挫折
その後も、思い返すとあまりの情けなさに叫びたくなるような醜態を晒しに晒した。
絶望の龍野戦を終えて次の相手は榛屋工業の水澤くん。同級生だけど、中学生の頃は一度も戦ったことがない。さっき悪名高いわが中学と練習試合をしたとの証言から思い出した学校名からして、地区が違ったからそもそも県大会にお互い勝ち進まない限り出会いようがないのだ。残念ながら俺の初県大会は三年生の夏だったからそもそも機会なんて実質ほぼゼロだったのである。
そんな相手だから得手不得手も全く分からない。だからとにかく自分のやりたいこと、得意なことを思いっきりやってみようと思ったんだけど……。さっき挨拶した時の印象とは打って変わって、水澤くんは手堅い立ち回りをしてくるし何よりミスが少なかった。晴風でいうとひなた先輩に一番近い感じがする。そしてそんな手堅さの中でもレシーブの上手さは一級品。どんなタイミングでスマッシュやドロップを打ち込もうと全て綺麗にロブを挙げられてしまうし、攻め続けてこちらが疲れてきたタイミングで綺麗な低い軌道でカウンターを返されてあっさり失点。その後も一回一回のラリーが全部長くて、俺だけどんどん消耗していった。振り返ってみると、直前の龍野さん戦で得意だったはずのネット前のラリーでも点が取れずに終わってしまったから、無意識だったけどそれを引きずってネット前を避けてしまっていた。それどころか相手の動きをしっかり見極めることもせず、先を読んで動くことも全然できなくなっていた。その後も必死にやっていたつもりだったけど結局はミスをするのも負けるのも怖くて、長引くラリーを言い訳にし安定に走ってしまった。それじゃ負けることがなかったとしても絶対に勝てないのに。ほんと、何やってるんだ自分。
「うーん、結局お互い同じような点数っすね。いい勝負だったけど今度は負けないから!」
そうにこやかに握手を求めてきた水澤くんに対して、自分がどう答えたのか全く覚えていない。
それからも榛屋の副部長香保さんや妙里の甘楽さんを筆頭に、ここは県ベスト四ですか?長頂上決戦ですか!?と聞きたくなるような面子との練習は続いた。明確にリードした!主導権を握った!って思える試合は全然なくて、なんていうか完全に突き放されることこそないもののだからといって手ごたえも感じなくて物凄く形容しがたいけどモヤモヤする状況の連続。挙句再びの筋トレを挟んだ後迎えた榛屋の部長鷹山さんとの時間は大変恐ろしかった。
どこ打っても返ってくるのは当然として、さらになんだか観察されているというか試されているような感じがしてさっきの龍野さんとはまた違った方向で凄く息苦しい。ネット前に持ち込むことはできるものの、全部きわどいコースは避けて危なくなる数手前で必ずロブを上げてくる。
「ふっ!」
甘く上がった球をスマッシュで返す。取られたものの、コントロールをつけた返球ではなくラケットに当てただけって感じだから悪くない。さらに手前のネット側に浮いてきたシャトルと相手の様子を見て、少し迷ったけれどプッシュ!と見せかけネット前に軽く落とした。鷹山さんは足もラケットも動かしていない。正直反応されると思ったんだけど……。なんか変だ。ゆったりと歩いてシャトルを取りに来る鷹山さんが、ネット越しに笑いかけてくる。
「んー。やっぱりね。少なくとも君単体じゃ全然怖くない。やっぱり団体戦じゃダブルス専門な感じ?さっきの花光君は確か同級生と組んで個人戦ならいいセン行ってたはずだし、だとすれば消去法でシングルスは松下と他の一年生君たちかな。うちから声かかってたって聞いたけど、ちょっと期待しすぎたかも。想像と違ったよ」
「なっ…………!」
積極的に仕掛けるてくる気配は全くなくて、やけにラリーを続けてこようとするとは思っていた。なにか探られているような感じは多少していたものの、だからってこんなじっくり分析されているなんてこっちこそ想像してなかったから怖い。というか何故俺が榛屋工業からスカウト来てたってご存知なんですかっ?いくら部長とはいえ、そんなのわかるものなのか?!もし話が行った選手の一覧に目を通す機会があったとしても、強豪ともなれば少しでも優秀な選手を獲得すべくかなり広く声をかけているはず。星の数とまではいかずともかなり大人数に話が行っていただろうに、どうしてそれを受けもしなかった俺のことなんて把握してるんだ?!
