インターハイ予選前日
「い、いいいいいよいよあ、あ、明日ですね……」
「や、青葉色々多い多い」
「ん……?」
涼先輩に苦笑されて手元を見ると、一つのつもりが筒から出した一ダースのシャトルをごっそり渡そうとしていた。
「ありゃっ!スイマセン!」
「全然いーんだけどさ、テンパりすぎて明日忘れ物とかしないようにな」
「確かに僕ならやりそうかも……。気をつけます!」
個人戦と団体戦は日程が少し前後する。今年先に行われるのは僕たちの本命団体戦。六月といえど気温は日が経つごとにグングン上昇しているから、厳しい戦いが予想される。この前の練習試合ですら相手校の選手の中に熱中症で倒れた人がいたくらいだから、果たして明日からの戦いはどれだけ過酷になるんだろう?
窓とカーテンを閉め切って熱気がこもりまくりの体育館がまるでサウナみたいなのは、この前の夏日に嫌というほど体験した。だからこそゾッとする。先輩たちは明日から、あの暑さの中負けたら終わりの連戦に挑むのだ。
「なんか青葉見てると良い感じに気が抜けるわー。先週の練習試合も悪くない感覚だったし、このまま明日も俺が出る試合全勝して、優勝まっしぐら~!なんてね。そんな甘くないのはわかってるけど、今の俺ならちゃんと自信もって望めそう」
「へへへ……ならよかったです?あ!僕、先生にジャグとか滑り止め渡してきちゃいますね!春ちゃん先輩が部室にまとめてくれてたはずなので!」
「確かにご本人は今南先輩幹人と羽代の練習監視中だもんねー。それじゃよろしく!」
「いってきまーす!」
そうと決まれば善は急げ、だ!部室へ向かう慣れた道のりを進みながらも、変な緊張はしている一方本番が迫っていることにあまり実感がわかない自分もいて不思議な感じだ。チームとしての目標が達成できるのかは明日からの戦いですべてが決まるのと頭でわかっていても、僕はまだ大会での団体戦というものを経験したことがないからイメージができていないというのが正しいかもしれない。
皆コンディションはおそらく悪くない。むしろ理想的な形で大会までの期間を過ごしてくることができたと思う。
合同練習会の日から、どこかスッキリした様子の涼先輩。祭千との練習試合以降本格的に練習し始めたジャンプスマッシュは絶好調で、シングルスは勿論ダブルスで返球パターンに組み込んでからはもう最強。どう最強なのかはまあ本番でのお楽しみ。
ミスのないひなた先輩との相性はやっぱり抜群で、練習試合の相手校の監督や選手もこんな人が晴風にいたのかって驚くくらい。この前また祭千に練習行かせてもらった時なんかは前回負け越したペアをあとちょっとのところまで追い詰めたから、この短期間で随分変わったって驚かれていた。そーいえば、涼先輩とひなた先輩が組み始めたのは高校からみたいだけど、どうやったらほんの一年足らずであんなコンビネーションが出来るようになるんだろう? あの無口なひなた先輩と以心伝心なんだもん、やっぱり涼先輩ってコミュニケーション能力高いんだろうな。
ひなた先輩はひなた先輩で凄く周りを見てることは毎日練習中の様子を観察していればよくわかるし、いかんせん口数も少なくて貫禄のある見た目だから怖がられちゃうけれど誰より優しい人だ。プレイの堅実さも、きっとその人柄あってのことなんだろう。
ちなみに僕なんか、たまに勉強がてらダブルスさせてもらっても味方がどこに居るかいちいち確認しないとぶつかりそうで怖くて動けない。二人のように動くにはまだまだ時間がかかりそう。
そして絶賛南先輩に自主練しすぎないように監視されているであろう幹人先輩。先輩を知る人ほど、明日きっと驚くことになる。これまでシングルス一本だった松下幹人がダブルスで躍動するなんて誰が予想できるだろうか?安定感と爆発力を兼ね備えた強さ、僕もいつかああなりたいな。
それを可能にしているのはやはり羽代君。合同練習会の日からしばらくは、練習中も何やら考え込んでいることが多かった。やっぱり落ち込んでるのかなって心配してたんだけど、気づけばほんの一週間足らずで調子を取り戻すどころかむしろ前より良くなっているから驚いた。羽代君は、「自分の武器と戦い方がようやく見えてきた」って言ってたけど、どういうことだろう?中学時代は一人でコートに立つ姿しか見てこなかったから、余計に明日の試合が楽しみだ。それに、ダブルスだけでなくシングルスでも、直近の練習試合で勝率は上り調子だから頼もしい。
そして小夜川君。彼は今回はオーダーの関係上おそらくほとんどの試合で第一シングルスに出場することになる。昨年までは幹人先輩が担っていた所を任されたんだから、きっと少なからずプレッシャーがあるはずだ。なのに百パーセントスマッシュの成功率が上がるにつれて調子も良くなる一方で、今晴風で一番勢いがあるのは間違いなく小夜川君だと思う。明日春風杯ぶりに大きな会場でスマッシュがお披露目されるのが楽しみだ。さらには組合わせが発表されて以降当たる可能性が高い学校のデータもまとめてくれていたから、南先輩とコーチがオーダーを考える上できっと大きな助けになるはずだ。
そして南先輩。僕たちに晴風高校バドミントン部の過去と先輩のことを教えてくれてから、なんだか話しやすくなったというか壁がなくなったような気がする。今までは先輩と後輩って関係性だからそこの線引きをしっかりしてる人なのかな?って印象があった。勿論教え方は丁寧で優しいし質問すれば嫌な顔せずいつでも答えてくれたから、冷たいとかそういうんじゃ決してない。最近はよく笑う。今までだって先輩はいつでも笑顔だったけど、なんというかそれとは違うのだ。
うーん。前より表情豊かになって喜怒哀楽がはっきりわかるようになったというのが正しいのかもしれない。誰より明日からの試合を楽しみにしているのはきっと南先輩だ。昨日だって届いた新しいユニフォームを嬉しそうに眺めていた。サプライズでユニフォームと同じ色のポロシャツを僕たちからプレゼントしたら凄く喜んでくれて、明日も着てくるって言ってたっけ。ちなみに以前から僕は親しみを込めて勝手に春ちゃん先輩と呼んでいるけど、特に怒られたことはないので大丈夫そう。
「よっこいせっ!おっと……」
あれこれ考えているうちに部室へたどり着いたはいいものの、一度では運びきらなそう。
まあ仕方ない。この後もう一往復頑張りますか!
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