの如く激しく開け放つ甲冑を着た大柄な男、タンにそう告げられ、足早に部屋を出た。


「町中?」

「いえ、ダンジョンです。ソロの冒険者が見つけたようで、死体もソロだったと」


 急がなくては、間に合わなくなるかもしれない。その焦りからか、足がもつれ転びそうになる。運動神経がない自分に腹が立つ。看かねたタンは、小柄な私を腕に抱いた。


 恥ずかしいけれど、足を怪我したとでも言い訳をすればいいだろう。現場についたら聖職者の特権、回復魔法で癒す。完璧だ。


 神に祈りを捧ぐことを生業にする聖職者が、こんな考えで良いのだろうか。そんな自問自答を繰り広げるつもりは一切なく、心の中を覗くようなものはこの世にはいない。


 現場となったダンジョンは、町の外れにある入り口から入ることが出来る。そもそもこの町が出来たのはこのダンジョンを調査するためであり、洞窟のようなそれはとても広く、天井は手の届かないほど高い。


 自然に出来たとは思えないほどしっかりとした土の壁や天井、人でも作ることは出来ないだろうと思われる数々のギミック。調べることはいくらでもある場所なのだ。


 地下へ伸びる入り口をくぐり抜け、階段を駆け下りていく。光源となっているのは光り輝く鉱石であり、随所に顔を出すそれらによって、洞窟内は昼間の室内のように明るかった。


 けれども光りあれば影もあり、曲がり角のようなところでは暗闇も出来ており、もしも私が歩いたのなら、明るいところから外れた際には、土に足を取られて転びそうになるだろう。


 一つ角を右に曲がり、左手には土で出来た壁とは違う、白みがかった巨大な岩が見える。それは天井にまで届く巨大な一枚の岩で、タンが足を止めたところを見ると、その向こう側が現場となっているのだろう。岩の表面には、一本の溝があった。


「この溝を指でなぞると、岩が持ち上がって中に入れます。しかし中に入ると自動的に岩が下りてきます。つまり、人が中にいれば岩は下りているということです」


 なにを当たり前のことを言っているんだろう、私はそう思った。タンは私を下ろすと溝をなぞるように指を這わせる。思いの外静かに持ち上がっていく岩の向こうには、何人かの人が倒れた人――つまり死体を取り囲むようにして立っていた。


 部屋の広さは、タンが十人ほどは縦に並んで横になれるくらいだろうか。左右共にそのぐらいで、天井は槍を振るえるほど高い。


 タンに付き添われ、私はその一団に駆け寄った。転ばないように、慎重に。


「イノリ! 早く、もう反応が出てる!」


 一団の中には知り合いがいた。この町に来るまで共に旅をしていた仲間である彼女は、二本の小刀を操る、私とは正反対に身軽な人だった。


「クノ! ……え、この人――」


 辿り着いた彼女の足元に横たわるのは、側頭部にある何かが刺さったような跡から血を流して倒れている男の人、私もよく知る人物だった。――私や彼女、タンともう一人と共に旅をし、私達を纏めていた存在。リーダーである、ユウだった。


※※※


 この世界には人を襲う、魔物と呼ばれる存在がある。彼らは死んだ動植物から生まれ、生前の恨みを晴らすかのように暴れ回る。


 私を始めとする聖職者は、死した彼らに祈りを捧げ、魔物化と呼ばれる現象を防ぐことを神から定められた者達だ。ある日、夢の中で信託を受けたときのことを今もはっきりと憶えている。


 見た目は猫そのままであったが、後光を背負うその尊大さはまさに神と言えるもので、命ぜられたこと、その力を与えられたことからは逃れることが出来ないと直ぐに察せられた。


 左目の下に表れた、肉球のマークは恥ずかしいけれど。


 その肉球のマークが淡く光り、倒れ伏すユウに向けて翳す両手からは同じ光が照射される。


 骨になっていた左手が肉を取り戻し、彼は人間としての死を取り戻したのだった。


「これで一安心ですな。やはりソロでの探索は危険が伴うのかもしれません。入り口に見張りを用意しましょう」


 年配の男性がそう声をかけるのに対し、私はこくりと頷いた。この町の長である彼は、このダンジョンには魔物がおらず、安全に探索が出来ると、この町に着たばかりの私にアピールしていた。


 しかしこの様な事態になってしまえば、その考え方は改めるしかないだろう。何故ユウはここで死に絶えたのか、まだ視ぬ魔物が潜んでいたのか。聖職者が共にいなければ、もしもの時、この様なときにまた悲劇の種を蒔くことになる。


 それを防ぐ簡単な手は、独りでは行動をしない。それに尽きるだろう。――では、何故ユウは独りでダンジョンなんかに入ってしまったのだろうか。


 気が良くてノリが軽いことからムードメーカーであった彼は、その反面で慎重なところがあった。その慎重さがリーダーに相応しいと思ったからこそ、私とタンは彼と行動を共にしていたのだ。


