第12話 クロウリンの魔導書
ヘレンに書斎まで案内されて、彼女と別れた。
「お、おぉ。すごい本」
書斎といっても小さな図書館ぐらいある。もしかしたら外国語で書かれた本ばかりだと身構えたが、本は全部日本語だった。さすがご都合主義の世界だ。
「聖書はないかなぁ」
カンナは本棚をざっと見て周り、聖書を探してみたが、植物や動物の図鑑が多いようだった。音楽や絵画の本もある。これは公爵様の趣味だろう。
「何か、歴史とかわかる本は……」
そう呟いたのと同時に、ある本が目に飛び込んできた。「クロウリンの魔導書」という本だった。
「魔導書?」
本棚から引き抜いて表紙を確認したが、悪魔の絵が描いてあった。魔術の本である事は間違い無いようだ。何かレンの事がわかるかもしれない。
カンナは「クロウリンの魔導書」を持ち、書斎のそばにある閲覧室に向かった。閲覧室まであるのは、本当に図書館みたいだ。
椅子に腰掛け、ゆっくりと「クロウリンの魔導書」を開く。
本の前書きによると、この世界の魔術師アレイスタン・クロウリンが描いた書物で、この一冊で魔術をマスター出来るらしい。この世界にある魔法学校でもマストの本とある。
「な、なにこれ」
この本を読むと、魔術の方法が詳細に書かれて気分が悪い。
動物や人間の死体を生贄として差し出すと、ポータルが開いて悪魔を別世界から召喚できるらしい。生贄は酷く殺せば殺すほど、悪魔が大きな願いを叶えてくれると言う。
本を読みながらカンナの眉間に皺がよる。確か聖書では生贄や魔術は禁止だった。なぜそうなのか、はっきりと理解できてしまう。こうして悪魔に生贄を捧げると、代償として身体の一部や家族、寿命などを奪われる可能性がある事が但書に書いてあった。
そしてカンナが一番気持ち悪いと思ったのが、霊媒の箇所だった。
生贄で悪魔と契約すると、霊媒も出来るらしい。死んだ人や別世界の人の記憶を持った悪霊を呼び出し、好き勝手に利用できると言う。
この方法で「前世の記憶を持っているように見せる」と書いてあった。
もそかしたらメリアはこの方法で、前世の記憶を持っているかのように見せていた?
悪魔と契約し、死んだ人や別世界にいる人の記憶を持った悪霊を呼び出せば、前世があるように見せられるではないか。
漫画では前世の記憶にある主人公はすごいと思っていたが、こんな方法で前世を知っていたとしたら、怖くて仕方ない。全く憧れは持てない。
ちなみにこの魔導書では、前世や来世がないと書かれていた。悪魔と契約すると、死後は地獄だとサラッと書いてもあったが、これは聖書が言っている事とも全く一緒だった。死に際に悪魔が迎えに来て、地獄に落とされるらしい。皮肉にも魔導書が聖書は事実である事を証明していた。
聖書で魔術や霊媒に関わってはいけないと書いてあるのはこの為だ。ルールで縛っているのではなく、愛を持っての忠告だった。
「この魔導書が本当だとしたら、メリアお嬢様は霊媒して悪魔と契約して前世の記憶を得ていた事になるね……」
という事もはっきりとわかってしまった。
ヘレンや公爵様が見た日本人女性の幽霊は、儀式で呼び出した悪霊と見て間違い無いだろう。
悪霊が日本人女性の記憶がある事は謎だったが、この魔導書には悪霊の事も書いてあった。
悪霊は、人の記憶や感情を食べ、まるでその人のように振る舞う事も出来るらしい。聖書の時代から生きている悪霊は、過去の記憶が膨大にあるらしい。
レンの事はわからないが、メリアが霊媒をやっている事は間違い無いだろう。
だとしたら、メリアは悪魔に生贄を捧げている事にもなる。魔導書によると、定期的に生贄を捧げないと、契約更新が出来ないと書いてある。メリアがこれからも生贄を捧げ続ける可能性は大いにあった。
「メリアを止めないと!」
この世界から帰る方法はわからないが、メリアがやっている事の謎は解けた。
一刻も早くメリアを止めないと。漫画によると、メリアは前世の知識を使ってカフェ店長として成功し、隣国の騎士にデロデロに溺愛される予定だ。このまま放っておいたら、生贄の新たな犠牲者が生まれるかもしれない。
漫画世界では、前世の記憶を活用し成功する事は羨ましくも見えたが、カラクリを知った今では怖くて仕方ない。
「神様、イエス様……」
カンナの口からは、そんな言葉が漏れていた。今の状況では、神様以外に誰も頼れない。
「カンナお嬢様」
そう思った瞬間、閲覧室の扉が開いた。そこには、レンの姿があった。頬を赤らめて、カンナを見つめていた。




