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結婚式

作者: 鴉河異

「ん…」

私は頭の痛みで目を覚ました。

時計を見ると、10時を指していた。

そうか…。

充の帰りを待ってて…寝ちゃったのか。

充はまだ帰ってきてないのかな…。

私は重い体を起こした。

部屋を見回すが、人の気配は無い。

まだ…帰ってきてない…。

私は何だか急に淋しくなってきた。

最近、充はたまに帰りが遅くなることがある。

本人は仕事が忙しいって言うけど…正直信じられないところがある。

だって、一緒に住みだして、最近までそんなこと無かった。

ここ2ヶ月くらいかな…帰りが遅くなりだした…。

浮気…してるのかな…。

私がそんなことを考えていると、携帯が鳴った。

画面を見ると、充からのメールだった。

『今から帰るよ』

内容はそれだけだった。

あと数週間で結婚式だって言うのに…このままでいいのかな…。

「うっ…」

再び痛みが私を襲う。

その痛みは、次第にひどくなっていく。

ご飯の用意しなくちゃいけないのに…。

充が…帰って…きちゃ…う…。




「歩?」

気がつくと、私はベットに寝かされていた。

横には、心配そうに私の顔を覗き込む充が居た。

「大丈夫?リビングに倒れてたからびっくりした」

倒れてた?

私確か…頭痛がひどくなって…でもご飯の用意しようと思って…。

ダメだ…覚えてない…。

「歩?まだどこか痛んだりするの?」

黙り込んだ私を心配して、充が私の手を握る。

「ううん。大丈夫」

私は笑顔で言った。

「そう?でもあんまり無理しちゃダメだよ?」

そう言いながら、私の髪を撫でる充。

その顔は、心から私を心配しているようだった。

「うん…ありがと」

私は、充の肩にもたれかかった。

そんな私を、充は大切そうに抱きしめる。

浮気なんて…してないよね…?