 タンは私の護衛であり、彼が認めたのならば悪いところはなかったはずだ。あったとしても私に火の粉はかかるまい。まぁ、多少女遊びが好きすぎるところはあったが、私やクノ、もうひとりの仲間にも手を出しているところは見たことがなかった。


「ありがとう、イノリ。私も今来たところだったんだけど、魔物化の反応が出ていて焦ったよ」


 例え魔物になったとしても、仲間を手にかけるのは葛藤があったのだろう。骨になり始めていた彼を前にしても、彼女は小刀を抜いていなかったから。


 町の人によって運ばれていく遺体を見る彼女の目は、どこか憂いさを持っているように見えた。肩にかけたトレードマークの大判ストールも、どこか力なく垂れ下がっているように思う。


「クノ、ユウのこと好きだったの?」

「うん。……一応付き合ってはいたよ。気が付かなかった? まぁ、バレないようにはしていたけれどね。仲間内でそんな関係じゃ、みんな気を遣っちゃうし、あなたにそんな下世話なこと考えて欲しくなかったから」


 一瞬、タンの息が止まるのを感じた。彼の淡い恋心は、これからどうなってしまうのだろうか。それについては興味津々なので、ばっちり下世話なことを考えております。


 ただ、私の心配はそれだけではなかった。


「ミユさんはそれを知っていたの?」


 それは些細な疑問に聞こえたのだろう、クノは知らなかったと思うなぁと、それまで気にしたことはないようだった。


 けれど私は思うのだ。慎重なはずのユウが独りでダンジョンへ入ったと言うことは、独りでダンジョンへ入る用があったということ。


 その理由はひとえに、待ち合わせだったのではないか。それが頭を過ることとなった切欠は、私はこの町へ着いて間もなく、教会の神父様よりお布施の回収を依頼されたことにある。各家を回って祈りを捧げた後に、お布施を貰うのが決まりなのだ。


 私はそうやっている間に、ある噂を聞いた。それはこのダンジョンが、その、逢瀬の際に情事を重ねる場所であった、と。


 特に今居るこの場所だ。此処は中に人がいると岩が下りて閉じ込められる。中からも同じようにして岩を上げることは出来るのだけど、岩が下りていると言うことはそう言うことだと、暗黙の了解が出来上がっていたらしいのだ。


 死体を発見したのも、おそらくはいつまでも開かないことに苛立った人なのだろうと思う。そんな理由でなければ、わざわざ開ける必要もない場所だから。初めて来た人は上げ方も解らないだろうし、中の人も騒がしくなれば気が付く、と言う訳だ。


 私は、クノかミユさんがユウを殺したのではないかと直感した。


※※※


「あの部屋に、隠し通路みたいなものはなかったのかな?」


 教会に戻った私は、既に死体の埋葬を終えていた神父様にそう問い掛けた。あの部屋の状況に、少し違和感を感じる、というのが理由であった。


 私達が到着したときに岩が下りていたのは、当然ながら中に人が居たからである。そして死体発見時にも岩は下りていた。そこで気になって確かめてみたのだけど、岩は入り口を潜ったことに反応して下りたのだ。


 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということになる。


 あそこでユウが殺され、犯人が出ていったとすれば、岩は上がったままになる。しかし誰かが再び入らなければあの状況にならないのだとしたら、あそこは完全に密室だったということになる。


 その中で犯人が姿を消したということは、隠し通路がなければ辻褄が合わないと思うのだ。仮に中に犯人、もしくは疑いのある人がまだいたのだとしたら、駆け付けた町の住人も不審に思うだろう。


「ふぅむ、あの部屋にそんなものはなかったと思いますよ。あのダンジョンの調査が始まってそれなりに時間が経ちますが、隠し通路が見つかったという報告はありません」

「他の場所には?」

「他の場所にはあります。ただあの部屋にはないというだけで」


 タンを伴って、確かめてみることにした。


※※※


 件の部屋の前には、背中に弓を背負ったミユさんが居た。彼女は弓の名手であり、魔法によって創りあげた矢によって敵を撃つ。私達の中では唯一遠距離攻撃が出来るため、旅の中核を担う人だった。


 私は聖職者であって、出来ることは祈ることと傷を癒すことだ。戦闘の最中に出来ることもなく、ただ不安げに佇むだけ。そんな私をいつも励ましてくれていたのが、敵から距離を取りたい彼女だった。


 初めての戦闘を終えた日の夜、興奮と恐怖の混じり合った気持ちの高ぶりを抑えられずに眠れぬ夜を過ごしていたとき、優しく頭を撫でて添い寝をしてくれたこともよく憶えている。私にとっては、優しいお姉さんのような人なのだ。


