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第3話「ドラゴンという架空生物」


「お腹空いた……」


 ルナの旅の計画は完璧だった。そのはずだった。(まさか、食べ物まで気が回らないとは)食料はすぐに尽きてしまった。途方に暮れながら、足を進めていくと道の先に川があるのを見つけた。ルナは川へすぐさま向かうと、案の定その川は異形の魚が泳いでいた。(……おそらく、黒い雲から直接影響を受けたんだね)

 

 この世界の動物たちは大きく、二種類に分けることができた。ひとつは、ルナがいた世界に住むものと同一のごく普通の動物。もうひとつは、「魔化」した動物たち。「魔化」した動物は、今目の前にいる魚だったものと同じように異形の形をしている。

 

「魔化」とは、この世界の生物全てが持っている魔力を暴走状態に変え、理性を奪うことだ。今ルナの上に広がる黒い雲はいわゆる、魔化の触媒としての役割を果たしていた。

 野生に住む動物たちは、それを防ぐことが出来ず多くが「魔獣化」し、人々を襲うようになったというわけだ。


 (まぁ、魔獣は食べることが出来る方法があるんだよね。気分は乗らないけど……)


 ルナは魚とも言えない魚を手で掴み、陸に揚げると、短刀を取り出して急所に刺し込んだ。すると、じたばたしていた魚は動きを止めた。

(魔獣は死ぬと、魔力を失うからこうやって元の姿に戻るっと)

 目の前にいた異形の魚は、まるで手品のように川でよく見かける美味しそうな魚に変わっていった。


 (まぁ、食べれる。昔はラクスが捌いてくれてたから食べれていたし)


 それでも元の変な姿を知っているせいか、火で焼かれていく魚を見てもちっとも食欲は湧かなかった。


 (食べないと死ぬ。食べないと死ぬから!)


 そう自分に言い聞かせながら、ルナは焼いた魚を口に放り込んでいくのだった。その味は普段食べていた美味しい魚と変わらないはずなのだが、先程の姿を思い出せばどうも美味しくない味がする気がした。


 ・

 (……一お腹は満たせたし、進もうか)

 ルナはぶらり旅をしているわけでなく、一応目的地があった。それは、魔物討伐の任務を引き受けるギルド《十六夜の宿》だった。勇者と言えば、定番はギルド加入だ。ギルドに入ることで金銭面は不安がなくなるし、何よりも情報を手に入れるのにギルドほど便利に越したことはないのだが――

 

「だ、だれか!!」


 どこからか、誰かの叫び声が聞こえた。その声の正体は、川のほとりに居る子供たちだった。ルナは、急斜面を下って、「どうしたの!」と駆け寄った。

「川に……!」

 子供たちが指さしている川の中に、必死に草のような何かを握りながら、もがいている子供がいるのが遠目からでも分かった。


「大丈夫!今助けるからね!」


 ルナは躊躇することなく、川の中へ向かおうとする。すると、「おい、やめておけ」と腕を掴まれた。

 その力は強く、ルナが振りほどこうにも振りほどくことは出来なかった。「離して!」とその引き止めてきた人物を睨みつけるように見る。

 ――顔から胸元目掛けて赤い刺青が入った、緑髪の女性だった。その背中に大きな槍を背負っていた。赤い瞳が、見下ろすようにルナを見つめる。


「おい、そこのお前たちが勝手に助けろ」


 ルナを向いたまま、筋肉質の女性は子供たちへ投げかける。

 

「うちは見ていたぞ。あのチビを突き落としたのは、お前たちだ。魔獣たちがうじゃうじゃいる川につき落とせば、どうなるかくらい分かっていただろ」


 子供たちの顔は図星と言わんばかりに更に青ざめていく。「わかったか?うちらに助ける義理なんてない」と、ルナを引き止める手は更に力が強くなっていくようだった。


「離して」

「今の話を聞いていたのか!」

「それはあの子を助けない理由にはならない!」

「うちの目の前でわざわざ死に生かせる真似はさせねェぞ!自己満足も大概にしろ」

「あぁ、そうだ!自己満足だ!!自己満足に決まってるじゃん!そもそも、名前も顔も知らない誰かを助けようとするなんて馬鹿がすることだ!」


 (「勇者」なんて、「馬鹿」だ。

 だって、大して役にも立たない村娘を守って勝手に死んだ「勇者」を私は知っているから!)


「でも、私はその「馬鹿」になりたいんだから、ここで助けるしかないでしょうが!!」


 ルナは、その力が緩んだ刹那、強く腕を振り上げて振りほどくと、駆け抜けるように川へ飛び込んだ。


「おい、待て!」


 子供の元へたどり着くと、ルナは子供の体に己が着ていた上着の袖を体に巻き付け、浮き輪代わりにし、その体を抱き抱える。子供は安心したように大きな声で泣き始めた。


「その声が出るならまだ大丈夫そうだね。……あとは」


 (……下に何かいるな)


 歴戦の勘が、歴戦と言うほど戦いはしていないが、ルナは子供と己が浮かぶ川の深い底に得体の知れない何かの気配を感じた。同時に、ルナたちへ狙いを定めていることも。

 

 (これをどうしようにも、この子を先に陸に上がらせないと)


 ルナは子供を引っ張りながら、手で水を掻き分け、川岸へと向おうとするがなかなかたどり着かない。

 

 (……何かがおかしい。……水流の向きが渦上になっている?!)

