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一回戦 第一ダブルス その2

 「もう一本!」なんてピッタリ声も揃ったし、二人ともここ最近で一番動けてる。間違いなく良い流れがぼくらに来ている。

 この一点を取ればスコアの上では勝利に近づくことは間違いない……んだけど。ゲーム後半へ向かうにつれて、決めきれないラリーが増えてきているのが引っかかる。なんというか、点差ほどの余裕を感じないというか。


 流石に筑波さんもある程度高い球への対応も出来るようになってきているけれど、それでも今回は展開が早い簡易ゲームだからもう遅い。このゲームは押し切れる。

 でも、どうしてだろう。このままじゃいけない気がする。


 相手がシャトルの交換を希望したから、思っていたより次のラリーまで時間が出来た。それならちょっと違和感の正体を探してみよう。



 現在スコアは14-8。サーバーはぼく。レシーバーは今井さん。

 前へ出ることに躊躇がない彼に対して、半端なショートサーブは打てない。きちんと狙わないと即失点に直結することは、ここまでの攻防でわかっているから。


 そしてここまで取られた点数の内半分以上は、ほんの少し緩くなったサーブを即前に出て叩かれるか、叩かれた球を拾うも完全に体勢を整える時間が作れずに気づけば決定打を打たれるかのどちらか。そしてその他のパターンでもほぼ今井さんに取られている。


 取られたラリーの中でも記憶に残る数回を振り返ってみよう。


 例その①

 好調だった天野君のサーブに対して、ネットにかかるスレスレなドライブで返された。ぼくが苦し紛れに出したラケットに当たりはしたものの、半端なところに飛んで叩かれて一点。


 例その②

 レシーバーのぼくに対して、低めのロングサーブ。ここまで使われてなかったから不意を突かれて、動きが遅れた。下がっても落下点に間に合わない。そう判断して腕だけで無理やり返球。サーブした筑波さんがいる位置とは逆に落としたから、ちょっと浮いたけど体勢を立て直す時間くらいは稼げると思ったんだけど……。残念ながら前に出てきた今井さんにプッシュされて失点。


 例その③

 これは一番直近の失点で、一番嫌な点の取られ方をした。

 

 サーバーは天野君。ショートサーブを筑波さんがロブで上げると、軌道を目で追い少し浅いと判断したのかそのままシャトルを追って下がってきた。それならばと入れ替わるようにぼくが前に。

 ジャンプして打つ球は強力な武器だけど、普通に打つよりも運動量は当然増えるからその分体力を消耗する。そのため連戦を見越すなら、使いどころはよく考えないといけない。だからだろう。天野君は序盤に何回か見せて相手を揺さぶった後はほとんど使っていない。警戒が薄れてきているだろうし、ぼくだったらこのあたりでもう一回打つけどどうだろう?そんなことを考えながら、相手の動きを見つつ背後にも意識を向ける。……飛ぶために踏み切る音は聞こえてこない。と、いうことは……?

 代わりに聞こえてきたのは、パァン!と乾いた音。シャトルが近くを通った気配もしないってことは、クリアだ。

 ぼくがそう判断するのとほぼ同時。「あげたよ」って言葉と共に後衛からすこし前に出てくる天野君。ぼくも相手の攻撃に備え斜め後ろに下がって、二人横並びになる。こちらはストレート側に返球したから、当然ロブを上げた筑波さんが真っ直ぐ下がって返球してくるとぼくも天野君も思っていた。だってそれがセオリーだから。シャトルに近い人が取るのが当然、誰だってそう考えるはず。

 だけど、実際は違った。「とる!お前が前でろ!」そう端的な指示を飛ばすと同時に、すごい勢いで移動する今井さん。わざわざシャトルから遠い彼が取りに来るとは全く思っていなかったから、完全に不意を突かれた。


 こちらに背中を向けるような体勢。ハイバック……!


 今までの立ち回りとこのときの状況からして、体勢を立て直すためのハイクリアに誓い軌道がくると確信していた。

 オーバーヘットストロークが不調な筑波さんをカバーして、わざわざ遠い位置にいた今井さんが取りに来た。いくら彼が速いとはいえ、動き出しが遠い時点でシャトルを捉える位置は低くなる。そうなるとスマッシュやドロップみたいな角度をつける球を打つのは厳しいし、一度立て直すためにもクリアを打つはず。ぼくも、そしておそらく天野君も、そう思って次の攻撃へと意識を向けていた。

 そんなところにネット際、センターラインの直線状じゃないかっていうくらい綺麗など真ん中に落とされたから驚いた。まさかここでほとんど得点源や攻撃のきっかけになっていなかったネット前に落とすショットを使ってくるなんて!?


