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第8話 身代わりが成功してしまった件

 公爵の部屋に入ったとたん、カンナは漫画の記憶を思い出した。序盤で読み飛ばしては、いたが、メリアの母である公爵夫人は病気でなくなっていた。父親である公爵様も重い病気の設定だったと事を思い出した。


「公爵様……」


 思わず声が漏れた。公爵様は、青白い顔でベッドで寝ていた。意識も朦朧とし、「うぅ」などと小声でうめいていた。


 この様子では、メリアのフリをするのは簡単そうだった。


「お父様ぁ!」


 カンナがわざとらしく、大きな声を出し、公爵様が寝ているベッドに近づいた。レンは「よいぞ!」とでも言いたげの表情だったが、無言で頷いた。


「あぁ、メリアか」

「そうよ、私がメリアよ!」


 カンアはメリアお嬢様になりきり、涙を浮かべた。


 臭い芝居だったが、バレている様子はない。


「メリア、どこに行ってたんだい? 探したよ」

「ごめんなさい、お父様ぁ!」


 自分でやっていながら本当にわざとらしい。


 そういえばカンナも元いた世界で、父親とちょっと離れた時間があった。なぜかその時は、再会した時嬉しくて仕方なかった。一年ぐらい前の事だったが、当時の記憶を思い出しながら演技をした。


「お父様、何か欲しいものはございません?」

「いや、別に」


 公爵様は、無欲のようだった。


 こんな広い部屋で一人で寝かされている公爵様を見ていると、心が痛い。これは、カンナというよりは、中の人であり佐藤環奈(17)の良心が痛んでいた。


 聖書によると人間には罪が入り、元々清い存在ではない。嘘をつくし、嫉妬もする。他人を蹴落とす人のほうが成功しやすかったりする。


 そんな人間でも元々は神様の子供だ。神様と似せて創られたから、少しは良心が残っているという。カンナにも良心が残っていた。いくら漫画世界の事といっても、このま具合の悪い人を放っておけない。


「本当に欲しいものはないですか?」

「そうですよ、ご主人様。欲しいものは無いですか?」


 レンも応戦すると、公爵様はゆっくりと口を開いた。


「何か美味しいものを食べたいなぁ。この国の飯は不味くてたまらん。パンも石のようだし、スープも油っこい」


 カンナとレンは顔を見合わせる。確かにこの国の料理は不味い設定だった。だからこそ、この漫画世界でメリアは前世の知識を駆使してカフェ店長になり、繁盛すている設定だった事を思う出す。


「わかりましたわ。何か美味しいものを作ります!」


 気づくと、そんな事を口にしていた。


「ちょっと、お嬢様。美味しいものなんてこの国には無いですよ。野菜を生で食べるか、肉を油で焼くか塩振って食べるぐらいしかロクなもん無いですから」

「大丈夫よ、レン。美味しいものを作るわ!」


 心配そうに止めるレンの事を無視し、カンナは声高く宣言していた。


 佐藤環奈(17)だったら、そんな堂々とは言えないだろう。ただ、今はカンナというちょっとつり目美女の公爵令嬢だ。少し気分も上がっていたのだろう。


「楽しみにしているぞ、メリア」


 公爵様にもそんな事を言われてしまと、止める事はできなかった。


「とにかく厨房に参りますわ。案内してくれません?」

「はぁー。お嬢様はなかなか勇気と行動力があるね」


 レンは呆れていたが、キッチンまで案内してくれた。


 さて、何を作ろう?


 すっかり公爵令嬢になりきっていたカンナは、元いた世界で料理が苦手である事をすっかり忘れていた。

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