第11話 綺麗な霊
公爵様の部屋を後にすると、カンナは新たに知った情報を紙に描いて整理していた。
・レンは日本人女性の幽霊を引き連れていた。
・公爵様によるとレンは魔術師の可能性がある。
・公爵様の記憶を操っている?
・メリアに日本人女性の記憶がある事は関係ある?
紙に書いても全く答えは出ない。机の前でうんうん唸るだけでは、かえってイライラしてしなう。
こうしているといつの間にか夜になってしまっていたが、全くお腹は空かない。窓の外を見ると、綺麗な星空があった。絵に描いたように綺麗だが、綺麗過ぎる気もした。
そういえば、この公爵家には大きな書斎があった事を思い出す。漫画の序盤でメリアが書斎で本を読むシーンがあった。この国の魔術師や魔法の歴史も何かわかるかもしれない。
「ヘレン、ちょっといいかしら?」
カンナはメイドのヘレンを呼び出し、公爵家の書斎に案内してもらった。
広い公爵家なので、書斎に行くまでにヘレンと話した。一つ気になる事を聞いてみた。
「ヘレン、聞いてみたい事があるんですけど」
「なんですか、カンナお嬢様」
ヘレンはニコニコとしていた。全く不機嫌になったり、戸惑ったりする様子がない。さすが少女漫画世界というか、やっぱりご都合主義的で居心地が悪い。
「レンについて何か噂知らない?」
「そうですねぇ。あ、そういえばメリアお嬢様と喧嘩しているのを見た事がありますね」
「喧嘩?」
はじめて聞く情報だった。メリアは知らないが、レンは感情的に喧嘩をするようなタイプには見えなかった。
「ええ。私も二人が感情的になったところを見て驚きましたよ」
「他に何か知らない?」
「そうですねぇ」
ヘレンは少し考えた後、知っている事を教えてくれた。
「こんな事を言ったら信じてくれないと思うんですけど」
「信じるわ。教えて!」
今はとにかく情報が欲しい。真偽はともかく、何でも知りたかった。
「メリアお嬢様に幽霊みたいのが憑いているのが見えた事があるんです」
「ゆ、幽霊?」
カンナは急いでポケットの中にある公爵様が描いた例の絵を見せた。何か役立つと思い、この絵は持ち歩くようにしていた。
「それです! こんな幽霊でした!」
「本当?」
ヘレンの言う事が事実ならば、メリアにも日本人幽霊をつけていという事になる。
「実は、私……。幽霊とか目に見えないものが見えたりするんです」
「本当? すごいじゃない」
「気持ち悪くないですか?」
「そんな事無いわよ」
カンナは笑顔で頷いた。実は、キリスト教は「霊」の話と関係が深かったりする。聖書にも目に見えない存在の事が細かく書いていたりするのだ。
父の教会にも霊が見えたり、神様の声が聞こえる人もいた。神様の声が聞こえる事は預言ともいい、そういった賜物がある事は聖書にはっきりと書かれている。もっとも預言については、悪霊の声との見分けが難しく、慎重にしなければいけない点もあるが、目に見えないものを感じたり、見える事は何も不思議な事ではない。神様は何でも出来るお方であるし、奇跡も出来る。ヘレンが霊的に何か見えていたりしても全く嘘とは思えなかった。
「本当? 信じてくれますか?」
「信じるわ。お金とったり悪用はしていないわよね?」
「ええ」
ヘレンはコクリと頷いた。霊的に何か見えたりして、未来を読むとか霊媒をしたら、スピリチュアルやカルトと大差ない。ヘレンはそんな事もしていないようだし、見える事にコンプレックスもありそうだったので、悪用はしていないだろう。その点はホッとできる事だ。
聖書ではスピリチュアル、霊媒や占いは否定的だ。その力は悪霊からのものであり、人を惑わせるものだ。まして霊的なものを利用してお金をとったら、神様に敵対する事にもなりかねない。
「カンナお嬢様には、よくわからないけれど、綺麗な霊が見えます」
「え? 本当?」
「ええ。でもちょっと怖い。怒らせたら、報復されそうな感じ」
もしかしたら、それは聖霊だろうか。聖霊はイエス様を救い主だと受け入れる人に貰える神様の霊と言われている。
「だいからカンナお嬢様は、大丈夫だと思う。守られていると思う」
「そ、そう?」
そう言われると、嬉しく無いわけがない。こんな少女漫画世界にいて、帰る方法は全くわからないが、絶望している場合ではない。
自分にもし聖霊が宿っているのなら、必ず逃れの道がある。聖書にも超えられない試練を与えないと書いてあった。
大丈夫、神様がいる。
そう思うと、力も湧いてきた。とりあえず今は、神様を信じて前に進むしか無い。




