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帰り道

小夜川、今日とこの前の練習試合を振り返る の巻

 羽代って誰とでも一定の距離とってるような感じだったから、なんか今日初めて人間っぽいとこっつーか素が見えた気がした。


「に、してもすげーな羽代と青葉。こんな方からいつも下ってきてたんか。これ、毎日帰り地獄だよな」


 カエルの鳴き声と稲や草葉のすれる音、それから川のせせらぎに包まれながら、延々と漕がなくても進む下り坂が続くことにゾッとする。頬に触れる風は涼しくて、一日動き続けた体にはちょうどいい。

 なんか今日、コミュニケーション能力高めでいつでも明るいと思っていた天野さんが意外な話を打ち明けてくれたり、同級生なのに大人だって思ってた羽代が随分色々悩んでたり、こういう風に相談や悩みを聞くなんてこと中学では一切なかったからなんか仲間って感じでちょっと嬉しい。

 午後の練習の時松下さんは、「あいつああ見えて自分のこととかあんまり話さないけどさ、でも、必要な時とか話したい時にはちゃんと自分から行くはずだから。そう簡単にバドミントン手放すようなやわな奴じゃないから、心配してない」って言ってて、南さんも花光さんもそれに頷いてて、先輩方がこの一年で積み上げてきた信頼が見えた気がした。

 いつだったか雪渡にスマッシュ練付き合ってもらった時に、松下さんとか羽代とか雪渡みたいに長くバドミントンやってる上手い奴は皆なんか余裕がありそうで大人に見えるって話をしたことがあった。返って来たのは誰だって他の人から気づかれていないだけで悩んだりしてるって答えで、それ聞いてハッとしたっけ。そん時もらった「絶対強くなれる」って言葉は今でもキツい時とかに思い出しては踏ん張るためのエネルギーになっている。今日は二人の意外な面を知って、自分だけじゃなくて皆悩んでるって言葉の説得力がより増した気がする。


 祭千との練習試合の時、同じ一年生の囃子相手にストレートで負けた。それでも、一ゲーム目は十六点、二ゲーム目に関してはデュ―スに持ち込んで二十二点取って、確実に手ごたえを感じていた。あの試合最初のスマッシュは、今でもたまに思い返してガッツポーズをしたくなる。


 コート奥スレスレに飛んできたシャトル。というかもしかするとアウトだったかもしれないくらいきわどい球だった。でもその辺の判断はあんま得意じゃないから、いつも通り迷うなら振り切れの理論でフルスイング。学校の体育館とは思えない天井の高さには正直あんま慣れなくて空振りやしないかと頭にはよぎったものの、さっき羽代だって祭千の奴らビビらせてたんだから負けてらんねえって気合を入れた。そのおかげもあってか我ながら良い当たりだったと思う。前日に白間川のメンバーと試合させてもらって、他校相手でもちゃんと打てることわかってたのもでかい。

 綺麗に囃子の足元に落ちたシャトルは、数回跳ねて線審の方に飛んでいく。一瞬静かになった後、「うぉー」とか「わー」とか明らかに周囲がざわつくからちょっと面白かった。ネットの向こうの囃子も、なんかワクワクした様子でこちらを見ている。今までは暴発してるから驚かれてるんだとばかり思ってたけど、純粋に俺のパワーで驚いてくれてる人もいたのかもしれない。あんなに怖かった周囲の視線も、必要以上に自分が怖がってただけなのかもなって思った。

 結果として試合は負けてるから悔しいけど、それ以上にこんな充実してるって思える試合は初めてだから楽しかった。さらに試合の後全国の頂点に立っている祭千の人たちからこんなスマッシュ打てる奴はそうそういないって言われてすげえ自信になったし、さらには祭千のコーチにまで声かけてもらえた時には嬉しすぎてやばかった。テンション上がりすぎて落ち着くために白飯三杯食った。中学時代が花も咲くかわからない木に延々世話をし続けている時間だったとすれば、今は花どころか実までできたような、そんな気分だ。

 ちょうど俺が今そういうタイミングなだけで、逆に今壁にぶつかっている人もいる。それなら皆が俺にしてくれたように壁を乗り越えるための助けになれたらって強く思うけど、俺にできる事なんて限られているのかもしれない。でも今日話を聞いたことが少しでも二人の役に立てていたらいいと、そう思う。壁に衝突してた期間なら、大抵の奴より長い自信はあるから。そんな俺にだから話しやすい事ってあるかもしれないし、そう思うとあの三年間は決して無駄ではなかったな。


 今日の練習会でも、特に力むことは無くコントロールができた。今なら思いっきり戦えるって自信もついてきた。だから、後は選球眼と配球を鍛える。シングルスで、一人で胸を張ってコートに立つために。

 いよいよインターハイ予選までは一か月を切った。どうなるのかは全く分からない。でも、チームでコートに立てるって物凄い事だから。それはずっと頭に入れておかないといけない。

 一層気合入れて、でも怪我には気を付けて。このまま良い状態を保って大会を迎えるぞ。


 に、しても


「あ゛―、腹減った!」


 家まではようやく中間地点ってとこ。一年同士色々話せたし蛍も見れたし後悔はしてないけど腹は減る。昼食い損ねたおにぎり、やっぱ話してるうちに食べときゃよかった。こうなるって早いことわかってりゃ夜は大丈夫って伝えてどっかで食べていけたんだけど、まあ仕方ない。信号待ちの間に来た帰りを心配する連絡に今帰るって返すと、すぐにご飯あっためとくって返信が来た。

 ありがたい。夕飯なんだろ。

 そんなこと思いながら、ペダルを漕ぐペースを上げた。


閲覧、いいね、ブックマーク、評価本当にいつもありがとうございます!


お知らせ

人物名を中心に祭千との練習試合(57話~67話あたり)一部修正を行いました。話の展開については変わりありません。

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