「あっ!」

「えっ……」


 それでどっちが取るか迷ってお見合い。そのままシャトルはコロン!と可愛い音を立てて落ちた。

 これで、サービスオーバー(エイト)13(サーティーン)。そこから一点取り返して今に至る。


 天野君のジャンプスマッシュ・ドロップで主導権を握ったと思い込んでいたけれど、今の今まで今井さんは直線的で攻撃的なショットを主体にラリーを組み立ててくると思い込まされていたのはこちらだった。強打以外は怖くないと無意識に警戒を解いてしまっていたのだ。


 そもそも、ミスを狙って筑波さんを後ろに下げる事にぼくらは意識を向けすぎていた。それでここまで上手い事優位に立てたからよかったけど、相手だってそう何度も同じ手に引っかかってくれるわけはない。今まで天野君のジャンプショットの幻影も交えてうまく踊らせることができていただけだ。


 この一点を取れば第一ゲームはぼくらのもの。でも、ただ取るだけじゃなく、次のゲームに向けてもっと何かできるんじゃ?いや、しないとまずい。スコアの面で勝っていても、今ぼくらは意外と余裕が無い状況のはずだから。このままじゃ多分、このゲームは取れても二ゲーム目からは相手がリズムを取り戻して今より苦しい戦いを強いられることになる可能性が高い。


 こっちが一番されたくないこと、それは今井さんを主軸として完全に立て直されることだ。多分相手は、ペアとしてはまだエンジンがかかり切ってない。ローテーションにもまだ迷いが見える今だからこそ、今井さんがペアとしてのエンジンをかけ切る前に試合を決めたい。

 筑波さんは完全に序盤の失敗を引きずってる。普段当たり前にできていたことが突然できなくなるということが、不思議なことに大会だとよく起こる。それが大事な初戦だったことに同情はするけれど、だからって手加減するほど甘くない。相手の弱点を見つけたら、全力でそれを使って点を取りに行く。バドミントンはそういう競技。でもこれはダブルスで、相手もぼくらも一人じゃない。今井さんの動き次第で、筑波さんが調子を取り戻すことは十分あり得る。


 ここまでを振り返ってわかったのは、今井さんが前に出た時のショット精度が少しずつ上がってきているということ。加えて直近の見事なハイバックによる得点。彼は今、間違いなく上り調子。

 だから、良いイメージを持ったまま次のゲームに行かせないために少し点差に余裕がある今だからこそ仕掛けてみる(・・・・・・)。いや、今勢いを止めないと吞まれかねない。


 都合の良いことに、レシーバーは今井さん。またとないチャンスだ。

 どうする?どうしよう……?やるべき事は見えた。

 こっちがされたくないことを防ぐには……。


 うん、今ならまだ失敗できる。


 それならばと、ぼくは思い切ってショートサーブで勝負することを決めた。


 一体ショートサーブでどう仕掛けるかというと、今井さんのミスを誘うのだ。

 ただぼくは、羽代君みたいに速くないし、天野君みたいなとっさの機転も利かない。相手が返球に困るようなショットを前衛の速い展開で打つのは難しいし、それこそこっちがミスしかねない。


 ならどうするか。

 正直ちょっと怖いけど、ショートサーブを打った後ぼくも思いっきり前に出る。今までぼくらは、今井さんの突進を警戒して攻撃するときも守る時も、いつもより気持ち後ろに構えていた。でもそれは、相手にコースを選択する余裕を与える事になる。冷静に考えてみれば、このゲーム一球目、天野君のショートサーブは浮いてなかったから、どうやったって角度のある返球は不可能だった。前に出た時点で今井さんにはドライブか高く上げるかの二択しか選択肢は存在しなかったのだ。強いて挙げればネット前に落とすという選択肢もなくはないけど、目の前には天野君がいた。多分そういうプレッシャーがかかる場面でチョイスできるほど、緩急の「緩」にあたるショットの方に自信がないんじゃないかな。甘い球さえ上げなければサーブレシーブで叩かれる心配はない。そのことを、球威ばかり意識して気づけずにいた。


 まとめると、打たれてから対処するんじゃなく「打ちにくい」ようにポジショニングするのが今のぼくには最適解。

 そうすれば、こうやって気を張る局面で大抵の人は無意識に自分が一番自信のある返球をする。たとえ多少打ちにくい体勢だったとしても、だ。


「……ぼく、前詰めるね」

「おっけ。……そんじゃ、ストレート塞いどく」


 シャトル交換で少し時間ができたとはいえ、次のラリーに入るまでのわずかな時間で伝えられることは少ない。それでも天野君は意図を察してくれるから本当にありがたい。


『一本!』


 後ろには仲間がいる。たまにはぼくも大胆なことをやっちゃおう!


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