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バドミントン部

「なんか今日、初めて先輩のことちゃんと知れた気がします」

「ありがと。こんな暗い話聞かせちゃってごめんね。ボク、小さい頃からバドミントンばっかりだったから、他に好きな事とか趣味とかあんまりなくて…………。だから、どんな話していいかわからなくってあんまり練習中いがい話してなかった。でも、部室でのみんなの話楽しくて、好きで聞いてるから心配しないで。今後もさ、中々自分からはいけないだろうけどそこも全然気にしないでね」


 そう笑った南先輩の顔はなんだかいつもより弱々しい感じがして、僕はどんな言葉をかけたらいいかわからなかった。


「別にここバドミントン部なんだからバドミントンの話していーんじゃないですか?」

「やー、それはそうだけど南先輩の場合は過去のしんどかったこととバドミントンが結びついてて、それで周りに心配かけたくないから話さないってことでしょ?だからそう簡単な問題じゃないんだよ……って誰?!」


 あーでもないこーでもないって僕が悩んでいるところに、身もふたもない事を言う奴がいるから反射で言い返しかけてふと気づく。

 あれ?今部室には僕と南先輩しかいないはずでは……?


 恐る恐る振り返ると、そこにいたのは松下先輩。扉開いたの静かすぎて全然気づかなかった。そしてその後ろには男子バドミントン部が勢ぞろいしている。というかやっべ、先輩相手にめっちゃタメ口しちゃった!


「松下先輩!ごめんなさい!!」

「ん?何がー?よくわかんないけどいーぞ!」


 よっしゃ!許された!


「そんで、話戻りますけど話したくないなら別に今まで通りで良いし、話したきゃ話せばいいんですよ。別に俺等に気を遣う必要はない。ここはバドミントン部で、南先輩は部員なんですから。落ち込んでても誰かしら気にかけてくれる奴はいるし、一人になりたいときは無理して一緒にいなくたってそれで気を悪くするような奴なんていません」

「そーそー。こちとら去年のあれこれ乗り越えてここにいるんですから、今更南先輩がどーこーしたって迷惑だって思うようなことありませんよ。後輩だって、四月の体験期間からあの練習量にへこたれずについてきた強い奴ばっかです。だから、別に先輩が弱音を吐こうが愚痴を言おうがなんてことないです。むしろ去年四人になって以降同級生誰もいなくなって一番ダメージでかいはずなのに、後ろ向きな事なんて一度も先輩の口から聞いたことないので迷惑どころか逆に心配してました。人間どっかで弱いところも外に出してかないとダメになっちゃいますよ。ねーひなた?」

「…………一つ上の学年の先輩にとって、後から入った僕らは頼りないのかなって……思ってました。あと天野が……四人に……新体制になってから自分に何かできる事ないかって一番ソワソワ……して、しょっちゅう僕の前でもどうしようどうしようってブツブツ言って……ました」

「んなっ!それは言わない約束だったろ!」


 なあんだ。案外先輩方も気づいて、ずっと気にかけていたんだ。なんというか、僕一人では背負いきれる気がしなかったから、めっちゃ頼もしい。


「いや、ほんと、いつの間に皆……こんなに頼もしくなってたんだね……。アハッ……マネージャーなんだから、支えるのはボクの方なはずなのに……。……………………ほんとは、もっと、もっとコートに立ちたかった……。バドミントンが……、したかった……。なのに…………なのに。本当にどうしたってバドミントンやろうって思ってコートに立つと動けないから……。体はもう、もうとっくに治ってるはずなのに…………おかしいよね……。何回やったって結果は同じで、こんなに苦しいならもう全部忘れちゃいたいって思うのに……結局コートに立つことから逃げたのに……。それでもボク、バドミントンが……あきらめ……られ……な、い」


 はらはらと静かに、南先輩の頬を涙が伝う。

 いつどんな時だってずっと笑顔だった先輩が押し殺していたであろう心からの声を、初めて聞いた気がした。


「先輩、逃げてなんかないでしょ。毎日毎日どんなに暑くても寒くても、ドリンクの用意や洗濯、それに先生との打ち合わせや用具の管理だって俺たちが練習に集中できるように全部やってくれてる。状況に合わせて練習メニュー考えてくれたり、一人一人のためにノート作ってくれたりしてるの、いつもすげーありがたいって思ってます。それに俺知ってますよ。先輩、新体制になってから一回だって練習休んだことないでしょ。それに休みの日だって度々部室に明かりがついてるのも、皆気づいてます」

「そうですよ。俺が春風杯で使い物にならなくなった時も、わざわざ家まで一緒についてきてくれましたよね。それってマネージャーだからって当たり前にできる事じゃない」


 幹人先輩や小夜川君の言う通り。マネージャーって「競技が好きだから」ってだけで続けられることではない。僕も中学時代、バスケ部の万年応援席(実質マネージャー)していたからわかるけど、基本(スポット)の当たる事なんてないし、自分が試合を動かすことなんてコートに立たない以上できるはずもない。試合に出る同級生を見た時や負けて悔し涙を流す先輩を見た時、結局自分が直接勝敗を左右することは無いんだから無力だな、なんてちょっといじけたことは何度かある。応援することやサポートすることが嫌だと思ったことも無駄たと思ったことも一度だってないのに、それでもどこかにやるせなさを感じてしまっていた。

