第4話 天使の囁き
夢を見ていた。
夢の中で環奈は大泣きしていた。礼央の事を思うと、ショックでしか無い。
もちろん、礼央に告白したり、アピールする訳でもなかったが、裏切られた気分でもある。こんな恋愛が難しいとは思わなかった。
漫画やゲームだと簡単に相手が見つかり、簡単に溺愛が始まるのに。
現実の厳しさに環奈は泣いていた。大人が見たら、こんな環奈の行動は幼すぎるが、免疫の無いヲタク女子ならこんなものだろう。普通は、これを糧に成長していくものだが、今の環奈にはショックしかなかった。
『もし、お嬢さん』
そこに誰かが環奈に声をかけた。小さな可愛い天使だった。よくイメージされるような赤ちゃん天使だった。
「わぁ、可愛い。天使だ!」
さっきまで泣いていた環奈だったが、目の前の天使に心が奪われた。夢の世界である事はわかっていたが、可愛い天使の姿に癒される思いだtが。
「あなた、なんて名前?」
『私の名前はバアル』
「ふーん。ところで私に何の用?」
ここで天使は甘い言葉を囁いてきた。
『失恋は辛いね、環奈ちゃん。そんな環奈ちゃんに、スペシャルプレゼントだよ』
「え、何!?」
スペシャルプレゼントと聞き、環奈の目がキラッと輝いた。
『少女漫画的異世界に行けるようにしてあげる」
「えー? マジ!」
環奈は喜んでいた。どうせ夢の中の話だ。できれば良い夢を見たい。環奈は喜んで天使の提案を受け入れた。
同時に天使は邪悪な笑みを見せていたが、気のせいだろうか。天使がそんな笑顔を見せるわけがない。すぐに気のせいだと思い込んだ。
「私、『悪役令嬢は、カフェ店長になって隣国の騎士に溺愛されます』の世界に転移したーい!」
今ハマってる漫画に行きたい。漫画やゲームに興味を失いかけていたが、こんな話を聞かされれば乗るしかない。
どうせ夢だし。
厳しい現実で恋愛するより、漫画世界でキャッキャとしていた方が絶対にいい……!
『では、この漫画の主人公メリア嬢のアバターを着ましょう』
「え? アバターって?」
『漫画の世界に女子高生姿で行っても浮くでしょう。こちらが用意したアバターを着ましょう』
「そっかぁ」
あまり人を疑わない環奈は、天使の提案に素直に頷いた。
「でも、主人公メリアになるのは、おこがましいと言うか。モブキャラでいいです!」
妙なところで謙虚な環奈は、ヒロインになる事は辞退した。
『わかりました。では、モブ令嬢という事で』
「ちょっと待って。でも、少し悪役令嬢要素も入れたいわけ。容姿は釣り目で気が強そうな悪役令嬢でいい?」
『ぜいぶんと図図しい。まあ、いいでしょう。名前はどうしましょう?』
日本人である環奈は、すぐにヨーロッパ風の名前が思いつかない。環奈は歴史の成績も悪く、イマイチ名前が思い浮かばない。
「本名もじってサトゥ・カンナっていう令嬢じゃダメ?」
『まあ、いいでしょう。では、カンナさん、良い夢を』
同時に環奈の意識が途切れた。
途切れかけた意識で、天使が『二度と目覚めないでね、馬鹿な人間』と言っているのが聞こえたが、どういう事なのかさっぱりわからなかった。
でも、どうせ夢だし。
夢の世界で楽しんで何が悪いのだろうと思った。この時の環奈は、後の事は全く想像せず、呑気なものだった。