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インターハイ予選前日 その2

 滑り止めと練習用のシャトルを筒一本分、それから救急セットを持ってひとまず先生のところに預けに行った。多分あともう一往復で運び切れそう。


 早足で進む中通りがかった第一体育館では、僕らと同じく明日本番を控える女子バドミントン部が最終調整中みたいだ。


 この数ヶ月間、女バドの皆さんには大変お世話になった。人手が足りないとき練習試合の審判をしてくれたり、第一体育館を広く使える時間があれば僕たちも一緒に練習できるように声をかけてくれたり。それから練習試合の申し込みがあった時には、男子も一緒に組んでもらえるように取り計らってくれたことも、祭千のときを含めて一度や二度じゃない。


 小鈴さんや雪渡さんは、女子の方の自主練によく誘ってくれたし沢山のことを教えてくれた。僕が上手くレシーブのコントロールが出来ずに苦戦していた時には、わざわざ個別で練習に付き合ってくれたこともあった。

 思い返せば春風杯の頃は小鈴さんに手も足も出なかったのに、今ではちゃんとラリーができる。それも、二人が惜しみなく持っている技術を教えてくれたおかげだ。


 いきなり基礎打ちやノックはできないから、入部したての頃は皆が練習している間に南先輩のマンツーマンレッスンを受けていた。でもそれもマネージャー業務と並行してだから、ずっとつきっきりで見てもらうわけにもいかない。僕自身も、先輩方やチームの皆の負担になるかもしれないって思いがあってあまり自分から聞きに行くようなこともできなかった。


 そんな時小鈴さんが自主練に誘ってくれたことで僕と同じように高校から始めた人と初めて一緒に練習ができて、なんかちょっと安心したっけ。あの頃の僕は、正直春風杯前で早くコートに立ってみたい、皆と一緒に練習できるようになりたいって焦ってしまっていたから。


 周りが凄い人ばっかりなのは最初からわかっていたものの、さすがに初心者が自分だけって環境は今まで絵色々やってきた中でも初めてのこと。とにかくどんなことでも全力でやるしかないって心に決めて、正解はわからないけれど毎日少しずつでも進歩していると信じるしかなかった。右も左もわからず周囲は実力者ばかりでどんどん僕の先を行くとなれば、ちゃんと自分が進めているのかは正直不安が大きかったな。でもその感情にできる限り気づかない振りをしていた。


 そんな状況だったからこそ僕の小さな「わからない」も迷わず聞ける時間を与えてくれた二人にはとても感謝しているのだ。経験者の人にとったらきっと当たり前のような事を聞いたって笑わずに返してくれて、だから迷わず練習に集中できるようになった。

 そうして迎えた春風杯で入賞したことで確かな手ごたえを感じて、そこからはどんどん波に乗っていった。気づけばみんなと同じメニューに参加することができるようになっていて、この前の合同練習だって半面シングルスはやられっぱなしだったけど、基礎トレーニングやノックにはどうにかついていく事ができた。それもこれも、最初に僕が躓くことを防いでくれた二人の影響が物凄く大きいと思うのだ。


 女子の方は、明日別会場。お互い勝ち残ることができれば、後日同じ会場で試合をすることになる。さっき帰っていく雪渡さんと、「お互い頑張ろう!」「健闘を祈る」なんてちょっと冗談っぽく話したけど、隣の小鈴さんはちょっと表情が硬い気がした。だからって明日は別々の場所で戦うから直接応援できるわけではないし、試合に出る訳でもない僕が頑張ってる人に対して無責任に「大丈夫」なんて言えないなって思ってそのまま手を振って別れた。