次の日。

仕事も休みだったので、念のため、病院に行ってみることにした。

だが…

「特に悪いところは無いねぇ…」

病院の先生は首を傾げる。

「でも、昨日頭痛がひどくて倒れたんです」

私がそう言うと、先生はより一層首を傾げた。

「一応、CT撮ってみるかい?」

先生は、私のほうに向き直りながら言った。

「それで、あなたが安心できるのなら、やってみましょう」

余程私が心配そうに見えたのか、先生が気を使ってくれたのだが、出た結果に変化は無かった。

「たぶん、ストレスとか、疲れが原因だと思うから、あまり自分に負担かけないようにして」

ストレス…。

「とりあえず、痛み止め出しとくから。酷いようだったら、また来て下さい」

結局私は、納得した結果を得られないまま、病院を後にした。

別に、病気になりたいわけではない。

だけど、原因がストレスと言われても…。

思い当たるのは…充のことしかない。

私的には、ストレスになるほど、気にしていたつもりは無いんだけど…。

まぁ、しばらく様子を見るしかないか…。




数日後。

私は、浮気のことを充に聞いてみることにした。

「はい、してます」とは、言わないだろうけど、さすがに動揺するの位はわかる。

このまま考えていてもしょうがないし。

「ねぇ…充、私に何か言うことない?」

「は?」

彼は私の発言の意味がわからないようで、きょとんとしている。

「何か最近様子がおかしい気がするんだよね。落ち着かないっていうか」

彼の目が一瞬泳ぐ。

私はそれを見逃さなかった。

「そんなこと無いよ。落ち着かないのはもうすぐ式があるからだよ」

苦しい言い訳。

「正直言うと、浮気してるんじゃないかと思ってたりする」

彼は平静を装っているようだが、私も馬鹿じゃない。

彼が動揺を隠そうとしているの位わかる。

「浮気なんてしてないよ。前にも言っただろ?俺は歩以外の異性には何の感情も持てないって」

「それはそうだけど…」

何かあると、必ず言う充の言い訳。

本当のことなのはわかってるけど、こういう時に出されると、真実味が無い。

でも、彼は何としても隠そうとしているらしい。

「なんか納得いかないけど…今回は私の勘違いってことにしとくよ」

このまま話し合っても埒が明かない。

私はそう判断し、この話題を終わらせることにした。

「本当に勘違いなんだけどね」

…そこで念を押すから余計に信用できないんだってば…。

「そうだといいけどね」

私はニッコリ笑っていった。

仕方ない。

きちんとした証拠が出るまでは、この話はしないでおこう。

きっと、何も先に進まないだろうから



その日から、充の帰りが遅くなることが無くなった。

私を警戒してるのか、バレたと思って別れたのか…。

どちらにせよ、せめて結婚式が終わるまではおとなしくしていてほしかった。

最近、薬のおかげか、頭痛もなくなってきたし。

やっぱり原因はストレスだったのかな…。

なんにしても、結婚式だけは何事も無く迎えたかった。




しばらくたったある日。

二人でテレビを見ていると、充の携帯が鳴った。

「充。電話鳴ってるよ」

「うん」

私が言うと、充は携帯を見た。

一瞬眉をひそめたが、何事も無かったように電話に出た。

「はい。海老原です」

彼は営業の仕事をしているから、家に居るときに電話がかかってくることはいつもだった。

「はい。お疲れ様です」

一緒に居るときと少し違う、お仕事用の声。

意外と、男らしくて好きだったりする。

「はい。失礼いたします」

終わっちゃった…。

「お仕事?」

私は、充の方を向いて言った。

「うん。お得意さんからの電話」

充は、携帯をいじりながら答える。

…怪しい…。

「そっか。営業さんは大変だね」

私は、満面の笑みで言う。

「まぁね」

彼はそう言いながらも、少し携帯を気にしているようだった。




その日の夜。

夜中に充の起き上がる気配で目を覚ました。

声をかけようと目を開けると、携帯を手に、寝室を出る充の姿があった。

トイレに行くのに携帯って必要?

タバコならここでも吸えるし…。

耳を澄ますと、廊下から話し声が聞こえた。

何を話しているかはわからないが、充の声がいつもよりも冷たく聞こえる…。

誰と話してるんだろ…。

私の心臓が、不安で早くなっていく。

聞きたい…。

誰と話してるの…?

気になってしょうがない…。

少し近くに行ってみようかと思ったとき、寝室のドアが開いた。

電話を終えた充が帰ってきたのだ。

私は反射的に、寝たふりをした。

「ん…。充…トイレ?」

私が聞くと、充は迷わず答えた。

「うん。トイレ」

充の唇が、私の唇に触れる。

「ふふ…」

私は、不安を消すように、充に抱きついた。

「もう寝な」

そう言いながら、充は私の布団をかけなおしてくれる。

「うん…おやすみ」

とは言ったものの、寝れるはずが無い。

今でも心臓が、ドキドキいってる。

充を信じたい。

でも、不安要素が増えていく。

…私、どうしたら良いんだろう…。




それから毎日、眠れない日々が続いた。

また充が誰かと電話に行くんじゃないかと思うと、なかなか寝付けなかった。

そんなこととは知らず、充は隣で気持ち良さそうに寝てる。

あの日だけだったのかな…。

何か…疑心暗鬼になってる…。

こんな自分…やだな…。




悩んだ末、私は思い切って紗江に相談することにした。

紗江は、昔からの友達で、充も仲がいい。

紗江ならきっと、いいアドバイスをくれるはず。

私は紗江に電話をかけた。

紗江は、すんなり了承してくれ、その日の夜に食事をしながら聞いてくれる事になった。


ピンポーン


「はぁい。」

私がドアを開けると、そこには紗江が立っていた。

あれ…?

紗江とは外で待ち合わせをしてたはず…。

「どしたの?待ち合わせは…」

私が話し終わる前に、紗江が口を開いた。

「うん。まだ時間早いんだけど、予定が早く終わっちゃったから」

紗江はにっこり言った。

「そうなんだ。まぁ、上がってよ」

「ありがと」

私は紗江を家にあげた。

正直、充の話しだし、充には見つかりたくなかった。

だから、外で待ち合わせにしたんだけど…。

しょうがないか…。

充が帰ってくる前に出ればいいわけだし。

そんな考えを巡らせていると、紗江が思わぬことを口にした。

「今日、充さんも誘わない?」

私は呆気にとられて何も言えなかった。

だって、紗江は今日の話の内容知ってるはずなのに…。

「歩は嫌かもしれないけど、やっぱり本人同士で話し合うのが一番だと思うんだよね。私が間にはいるし」

どうやら紗江は真剣にそう思っているらしい。

私のこと考えてくれたのかな…?