 そんな彼女に、ユウとの関係性を直接聞くなんてことは、私には出来ない。


「済まないが、ミユ殿はユウ殿とお付き合いをなされたりはしておられませんでしたかな?」


 代わりにそう問い掛けてくれたタンには感謝したい気持ちはあるのだけど、言葉が少し変ではないかと、口の端が引きつるのを感じた。


「質問の意図が分からないけど、彼と付き合っていたのはクノでしょう? 私は彼女の姿を微笑ましく見ていただけよ」


 それでもそっと立ち去っていく後ろ姿に、それだけではない感情が見えた気がした。


 部屋を通り過ぎ、左へと曲がる角が見える。その先には更に左へと曲がる角が見え、道は部屋の裏側を通る作りになっていた。


 そこに隠し通路があるなら話は早いのだけど、それが見つかっているのは今居る場所、左には曲がらず、行き止まりである筈の右側の壁にあった。


「見た目は、壁。触っても壁」


 差し出した右手ははっきりとした物に触れ、指先にはしっとりとした土が名残惜しそうについてきている。タンが手に持った布で拭いてくれた。


「そう見えますでしょ?」


 そうもったいぶった言い方をされても、種はもう割れているのだ。鬱陶しいというように布をひったくると、壁の隅、ちょうど角になった部分にあった光る鉱石に被せて光を遮る。


 するとどうだろう、周辺、数人分のスペースだけがぽっかりと真っ暗になり、壁だった部分を浸食している。その先に、光る鉱石が照らす道が見えた。


「暗くすることで道が開かれる、か。……この環境だとなかなか気が付かないよね」


 手を伸ばしてもそこに壁などはなく、確かに通路となっている様だ。その先は幾つかの部屋がある後に行き止まりとなっているそうなので、わざわざ進むことはないだろう。


「これが出口なら、犯人がここから逃げ出したと考えられるんですがね」

「密室があるのにどう逃げるっていうの?」

「あの部屋に入らずに殺す方法、あると思うんですよ」


 そう言って語り出したのは、岩が下りてくる寸前に、入り口から弓矢で射貫いたという方法だ。魔法で創り出した矢であるなら、凶器が残っていなかったことと一致する。


 暗にミユさんが犯人だと名指ししているのは、少し許せなかったけど。


「多分無理じゃないかな」

「その理由は?」

「ユウが倒れていた位置。よく思い返してみると、奥の壁際だったと思うの。その位置にいる人の頭を弓で射貫くとなると、下りてくる岩で射線を塞がれる方が速いんじゃないかな」


 じゃあ寝っ転がって射れば、なんて言い出すタンだけど、そんな怪しいことをしたらいくらなんでもユウだって異常に気付く筈だ。傷は側頭部にあったのだから、少なからず視界には映っていたはず。


「もう一つ言うと、彼はどのようにして倒れていたのか、ということを思い返してみて」


 タンは顎に手を当てて、記憶を探るように呟いていく。


「確か、うつ伏せでしたね。膝を曲げるようにして倒れたような雰囲気がありました」

「弓で射貫かれたら膝から崩れ落ちる?」

「……衝撃で、横に倒れるでしょうな」


 はい、その通り。あの状況ではどうやってもミユさんに犯行は無理。庇いたいという思いで言っているのではなく、殺害の方法からして無理なのだ。膝から崩れ落ちるように殺したとなると、傷口の状況から見ても、どのように殺したのかは予想がつく。


 背後から忍び寄って、刺す。冒険者は魔法での身体強化が出来なければ名乗れない職業だ、頭蓋骨を貫通させるなんてわけないだろう。


「じゃあ、犯人は密室の中で殺して、密室から脱出したという訳ですか? 一体どうやって」

「だから言っているでしょ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()って。あなたに私は見えているの?」

「いや、そりゃ見えないでしょう真っ暗なんだ、から。――そうか、此処では鉱石を布などで覆うとその部分が真っ暗になるのか!」


 そう。だから犯人は密室から出る必要はなかったのだ。試しにタンから離れて様子を覗ってみると、そこはごく普通の角に見える。此処では角に光りがあるのが不自然であり、暗闇なのが普通なのだ。


 だから例え部屋の隅が真っ暗だったとしても、馴れた人ほどそれは普通のことと認識してしまう。用がなければ入らない部屋であったなら尚更だろう。


 そして犯人は、自らそれを裏付けるかのようなヒントを言っている。


 でも、もう時間が経ちすぎている。凶器も特定されないように細工を施されているだろう。そうなれば証拠は一切なく、居ないはずの魔物が犯人ということになってしまう。


 ……けして犯人を曝きたい訳ではないけれど、共に旅をした仲間が犠牲になり、そして犯人は、やっぱり私達の仲間である。なら、それならば。私はやはり、理由が知りたいのだ。今まで共に旅をしてきて、楽しかった想いが私の中にあるから。それが本物だったと、――崩れ去ってしまう恐怖はあるけれど、確かめてみたいのだ。