 どうなるのかはわからないけど、叶うならお互い勝ち残って二人がコートに立ってる姿をちゃんと見たいし応援したいな。


「お!青葉いたいたー!今校長が……じゃなくて校長先生が来ててさ、なんか話あるんだって。だからいったん集合」

「ゲッ……!じゃなかった、はい。今行きます……」


 二体へ向かう曲がり角から、部室にたどり着いた僕に向かって叫んでいるのは涼先輩。よりにもよって本番直前、バド部にとっては一番お越しいただきたくなかったお客様がいらっしゃるというバッドニュース。また余計な事言ってこなきゃいいけどなぁ……そう部室防衛戦の記憶が脳裏をよぎりながらも、皆を待たせるわけにはいかないから急いで体育館へと向かった。


「コホンッ!全員集まったね。今日君たちに来てもらったのは見せたいものがあってだね……。いや、その前に言わねばならないことがある。……………………今まで、すまなかったっ」


 ……はぁ?いきなりどうしたん?!訳が分からない。


「その、今まで君達にはキツく当たって来ただろう?実は私、この学校のОBでね。しかもバドミントン部に所属していた。それに、ここに来る前は雷山で校長をしていたんだが、彼らも最近また全国を目指して頑張っている。そうやってかつてのライバル校が盛り上がってきているのを間近で見てきたからこそ、どんどん人数も減っていった君たちが心配になってしまってね。……そうなると部活としての存続も難しいから、早めに諦めてこれ以上辛い思いをしないうちに別の道を進んだ方が君たちのためなのではないかと思っていた。だからこの前の練習試合のように少しずつそうなるよう仕向けたつもりだったんだが、…………君たちの本気をこの半年で見せられたよ。いや、私が大人の都合を押し付けていたのかもしれないな」


 校長先生は何かを懐かしむように体育館を見渡すと、再び口を開く。


「今まで見てきた学校の生徒たちと同じように接しているつもりだったが、やはり母校だからと変に力が入っていたようだ。重ね重ねいい大人が申し訳なかった。春風杯での入賞も、本当におめでとう。松下君、正直君ほどの選手が今の晴風に来てくれたのは奇跡に近いことだと思っている。君がいるなら、晴風バドミントン部はまだまだ未来へと続いていきそうだ。そして天野君、君はここに来て随分成長した。去年とは技術もメンタルもまるで違う選手のようだ。ジャンプスマッシュ、あれは高さもあって目を引くね。明日が楽しみだよ。それから花光君。口数こそ多くないものの、周囲に気を配りコミュニケーション能力も申し分ない。その安定感は長丁場を勝ち抜くうえでチームとしても大きな武器だ」


 どこでも校長センセイという生き物の話は長いものなのかな……?まとめると、先生は晴風バド部のОBで、ここの前は雷山で校長をしていた。かつて全国を争うライバル校だった雷山が復活の兆しを見せる中、名前すら忘れられつつある無風の晴風に対して不安を覚えていた。ちょうどそこにダメ押しの流血事件とコーチ解任。そして持ち直しかけたかと思えば大量退部。そりゃあ先輩方の人柄や思いを知らなければ、心配になるのも当然かもしれない。


 そして突然始まる先輩たちへの褒め褒めタイム。何故そんなに知っているんだろう?


「そして一年生諸君。諸君が入部してくれたことで晴風バドミントン部の歴史を繋げることができた。私とて、諸君がつらい思いをせずにいられるのならば廃部になんてしたくはなかったからね。羽代君、君はおもしろい。戦い方もそうだが、どんな状況でも見かけによらずなんというか物おじしない。シングルスでの実績もあり、それでいて松下君を生かしながらダブルスができる……。正直推薦枠もない今の晴風にこんな子が来てくれるとは思わなかった。そして小夜川くん。白間川との試合の時は何してもそつなくこなすしフォームも誰より美しいのに時たま反応が遅いから、不思議な子だと思っていたが……。いやはや、あれほど高校生離れしたパワーを持っていたとは。しかも君はそれを努力で使いこなせるようになった。今の君のパワーに対抗できる人なんてそうはいない。胸を張って大会に臨みたまえ。それから青葉君。よくぞ未経験でここに飛び込んだ!練習も決して楽ではないだろうに食らいついて、人数が少ないからこそ常にチームのために自分ができることを探している。えらい!その年で中々できる事じゃない!今回の団体戦では難しいだろうが、いつか君がコートに立つ日を楽しみにしているよ。そして最後に…………南君。よく、よくここまで立ち向かい戦い続けてくれた。あそこで君が辞めていたら、今ここにバドミントン部は存在しなかっただろう。君の高校生活最後の夏が素敵なものになるように、願っているよ」