「話しづらいのはわかるけど、結婚式も近いんだし、すっきりさせたいでしょ?」

笑顔で話す紗江。

なんか…いつもの紗江と違う気がする。

いつもはこんな強引なやり方しないのに…。

そう思いつつも、確かにそうかと納得し、充が帰ってくるまで、二人で待つことにした。





数時間後。

充が帰ってきた。

「あっ!おかえり」

私が充に駆け寄ると、充はニッコリ微笑む。

「ただいま」

しかし、紗江の姿を見て、一瞬顔が曇ったような気がした。

「お邪魔してます」

紗江が軽く挨拶する。

「ども…」

そう返事をする充の顔は少し引きつっていた。

「紗江が遊びに来てくれたの」

私は、あえて嘘をついた。

元々行こうとしてて誘ったというより、誘いやすかったのだ。

「それでね、今から3人でご飯食べに行こうかって話してて」

私が言うと、少し間をおいてから充が答えた。

「俺はいいよ…」

内心ホッとしたが、やはり断られるのは少しさびしかった。

「そう?もしかして明日朝早いの?」

充は少し困った顔をしながら、私の頭を撫でた。

「あぁ。ごめんな」

「仕方ないよ。仕事だし」

私は精一杯の笑顔を見せた。

「ということなので、今日は二人で行こうか?」

私は紗江に向き直り言った。

「そうだね。いつでも行けるしね」

そう言った紗江の目には、充が映っていた。

「…」

充は何も言わない。

私はそんな二人を見てるのが、少しつらかった。

「あ…。でも、充の夕飯どうしよう?」

空気を変えようと、充に話しかける。

「俺は大丈夫だよ。適当に食うから。楽しんできな」

充の顔は、複雑な笑顔を浮かべていた。

この二人、何かあるのかな…?

「わかった」

私は、少し不安を覚えながらも、寝室に着替えに行った。

「よし、じゃぁ行こうか?」

数分後、私は紗江を連れて家を後にした。




私たちは、昔からよく行く居酒屋へ向かった。

でも、正直、紗江の本当のことを話そうか迷っていた。

さっきの二人の行動が私の頭を離れなかった。

居酒屋に到着し、注文を済ませると、紗江が話を切り出した。

「で?充さんが浮気してるって?」

紗江は、私の目を見て言った。

仕方なく、正直に話すことにした。

「うん。最近帰りが遅いこともあるし、この前は夜中ベッドを抜け出して電話してた。内容聞いたわけじゃないから、なんとも言えないんだけど…」

紗江は黙って聞いている。

「私が…」

紗江が何かを言おうとしたとき、注文していたビールが届いた。

「お待たせしました。生中です」

私は店員さんからそれを受け取り、紗江に渡す。

「今、何て言おうとしたの?」

私が気くと、紗江は黙って首を横に振った。

「とりあえず、乾杯しよ」

紗江はにっこり笑って言う。

今…何て言おうとしたんだろう…?

気にはなったものの、なんとなく聞けなかった。

その後、充の話以外にも色んな話をした。

でも、たまに紗江がボーっとしているときがあった。

聞いてるのかと聞くと、聞いてるとは言うものの、どこか、上の空だった。

酔いもいい感じに回ってきたころ、時計を見ると、もうすぐ12時を指すところだった。

「あれ?もうこんな時間じゃん」

私が言うと、紗江も時計を見る。

「ホントだ。そろそろ帰ろうか?」

「そうだね」

私たちは、残ってたサワーを飲みほし、居酒屋を後にした。




玄関を開けると、充が出迎えてくれた。

「おかえり」

充の笑顔が嬉しくて、私は充に抱きついた。

「みつるぅ!ただいまぁ!!」

充が私を抱きとめる。

「飲んできたの?」

彼が聞くのをよそに、私は充にキスをした。

「うん。少し飲んできちゃった」

「そっか」

彼は私の頭を撫でる。

「歩、風呂はどうする?入るか?」

一瞬入ろうかとも思ってけど、もう寝たかった。

いい気分のまま…。

「もうねる。みつると一緒にねるぅ」

私は充を抱きしめる腕に力を込めた。

「じゃぁ、ベット行こうか。荷物、俺持つから」

充が私の荷物を持つ。

「ありがと」

私は笑顔で言った。

なんだか充の顔が赤くなった気がしたけど…気のせいかな。

私はベッドに入ると、すぐに眠りの世界へと落ちていった。




次の日。

朝起きると、少し頭が痛かった。

たぶん二日酔いだろうと思い、気にせず、朝ごはんの用意を始めた。

しばらくすると、頭の痛みもとれ、なんだかスッキリした気分になった。

なんだろ…?