 

 気づいた時には既に時は遅し。「それ」は天を登るように水底から駆け上がり、地上の世界の空気を吸い始めた。その余波である大きな水飛沫がルナたちへ覆い被さるように落ちていく。


「あ、あ……ど、ドラゴンだ……!!」


 子供はその姿を見て、みるみる顔を青ざめていく。この世界に、ドラゴンは存在しない。絵本に出てくるような架空生物としか知られていない。もし、「ドラゴン」と呼ばれる存在があるというのならそれは――元はなにかの動物だった魔獣でしかないのだ。


「風よ!!」


 ルナは咄嗟の判断でそう叫ぶと、共に居た子供は風に吹き上げられたように飛ばされ、岸に投げられた。

 

「早くその子を連れて、ここから離れて!」


 ルナの言葉に、ほかの子供たちは必死に頷き、少しでも遠くへと走り逃げていった。


 「グルゥウウウウウウ!!!」


(……ただの魚が、魔化でここまで肥大化するわけない!おそらく、魔化したほかの動物たちをそのまま喰らったのか。なんでいきなりこんな大物と当たるの!)


 ルナは、己の運の悪さを恨みながら腰に携えた剣を水の中で取り出そうとするが、水圧で上手く引き抜くことが出来なかった。(……さすがに、水中戦で剣は難しいか。それなら……!)

 

「ったく、ここでドラゴンとやらを目にして見逃すなんて、狩人の名が廃るんだよ」


 赤い刺青の女性は、そう呟くと、肩に背負っていた槍を取り出し、刃を覆っていた袋を地面に叩きつけた。

 

「おい!さっきの魔法をうちに飛ばせるか!3回だ!3回でいい!」

「え、あ、任せてください!」


 1回。2回。3回。己を狩人と言った女は、ルナの風の魔法をタイミング合わせるように踏み台にして、水の上の空を駆け上がる。ドラゴンの正面と対峙すると、口の中で何かを溜め込んでいるようだった。(……こいつ、魔法を使えるのか!くそ、少しでも隙があれば……)

 

「雷霆よ!……いっ、まで……す!」

 

 ルナの叫び声と共に、ドラゴンは体を一瞬、動きを止めた。狩人は、その拍子にドラゴンの口の中の魔法のエネルギーが分散し、開いた瞬間を見逃さなかった。

「今だ、これでもくらえ!!」

 空から落ちる流れに身を任せて、槍の方向を定めると、ドラゴンの喉元目掛けて貫くように突き刺した。


 「グォオオオオオ!!!!」


 大きな呻き声をあげる。


「……こちとら、急所はわかってんだよ!」


 暴れるドラゴンに振り回されることなく狩人は、更にその槍を奥深くへ突き刺していくと、やがて呻き声は小さくなっていき、体を覆っていた硬い鱗たちは溶けていくように消えていった。

 

 ドラゴンの正体は、少し太めのイモリだった。彼女に息を止められたあと、鱗と同様に厳つい角や鋭い爪たちも合わせて消滅していった。

 

「おい、上がれるか」

「……む……りそ……」


 (そりゃそうか、あんたも雷を体に浴びたからな)

水中の中で何とか浮いているルナに声をかけると、その声は啖呵を切った時に比べ、あまりに弱々しかった。

 正直、あそこまでやれる奴だと狩人は思っていなかった。水は雷を伝導しやすい。水の中に雷の魔法を撃ち込めば、大きな魔獣だとしてもその痺れは全身に伝わる。ましてや、首から下が水に浸かっている人間はその反動は想像を絶するものだろう。寧ろ、今意識があるのが驚きなくらいだ。

 狩人は、川に飛び込むとそこで何とか浮いているルナを引っ張り、岸まで引き寄せた。

 

 (……とんだ度胸を持っている奴に出会ったな)


「……らすかり……ました」


 まだ痺れが残っているようで舌足らずのように、ルナは言葉を発した。「ほら、これ飲めよ」と、雑にルナの口の中に、 荷物にあった袋から取り出した謎の液体を流していくと、ルナは自らの手でグーとパーを繰り返し、「あ、治った!」と叫んだ。


「あんた、名前は?」

「ルナ。ルナ・ラクス……です」

「うちは、メリンダ・コートだ。さっきは悪かったな。お前のことを見くびっていたよ」

「私の方こそすみません……。メリンダさんが助けてくれなかったら、あのまま死んでいたかもしれないし」


 本当にその通りだ。ルナは勇者では無いし、聖剣を使うことは出来ず、魔法も独学のせいか、簡易な魔法しか使えない。先程の行為は誰かに非難されても仕方ない、無茶または無謀というものだった。しかし、そんなルナの反省に対して、「いや、うちもあんたの魔法のおかげで助かったぞ」とメリンダは首を振った。

 

「あれは、うちのギルドでもS級に指定されていた魔物だからな」

「……S級……え、ギルド?ギルドってどこの!」


 メリンダの正体だとか、S級とか、色々聞きたいことはあったが、『ギルド』という言葉にルナは反応せずには居られなかった。


 (まさか、まさかとは思うけど!もし、『そう』なら、これはさっきの不運を幸運に変えてくれるかもしれない……!)


 必死に詰め寄るルナに、予想外だったメリンダは落ち着け落ち着けと宥めるように、「《十六夜の宿》っていうギルドだが」と返した。

 

「メリンダさん……いや、メリンダお姉様!!私をそこに連れて行ってくれませんか!!」


 (……あぁ!運なんて悪くなかった!寧ろ幸運だ!!なんて最高な日だ!)


 ・

 勇者というものは、徐々に強くなっていくものだ。物語の中盤で出てくるボスなんて倒すことは出来ない。出会ったとしても、そこは負けて、リベンジするために敗北を糧に更に鍛錬を始めるものだ。その敗北がなければ、勇者はいつまでたっても強くなれないだろう。


『そんな訳ないだろ。ルナは、「勇者」と違って、旅を始める前から必死に努力していた。だから、これからも強くなってくれるだろう』

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