 わ!こそばゆい!周囲の面々も、緩む口元を慌てて引き結んだり何度も瞬きしたりと仕草は様々だけど、多分僕と同じで照れている。晴風の男子バドミントン部というだけで学内では厳しい目が向けられがちだし、学外ではそれどこ?って感じで認知されてないこと多いしで、我々は褒められ慣れていないのである。

 と、いうか本当になんで校長先生そんなに色々知ってるんだろ?


「実は、だね……。厳しくした手前行きづらくて、だけれども気にかかるから……じゃなくてほら!また問題でも起こされたら困るからこっそり窓の外から練習や練習試合を覗いていたんだ。ソレこそ雨の日も風の……ゴホン!私もその、バドミントンに青春を捧げた身だからね。たまに目が行ってしまった。……それで、見ているうちにだんだん君たちのファンになってしまったよ。も、もちろん、他の生徒たちのことも同じように頑張ってほしいと思っているがね」


 僕らの疑問を感じ取ったのか、慌てて弁明する校長先生。果たしてこれが弁明になっているのかは謎だけど……。ってことは時たまどこかから視線を感じていたのはもしかして……。いや、想像すると怖いから考えないでおこっと。心なしか先程より校長センセイを見つめる目が全体的に冷ややかになった気がするが気のせいだと思おう。


「そして、そんな頑張る君たちに贈り物があってね。長山先生、広木さん、お願いします!」


 あれっ?校長先生の視線の先の二階にはいつのまにか先生とコーチがいて。何やら箱から取り出したのは……青い塊だ?!


「わっ!だるま?!」


 口元をに手を当てて驚く南先輩。通常「だるま」と聞いてイメージする赤色ではなく、ユニフォームと同じ青色。多分お腹にあたる部分には、白文字で『晴風高校羽球部』と書かれている。うん、なんか凄い目立つし縁起よさげ。


「君たち、ただでさえ人数少ないから客席の応援が他校に負けてしまうと思ってね。何か出来ることはないかと他のOBに相談したところこれを作ろうと案が出たんだ。作るのにかかったお金も寄付を募ったところ多くの人が快く協力してくれてね。願わくば是非、全国まで連れて行ってくれたまえ」


 まじで?!校長先生が?わざわざ僕らのために?なんか今まで見てきた数々のムカつく態度は何だったんだといいたくなるくらい、やってることが別人だぞ?!


「それから、ボロボロになっていた応援旗なんだが……その、私が手縫いで修繕しておいたから是非明日楽しみにしておいてくれたまえ。既に長山先生に預けてあるからね。先生や広木さんも手伝ってくれたから、後できちんとお礼を言うように。その、なんだ、君たちは自分で思っているよりも多くの人に応援されているよ。だから晴風の代表として明日は自信を持って臨みなさい」


 僕も含めて全員フロアに出てしまうから、二階席からの応援なんて望めないと思っていた。でも明日、上を向けば心強い味方だるまさんがいる。それに、皆諦めていた旗もある!色々考えて考えて僕らのためにしてくれたんだと思うと、なんか校長先生悪い人ではない気がしてきた。でかいだるまと手縫い修繕応援旗はだいぶ予想の斜め上だけど……。


「よし!全員起立!!校長先生と長山先生、そして広木コーチに、礼!」

『ありがとうございます!!』


 思わぬ追い風を受けより一層気合いが入った僕たちの夏は、いよいよ明日始まる。

夏が来るぞー!

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