昨日飲んだからかな?

支度が終わると、私は充を起すために、寝室へ向かった。

充は朝が弱く、起すのはいつも一苦労だ。

しばらく起し続けていると、やっと目を覚ました。

「やっと起きた。おはよ。朝ご飯できてるよ」

そう言いながらカーテンを開ける。

「歩。昨日、紗江は途中で帰ったのか?」

唐突に聞かれた質問に、私は不安を覚えた。

昨日、二人のやり取りを見たときと同じ不安。

「何で?ずっと一緒にいたよ?」

私の言葉を聞くと、充は意外そうな顔をした。

「あ…そっか。昨日コンビニ行った時に似た人見たからさ。」

似た人?

ホントにそうなんだろうか…。

不安はどんどん大きくなっていく。

「ホントに似てたんだね。充が見間違えるなんて。」

私は少し嫌みっぽく言ってみた。

が、充はそれほど気にしていないようだった。




その日のお昼ごろ。

式場から、最終確認の電話が入った。

私は、電話をしながら、このままでいいのか悩んでいた。

確かに充のことは愛してるけど、浮気を許せるほど大きな人間じゃない。

もし浮気してたら…?

私、きっとどうしていいかわからなくなる。

でも、このままじゃ嫌だ。

私は、電話を切り、充と話し合おうと決めた。




夜になると、私は時間を見て充に電話した。

『もしもし?』

充はいつものように電話に出る。

「もしもし?充?今日何時ごろ帰ってこれる?」

私はあえて明るく振舞った。

『今日?もうすぐ帰るよ』

柔らかく答える充。

「わかった。今日ね、式場から電話があったから、その事話したいなと思って」

嘘。

本当は話し合いたいくせに…。

『そっか。わかった。すぐ帰るよ』

そう言って電話は切れた。

少し罪悪感はあったけど、早く帰ってきてほしかった。

今日くらい…。




数分後。

玄関が開く音がしたので、私は出迎えにいった。

「おかえり!!」

明るく振舞えてるかな…。

「ただいま」

私は、充の荷物を受け取る。

「あのね、今日式場の人から電話があったの」

できる限りの笑顔で話す。

「そうなんだ。式場の人なんだって?」

充は、スーツを脱ぎながら、私の話を聞いている。

「うん。最終確認の電話だった。別に特別なことを言われたわけじゃないんだけど、ついに結婚するんだなぁって思ったら、早く充に会いたくなっちゃって」

こんなこと言うの、さすがにちょっと恥ずかしい。

「そっか」

充が私を抱きしめようと近づいてくる。

「あとね」

私はそれを制止する。

「充とちゃんと話し合っておきたいと思って」

充は少し複雑な顔をした。

「何を?」

恐る恐る聞く充。

「浮気について」

私ははっきり言い放った。

「俺は浮気なんか…」

まただ…。

「それは聞き飽きたの」

もう、嘘なんか聞きたくなかった。

「そういう言葉が聞きたいんじゃないの。もっとちゃんと話し合いたいの」

私の言葉に、充は切なそうな顔をした。

そして、私を抱きしめる。

「ごめんな。でも、信じてくれ。俺は浮気なんてしてない」

私は黙って充の言葉に耳を傾ける。

「今何を言っても、言い訳に聞こえるかもしれない。でも、これが本当のことなんだ」

充…。

苦しそうな充を見ていると、何だか私の胸も苦しくなってきた。

「わかった」

充から離れ、目を見て話す。

「充のこと、信じる」

今度は、私が充を抱きしめる。

やっぱり信じることが一番なんだよね。

疑って、探り合ったって幸せにはなれない。

「愛してる」

私は、呟くように言った。

「俺も…愛してる」

充はそういいながら、私に唇を重ねる。

この温もりは手放したくない…。

だから、信じよう…。

充のこと…私たちのこと…。




***結婚式 当日***


今日は朝から頭が痛かった。

最近落ち着いていたはずなのに…。

どうして今日に限って…。

私は、前に病院でもらった薬を飲んだ。

これで、落ち着くといいんだけど…。




式場に着くと、早速準備に取り掛かる。

準備が終わり、控え室で待機していると、充がやってきた。

「…」

充は何も言わず、入り口で立ち尽くしている。

「何か言ってよ…。恥ずかしい…」

見つめられると、さすがに照れる。

「…綺麗だよ」