「タン、賭けにでよう」

「は?」


 犯人が姿なき魔物を利用するのなら、私だって同じことをしてやろう。私は、護られているだけのお姫様なんかではないのだから。


※※※


 すっかり日も落ちた頃、町は松明の明かりに彩られていた。普段なら静かな光景がそこに広がっていたことだろう。賑やかな声が響くのは、憩いを求めて冒険者が集う酒場だけ。住人は静かに、普段通りの生活を営むだけであった。


「魔物だ! 恨みが強く、魔物化を止められていなかったんだ! 町へ出たぞ!」


 墓地から響き渡る神父様の声に、その静けさは騒音へと転じた。


 酒場からは冒険者が駆け出し、蜘蛛の子を散らすように魔物の捜索へと向かった。そんな陰から逸れるように、一つの影が町を出ようと動き出す。


「どこへ行くの?」


 町の出入り口に立つ一際大きな松明の陰から、私の声が響き渡る。影はびくりと身を震わせ、明かりの下へと現れる私とタンを見つめていた。


「魔物はいないよ。ちゃんと防げてるから。神父様には、ちょっと演技をしてもらったの。他の人には悪いと思ったけどね」


 影は項垂れるように肩を落とした。


「魔物は生前の強い恨みによって暴れ回る。それを与えた対象を探し回るんだ。この町にいたらいずれ辿り着かれるかもしれない、自分に恨みを向けられているとしたら、それはもう、自分が犯人だと名指しされている様なものだから」


 松明を持ったタンが、ゆっくりと影へと近寄る。


「なんでこんなことをしたの、――クノ」


 大判ストールが酷く揺れていた。彼女はことの発覚を恐れている。そう思ったからこその賭けに、私は勝った。


 怪しいところはいくらでもあった。私があの部屋に辿り着いたとき、彼女は『()()魔物化の反応が』と言った。既に、や魔物化の反応、とだけ言ってくれたら自然だったと思う。けれど()()なんて、まるでいつ死んだか解っていて、こんなに早く魔物化の反応がでるなんて思わなかった。なんて言っているように聞こえてしまう。


 他にも小刀を抜かなかったこと。反応が見られたのなら、魔物化は時間の問題だった。あの場には町の住人もいたのだから、その人達を護るために武器を構えるのは冒険者の責務でもあるだろう。そうでなければ、教会は冒険に聖職者を共に付けることなどしない筈だ。


 教会の根底にあるのは、人々の安寧を護ることなのだから。


「私は、――私はあなたを護りたかった! あいつはあそこで、私と体を重ねた後に言ったのよ。そろそろあなたに手を出してみるかって。聖職者に手を出すなんて、そんな、……穢らわしい! 体を重ねたこの身が悍ましい!」


 楽しかった旅は、その旅で心の底から笑っていたのは、……私だけだったのかもしれない。


 タンは私の護衛で、ユウは私の体が目当てで。クノは今の発言から察するに、聖職者を神聖視していた。ミユさんには迷惑をかけてばかりだった。


 その短い独白だけで、私が見ていた世界は少し、色褪せてしまったように感じて仕方がない。私はやはり、護られるだけの存在なのだろうか。


「解るでしょ? あいつは生きていては駄目だったのよ。あいつを生かしておいたら、あなたは無残に捨てられるだけだったのよ! 私はまだあなたと旅がしたかった、あなた様の隣に立つ名誉が欲しかった! だから私は! わた――」


 自身を正当化するための良い訳だったことは解っている。だって私にはちゃんとした護衛があり、私の身の安全は保証されていたのだから。


 だから、彼女の思い描く未来はけして訪れることはなかった。そう言いたい誰かがいたのか、クノ頭はかくんと傾き、衝撃を受けたように倒れ伏した。


 駆け寄ったタンが吐き出す息には、安堵の色が見えた。


「ちゃんと手加減は出来ます。あなたを悲しませたくはないですから」


 暗がりから現れた影は、ゆっくりと私に近寄ってきた。目の前に立つと、そっと頬に手を寄せ、怪しさを持った動きで優しく撫でる。


「私はあなたを、絶対に護ります。心の底から笑って、楽しんでいますよ。あなたとの旅を」


 その意味を、私はよく解っていなかった。


 ――それからの旅は、私とタン、ミユさんとの三人で続いていた。どこか寂しげな横顔を見せるタンとは違い、今までとはまた違った楽しげな表情のミユさんを見て、私は今度こそ、みんなで楽しめる仲間となることを誓うのだった。

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