「それに、フォームの自己流なのかな?全然きれいじゃない。ま、自分に合ってるならいいけど体壊さないようにね」
「えっ…………」
今、俺、点とったよね……?何も口を挟めないまま置いてけぼりをくらった直後に思わずそう聞きたくなるような言われっぷり。できれば気のせいだと信じたかった。が、悲しいことに現実でした。
そこですっかり魂を抜かれて気づけば最後の五分。目の前にいるのは県チャンピオン赤檜の一年生、八重田くん。
「おっ!最後羽代かー!よろしくなっ」
そう丸一日がかりのハードな練習が終わる直前とは思えないほどの屈託のない笑みが眩しすぎて、直視できなかった。そして結論から申し上げよう。
俺、シングルス、全然、向いていないのでは?
先ほどまでの連戦とダメ押しの鷹山さんで蓄積されていたあれこれ。そして目の前の八重田君が決定打となってそんなことが頭にチラつく程度には、何かがポッキリ折れた。
初球は大砲のような音と共にスマッシュを打ち込まれ失点。その後も、もうやけっぱちになって色々と雑になっているはずのフェイントに引っかかってくれたり、明らかにアウトの球を追っかけて打ち返してくれたりとなんだかんだ付け入る隙は他の人と比べたら見えるものの、なんというか根本的にプレイのスケールが違った。俺が小手先で何か仕掛けようとしたって、それを覆すなんというかエネルギーみたいなものを彼は持っていた。
小夜川、まではいかないものの相当なパワー。そして並外れた運動量に一年生とは思えない身長。最低限コントロールもあるし、あんなピリピリしてる赤檜学園にいても自分を貫くメンタルもある。こんなに全部、持ってる人がいるんだ。それを突き付けられて、今まで地道に積み上げていくことでしか勝つことができなかった自分がなんだかアホらしくなった。
中学の頃だったら自分がチャレンジャー側なのはわかり切っていたし、他の部員も俺をチームメイトとは認識していないことはわかりきっていたから周りを気にすることなく自分のことだけに集中できた。だけど今はちゃんとチームの一員として扱ってもらっているのがわかるし、ありがたいことにきちんと戦力としてカウントしてもらっている。昔から心の奥底で望んでいた環境に身を置いているのだ。なのに、今日は全くいいところもなく負け越した。ほんとに、何してるんだろ。
インターハイ予選、今のところのオーダーとしては
その一
第一シングルス 小夜川、
第二シングルス 幹人先輩
第三シングルス 俺
第一ダブルス 涼先輩・ひなた先輩
第二ダブルス 幹人先輩・俺
そのニ
第一シングルス 小夜川
第二シングルス 幹人先輩
第三シングルス 涼先輩(orひなた先輩)
第一ダブルス 涼先輩・ひなた先輩
第二ダブルス 幹人先輩・俺
その一の方を中心にに状況に応じてその二や他の組み合わせを使いつつ戦っていく予定だった。でも、俺がこんなならシングルスからは外してもらった方がいいんじゃないかって。今日そう思ってしまった。あれだけ出たかった団体戦で二試合も任せてもらえるなんて、それがどれだけ嬉しい事なのか、凄い事なのはわかっている。だけど、なんだか急に自信がなくなってきた。高校入学してから白間川戦、春風杯、と順調すぎただけで、中学時代の「落ちこぼれ」って評価が本当は正解なんだろうか。
色んなことが頭を回りだしだらもうその後のことは全然覚えてなくて、気づけば今だ。午前中雨間にいるであろう同級生のことを気にしていたのが随分平和な悩みに感じてしまう。それくらい、なんか今日は何やっても空回るしうまくいかないし、全部だめだった。
・・・・・
そこまでようやく話しきり一息ではなく思いっきりため息をつく。ごちゃごちゃ考えてるよりはなんか言葉にしてみたことで少しすっきりした気がする。なんか一方的に聞いてもらっちゃったし、今度二人には購買のジュースぐらい奢ろっと。そう心に決めた。
周囲にはカエルの鳴き声だけが響いていて、こんな状態なのに本番までもうほとんど時間がないって嫌でも認識させられてしまう。
そーいや、小夜川って家駅に近いんじゃなかったっけ?気づけばもう青葉の家近くまで登ってきてる。あちゃあ……どっかで止まって話すべきだったよな。脳内で開催され欠けた反省会をストップして、ひとまずもう辺りも暗いし早めに小夜川を帰さないといけない。気まずい話しちゃったし、ここは俺が解散の号令をだそう。そう思って口を開きかけた。
「あ、のさ、ちょっと止まって話さねえ?ほら、こことかちょうどベンチあるし」
「賛成!わ、僕久しぶりに来たよ」
なんか気合の入った面持ちの小夜川が指差したのは小さな公園。隣には神社もある。ここ、ランニング中に立ち寄る事があったけど神主さんもいないみたいでたまにお掃除してる近所のおじいちゃんおばあちゃんとあいさつしたりしたっけ。この落ち着いた空気が好きで、自然とたまに足を運びたくなる。
もう夕飯時だし、早めに切り上げないと。そう思って、既に自転車を止めてベンチに向かう二人を急いで追いかけた。




