一回戦 第一ダブルス
二コート平行で試合が行われるから、最初に出番が来るのは第二ダブルスの羽代君・小夜川君と、第一ダブルスのぼく・天野君だ。
上を向けば、ズラリと桃文珠の応援団。対する晴風は、南先輩のお母様と校長先生&ОBのみなさんが用意してくれた青ダルマさん。人数からして違い過ぎる。こっちは一人と一ダルマなのに……。
でもこれもわかっていたことだ。気にしてはいられない。
天野君が出てくれたじゃんけんは負け。相手がレシーブを選択したのでサーブからスタートだ。
「オンマイライト 晴風高校、レプリゼンティッド バイ 天野さん・花光さん。オンマイレフト 桃文珠学園、レプリゼンティッド バイ 今井さん・筑波さん。晴風高校トゥ サーブ 天野さん トゥ 今井さん。ラブオール、プレイ!」
主審の合図で相手や審判にそれぞれ「お願いします」と軽いお辞儀をして、天野君がこちらを振り返る。
「行こう、ひなた!」
目が合うと、今日一番の笑顔。ギャラリーからは軽いどよめき。
そっか。普段一緒にいると何も思わないけど、天野君って本人が冗談っぽくたまに言うように、世間一般から見るとかっこいいんだった。松下君が太陽だとしたら、天野君は月とか星とかそういうキラキラって感じ。二人とも対照的だけど、コートに立っている姿を見ていたい、目が離せないって思う。ただでさえ他校と比べて味方が少ない晴風だからこそ、二人をきっかけに応援したいって思ってくれる人が少しでも増えたらいいな。
「一本!」
『おし!』
うん、声もピッタリ揃った。まあぼくは、大きい声出せなくてほぼ天野君だけど……。
ポンッ!
軽い音をたてて飛んでいったショートサーブに対し、今井さんは速攻前に出てきた。今日間違いなく天野君は調子がいいし、現に今のサーブだって全然浮いてない。それでも前に来たってことは、今前にいる天野君が反応できないスピードでドライブ気味の返球をしてくる可能性が高い。天野君のボディ周りに打たれると飛んでくる軌道が見えずらくなって、後衛のぼくも対処がしずらくなっちゃうんだけどどうだろう?
いや、無理に前で返球しようとしている分コントロールするまでの余裕はないと見た。それなら来るのは
パン!
よし、やっぱりストレートだ。ぼくなら多少返球に詰まっても遅れても、パワーで押し返せる。こういう時は、目立つからそんなに好きじゃなかった自分の身長や体格もなんだかんだありがたいと思う。
微妙な高さの球をバックハンドで返球することになったけど、ちゃんと後ろまで高く返せた。
上げたということは、次は相手が攻撃してくる。天野君が左側に下がったのをみて、僕は右へ出る。二人が横並びになる守りの陣形、サイドバイサイドだ。
対してあちらは一年生の筑波さんが後ろに下がり、今井さんが前に出てきた。
コンパクトな振りから放たれたのはドロップ。飛んでくるのはぼくの方。ネットに引っかかるのを気にしてか少し浮き気味だ。かといって、やけに前でプレッシャーをかけてくる今井さんがいる以上、ネット周辺に甘い球は返せない。
あの角度じゃそこまで浮いてるわけじゃないから完全に上から叩けない。つまりプッシュは無理。さっきの今井さんみたいにドライブ気味の返球、は下手に浮けば叩かれるし勢いつけ過ぎたらアウト。最初っから自分のミスで相手の点にするのは避けたい。
そんなこと考えてる間にもシャトルはもうネットを超えた。
ぼくのスピード的に今から前へ出て返球はリスクが高い。ヘアピン……するには思いのほか落下点がネットから離れてる。この球をネット前に返そうとしたら下から掬うように返すことになる。それだとコントロールはつけにくいし、浮いてしまう可能性が高い。
それならもう一度上げる!今ので筑波さんがミスを避けたがっているのは何となく読めた。それならぼくの方に飛んでくる限り甘いのが来るまで後ろに返し続ける。
思いっきり高く上げた球は、一瞬アウトかも?!って焦ったけれど、大丈夫そう。いつもより高さが出せる分やっぱり距離感はとっさの時掴みにくいや。
ぼくの返球に対して相手の選択したコースは、思いっきりクロス。体の向きからそう判断した。
カキン!
ただ、十分移動は間に合っているのにラケットを振り遅れたのかフレームに当たる固い音。見た感じスマッシュとクリアで迷ったのかな?