やさしく笑う充。

「充も…かっこいいよ?」

私も笑顔で言った。

「俺…幸せだわ」

急に言われたので、私はきょとんとしてしまった。

「ありきたりな言葉かもしれないけど、歩と結婚できることがすごく幸せだと思う。不安にさせたりもしたけど、これからは俺が歩のこと幸せにしていくから」

充が私を抱きしめる。

「うん。ありがと」

充の言葉が嬉しくて、私の視界がぼやけていく。

「ほら、まだ泣くなよ。化粧が取れちゃうだろ」

充は私の涙を拭う。

「うん。そうだね」

二人で笑いあっていると、充の携帯が鳴った。

「おっと。ちょっと出てくるな」

そう言って、充は控え室を後にした。




式が始まると同時に、私の頭痛は酷くなっていった。

頭がガンガンする。

でも、みんなに心配かけたくないから…もう少しがんばろ…。




披露宴が始まり、少しすると料理が運ばれてきた。

私はその匂いに吐き気を覚えた。

「どした?」

私の様子を見て、充が声をかけてくれる。

「うん…朝からなんか体調悪くて…」

私は正直に言った。

もう隠しても仕方ないから。

「大丈夫か?少し休憩入れてもらうか?」

充は心配そうに私の顔を見る。

「大丈夫。少しすれば落ち着くと思うし、みんなに心配かけたくないから」

私はできる限りの笑顔で言った。

「わかった。でも、ダメだと思ったらすぐ言えよ?」

充のその言葉が、今の私にはとても嬉しかった。




「それでは、皆様お待ちかねのケーキ入刀です。カメラをお持ちの皆様は、前のほうへお越しください」

司会の人が声をかけると、みんながぞろぞろと前のほうへやってきた。

なんか動物園の動物の気持ちだわ…。

「それでは、どうぞ!!」

司会の人の声を合図に、ケーキにナイフを入れる。




ボキッ




とても嫌な音がした。

よく見ると、ナイフが折れていた。

…なんで?

「あ…えっと…皆様、すみませんがお席にお戻りいただけますか?次のお料理をお運び致します」

司会の人は、動揺しつつも、みんなを席に戻した。




数十分後。

私たちは、お色直しのため、控え室に居た。

体調はどんどん悪くなっている。

頭痛と併せ、吐き気も酷くなっている。

最後まで持つかな…。

そう思ったとき…




「………させない…」




不気味な声が聞こえた。

辺りを見回しても、誰も居ない。

なんだったんだろ…?

気の…せい…?




会場に戻ると、そのままキャンドルサービスが始まった。

正直、歩くのはかなり辛かったけど、充がさりげなくフォローしてくれたので、なんとかなった。

そして、後はメインキャンドルのみになった。

「では、お願いします」

司会の人の声と共に、キャンドルに火をつける。

「ありがとうごいます。皆様大きな拍手をお願い致します」

みんなが口々に「おめでとうと言いながら拍手をしてくれる。

私たちは、嬉しくも、恥ずかしく、顔を見合わせて笑った。

その時。

「…?」

キャンドルの前を何か白い影が通った気がした。

と、同時にメインキャンドルの炎が消える。

「!?」

それに気づいたアシスタントの人が、もう一度つけるように指示する。

司会の人は、何事も無かったかのように、進行を続けた。

…今のなんだったんだろう…?




披露宴も終わりが近づき、あとは充の挨拶を残すのみとなった。

充は、少し緊張しながら、昨日一生懸命覚えた言葉尾口にしていく。

「今日は、私たちのために、お忙しい中…」

「………ない……」

今…何か聞こえた…?

「ご来場頂きまして、ありがとうございました」

「……させない…」

…何か気持ち悪い…。

「まだまだ未熟者の私たちですが…」

「…なんかさせない…」

この声…さっき…。

「これからも皆様のご指導と…」

「幸せになんかさせない…」

その声と同時に、マイクが嫌な音をたてた。




キーンッ




その音で、私は倒れてしまった。

横では、私を呼ぶ充の声がする。

そして、薄れ行く意識の中、あの声が私を責めるのだった…。




「幸せになんかさせない…」

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