一回戦 第一シングルス
ベンチに戻ってすぐ確認した第一シングルス状況は……実に圧倒的なものだった。
「え……?!もう一ゲーム目終わってるんですか?!?」
「はい。二ゲーム目も見ての通りです」
スコアボードの数字は……12-1。嘘!そんなことあります?!
相手も頑張っている。今だってこの点差でもなお投げ出すことなくシャトルを追っていることからもそれは明らかだ。だけど、それでも幹人先輩が強すぎる。縦横無尽にコートを駆け回り、キレッキレのショットを連発。この一瞬の間にも追加点が入っている。
このゲームとれば晴風の勝利が確定するからだろう。第二シングルスはまだ審判からコールされていない。空いたこっちのコートに入らず幹人先輩たちの第二ゲームの結果待ちをするみたいだ。
「ナイスショット!」
一人で現状を整理している間にも、また点が入ったみたい。隣にいた小夜川の声援で現実に引き戻される。わ、あと一点?!
「先輩!もういっぽーん!」
応援に参加する暇もほとんど無く、最後はロングサーブを相手がドロップで返し損ねて浮いた球を幹人先輩がプッシュでたたき込んだ。
「ゲーム!マッチワンバイ晴風高校。21-3、21-1」
うっわあ……。圧倒的な試合だった。でも見ていて嫌な気分にならないというか、相手へのリスペクトを感じるから幹人先輩は凄い。
「ってことはこれで……?」
「一回戦突破、ですね?」
コーチと先生もあまりにスピード感のある展開に理解が追い付いていないのか、会話が疑問形だ。そうだよね。今幹人先輩の方にあるベンチに移動しようとしてたのに、そんな暇もなくとんでもない速さで勝利決まっちゃったもんね。
こうしてちょっと拍子抜けすらしそうなくらい、最後はあっさりと晴風高校の一回戦突破が決定した。勝利を決めた幹人先輩ご本人は、
「うん、調子いい感じどころか絶好調!勝ち進めばいっぱい試合できるし楽しみだな!」
とのこと。プレッシャーの「プ」の字もない。
最初と同じように、お互いコートに入ってネット越しに向かい合う。涙と鼻水でズルズルの二人……天川島さんと乃木さん。
「君たち!我々に勝利したからには絶対にこの後も勝ち上がってくれたまえ!」
「僕たちの分まで、頼んだよ!」
お、おお……。
チームメイトを応援しているところや今の様子を見て、彼らも彼らのやり方で必死にバドミントンと向き合っているのは伝わってきた。いかんせん色々が個性的すぎてそれがかすんじゃうけど……。
「お前ら、晴風さんを困らせるな!……強かった。完敗だ。今度は勝つ」
そんな二人をたしなめる今井さん。部長?主将?は天川島さんだって話だけど、実質まとめているのは今井さんなのかもしれない。
「注目、礼」
『ありがとうございました!』
主審の号令で挨拶と握手を済ませ、コートを出る。
二回戦の相手は……一回戦シードの雷山高校。かつて晴風が強豪だった時代のライバル校だ。詳しくは聞いていないものの、何やら涼先輩は因縁があるみたい。
小夜川情報によれば攻撃力の高いチームらしいけれど、はたしてどんな試合になるだろう。
「まずは初勝利おめでとう。理想的な展開でした。それぞれうまくいったこと、反省、色々あるとは思いますが考えるのは後。次の試合もあるので一度上に戻って休んでいてください。オーダーについては追って話しに行きます」
チームとして公式戦で初勝利。まずは一歩前進だ。じわじわとやって来た嬉しさを噛みしめながらも、コーチの言うとおり今意識すべきは次の試合。
さっきまで立っていたはずのコートでは、もう既に次の試合がコールされている。
どこからか泣いている人の声。時刻はまだ午前中。一年、二年、あるいは三年かけて積み上げてきたものが終わるのは、案外一瞬だ。他の誰かが喉から手が出るほど欲しかったはずの先へ進む権利。それを手に入れたからこそ、それに恥じない試合がしたい。
「ええと、何度も伝えていますが私からは技術的なことに関しては何も言えません。ですが今の試合、見ていてとてもワクワクしましたし次はもっと良い動きをしてくれると確信しました。しつこいようですが水分はしっかり取っておいてくださいね。それでは一度解散!」
余韻に浸る間もなく先生とコーチに見送られて、客席へと急いだ。
祝!一回戦突破!!!!!!!
やったーーーーー!!