コートの中央へ向かって、浮いた球が返ってくる。
「天野君、お願い」
「よっしゃ」
うん、さっきドロップ打った時振りがコンパクトだったのも、確実に当てるためかな?
さっきのと今のを見る限り、公式練習の時は気づかなかったけどあんまり高さに慣れてないのかも。
ぼくが推測している間にも、サイドバイサイドになろうと慌てて動く相手二人の間をついて、天野君がスマッシュを決めた。
「ナイスショットォー!」
元気な青葉君の声が響く。
「1《ワン》―0《ラブ》」
主審のコールと同時に僕らはハイタッチ。
「ナイスひなたー!」
「決めたの天野君でしょ。一年生の子、今後衛に苦手意識がありそう。上から打たせれば今みたいに隙が作れるかも」
「おっけー。この調子で行こう」
次はその筑波さんがレシーブ。ロングサーブで最初っから下げちゃうのも手だけど、天野君はどう動くかな?少しの間を経て、示されたサインは……
ロングだ。シングルスと違って、ダブルスではサーブのエンドラインが少し手前になるから、完全に後ろまで下げられるわけじゃない。けれど、畳みかけるなら動揺してる今が一番効果的なはず。
「一本!」
『おーし!』
やっぱり、さっきサービスレシーブをした今井さんと比べると随分後ろ気味に構えてる。前に落とされるリスクを承知の上でその選択をするってことは、本人も苦手意識があるんだ。
パァンッ!
乾いた音と共に打ち上げられたシャトルを見て、やはりというべきか筑波さんの顔は一瞬こわばった。
しかしそれでも軽いフットワークで下がると、返って来たのはクロス方向へのハイクリア。
「……任せた」
「はいよー!」
そのまま天野君に任せて、今度はぼくが前にでる。
大抵の場合において、初めて戦う相手は身長があるぼくが前にいるのを嫌って後ろに下げようとしてくることが多かった。でもそうすると、相手は天野君の多彩なショットに捕まることになるし、ぼくもスマッシュやドロップで援護できる。
逆に、ぼくが前に出されて天野君が後ろで振り回されて体力切れっていうのが負けパターンとして多かった。
でも、今は違う。
「いただきっ!」
そんないたずらっぽい笑みが想像できるつぶやきと共に、床を蹴る音。
スパンッ!
天野君は、後衛に回ってもバッチリ攻撃力を保ったままでいられる。後手に回ることなんてそうない。
カンッ
相手は一歩も動けずに、シャトルが床に叩きつけられる音だけが良く聞こえた。
「うわ、あんな……飛ぶなんて……」
「今のはしゃーない。切り替えてけよ」
呆然とする筑波さんに、今井さんが励ましの言葉をかける。
「2《ツー》・0《ラブ》」
すっかり静かになった桃文珠応援団。
「うっひょー!めっちゃすごい!かっこいい!ナイスショット!」
それとは対照的にさっきまでの震えはどこへやら、ハイテンションの青葉君。隣では先生も小刻みに拍手している。……青葉君あんなキャラだったっけ?
「なあ、あれさっきの練習でめっちゃ飛んでたやつじゃね?」
「やっぱそうだよな。おいちょっと見てこうぜ!」
やっぱり今のはインパクトがあったのか、一回戦だけど周りに両校以外のギャラリーが集まり始めてる。チラッと隣を見たら、羽代君・小夜川君ペアもどうやらリードしてるみたい。このままぼくらでいい流れを作りたいな。
あっちにはコーチと南先輩に加えて試合待ちの松下君もついてるから、きっと大丈夫なはず。
そこからは、天野君のジャンプスマッシュが効いたのか相手の返球に迷いが生じるようになった。二人とも、特に天野君が打つときワンテンポ反応が遅れてる。流石というべきか今井さんは全く表情にださないけれど、筑波さんは動揺を隠しきれていない。
今井さんが最初みたいにネット前で思い切った返球をしてきたり、筑波さんの分まで後ろをカバーしたりで粘って来たから最初の二点ほどテンポよく得点を重ねることはできなかったけれど、五、六点の差を常に保ったままインターバルを超え、ゲームポイントを迎えることができた。
「……ラスト、気を抜かずに取り切ろう」
「おっけー!」
さあ、ここを取れれば一気に勝利へ近づくことができる。
『一本!』
決めるぞ。
試合開始!!!
○○高校 レプリゼンティッド バイ △△さん → ○○高校代表△△さん のようなニュアンスで捉えてもらえたら。
第18話の後書きでも記載した通り、審判のコールやスコアは→1ー3(ワン、スリー)
その他場合によって→漢数字
など作中では数字の表記を分けています。