 それでもまだ僕は、選手兼マネージャーだったから試合に出る日を夢見て続けることができていた。

 でも南先輩は違う。元々は選手として入部して活躍していたのに、少なくとも今の時点では復帰が絶望的。そんな風に最初から望んでマネージャーになったわけではない人が、自分が焦がれたコートに立つ人を全力で支えて応援する。きっと簡単なことじゃない。僕が知る南先輩になるまで、一体どれだけの葛藤があったんだろう。


 マネージャー(支える側)を志すきっかけが何であれ、続けることは案外難しいのだ。それを僕はよく知っている。中学二年生の頃、二人しかいないマネージャーさんだけでは大所帯のお世話が回らないからって理由で、ベンチに入れない僕を含めた何人かはマネージャーさん達と一緒に雑務をこなすことが多くなっていった。でもそれも長くは続かず、活躍するチームメイトと自分の置かれた状況とのギャップに直面して一人、また一人と辞めていき、気づけば残ったのは僕ともう一人だけ。

 しかも辞めたのはプレイヤー側だけではない。まさかのマネージャーさん(僕の一つ下)も辞めた。なのでマネージャーさん(同級生・正規)と僕(万年応援席・パート)で回すことになってエライこっちゃだった。結局後輩が手伝ってくれたり故障中のメンバーが手伝ってくれたりでなんだかんだ回っていたけれど、本当に忙しかった。

 ある時ボールを磨きながらマネージャーさんに入部のきっかけを聞いてみたら、


「んー……?なんかマンガ読んでてマネージャー気になるって思ったから?」


 と返って来た時は思わずズッコケた。そんな?!そんなあっさりな理由でこの激務に身を投じたの!?や、僕も上二人がやってたから何となくって理由でバスケ部入ったから人のこと言えないけどさ。驚く僕に対してマネージャーさんは更に続けて


「や、理由なんかさ、最初に跨ぐ敷居を下げて少しでも踏み出しやすくなるためのもんなんだから、自分がよっしゃ、じゃーやってみよ!って勢いつける理由になるんならなんだっていいじゃん?青葉だって、プロになる!とか、なんかすごいこと成し遂げる!みたいなでかい野望持って最初から入ってきてる訳じゃないでしょ?」


 って言われて目から鱗だったっけ。


 要するに何が言いたいかというと、きっかけなんて最初の一歩を踏み出すためのとっかかりってだけであって、「怪我をした後コートに立てなくなって、それでもバドミントンが諦められない」ことが理由でマネージャーになったことに対して南先輩が引け目を感じる必要なんて全くないということだ。


「それに、確か先輩大学進学組でしたよね?なら、進学先で大会とかは出ないようなサークル入ってゆっくりバドミントンしてみたり、バイトで小学生バドミントン教室のコーチやってみたりとか。今だってノックの球出しとか青葉の試合練習相手とかできてるんだから、きっとできるはずです。ラケット持つと先輩生き生きしてるし。バドミントンする方法は部活や試合だけじゃないのは、今先輩が証明してるでしょ?」

「……………………ボク、ちゃんとバドミントンできてる、かなぁ……?」

「できて……ます。……いつも試合の時ベンチにいてくれて、一緒に戦ってくれるの、心強いです」


 綺麗な笑みを浮かべる涼先輩と、肩を震わせる春ちゃんせんぱ……南先輩にそっとピンクのハンカチを差し出す花ちゃん先輩……もといひなた先輩。

 きっと怪我をするまで、先輩にとってのバドミントンは「コートに立つこと」が全てだったんだと思う。だからこそ、それができなくなった苦しさやラケットを手放すことを自分で決めた時のやるせなさがどれほどのものだったのか、僕には想像もつかない。


「わー!もう!皆揃いも揃ってどうしてそんな泣かせに来るのさ!」


 そういつもより砕けた口調で泣き笑いした先輩は、まるで心に詰まっていた何かがほどけたように晴れやかだった。


「よーし!それじゃ、羽代と小夜川はどこまで聞いてた?」

「わ!ごめんなさい!盗み聞きしてたわけじゃないんです!ほんと、幹人先輩がバドミントンの話したらいいって言う直前!直前に来ました!!」

「そう!そうです!止めたんですけど幹人さん迷いなく扉開けちゃって……」

「大丈夫!怒ってない!怒ってないから!!バド部がどうして今の形になったのかにも関わってくる内容だから、折を見て二人にも話そうとしてたことだしね。それに、知られたからにはボクの経験も踏まえて怪我防止のストレッチもビシバシ追加して、自主練も動きすぎないようにバッチリチェック始めるから覚悟してね!」


 どこか吹っ切れたような様子で先輩はまた笑う。僕に話してくれた内容を二人にかいつまんで説明する表情も、まるで憑き物が落ちたかのようだった。


 ・・・・・


「よっし。それじゃインハイ予選まであとちょっと!気合入れるぞ!晴風―!ファイッ」

『オー!』


 雲一つない快晴の空に、バドミントン部の声はよく響いた。


 近隣の部室から苦情が来たのも、いつまでも帰ってこない鍵を心配した長山先生が様子を見に来たのも、まあ青春ということで。


閲覧ありがとうございます。見てくださる方がいることでここまで続けることが出来ています。

また、ブックマーク、評価、いいねをしてくださってる方、大変励みになっております。


さて、このまま予定通りに行けば後数話でインターハイ予選が始まります!

もしまだの方は、是非ブックマークをしてお待ちいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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