三強との邂逅 その3
「龍野、この後一緒に練習する晴風の花光と羽代だ」
「ああ。晴風……松下幹人が在籍しているところか」
「そうだ。そこの二年と一年」
こちらを窺う視線が鋭くて、今日何度目かはわからないけど心臓が跳ねた。
「松下幹人、少なくとも以前大会で見かけた際には中学時代ほどの力を感じなかった。だが、今日の練習を見る限り何やら変化があったようだな」
一人で納得した風に口角を上げる龍野さん。近づきがたい雰囲気で、仁田さんが紹介してくれてどうにか会釈はしたもののそれに続けて言葉を出すことができない。なんか、さっきまでに顔を合わせた二校で「エース」とされている豹我さんも鷹山さんも凄かったけど、なんだろう、この人は別格だ。そう視線が合った瞬間に思った。
「ここ数年で赤檜以外が全国に進んだことは無いし、今年もそれは変わらない。松下がいようと、だ」
ん?突然なんだ?!何の脈絡もない勝利宣言を受けてあっけにとられているうちに、龍野さんは去って行った。
「あ~……すまん。ああいう奴なんだ。実力は折り紙つきなんだが、その、こう、わが道を行くタイプでな。中学んとき、一個下だった松下に負けたの相当悔しかったんだろう。最後の大会、最終セットまで競って惜しくも及ばなかった相手がそのまま全国で入賞なんてしちゃあな。それも後輩。俺もその立場だったら思う所がないとは言い切れない。そんで、いざ奴が高校に進学するってなった時当然県内じゃ一番の自分とこか、榛屋や妙里あたりに来るかと思えば松下は全く予想外の晴風に行っただろ?それに対して勝手に腹を立ててんだ。高めあうライバルになれるか、それともリベンジを果たせるかって一人でウズウズしてたんだな。見た目に関しちゃ大人に見えるが、中身は子供だよ。少なくとも俺は、強いとされている学校に行く事だけが正解だとは思わない。けど、考えは人それぞれってこった。ま、妙里南に来といてそんなこと言っても説得力ねえな」
「なる……ほど……?」
とどのつまり、龍野さんは幹人先輩をバリバリに敵視している……と。
「んで、龍野中心に赤檜が精鋭ぞろいなのは言わずもがな。印象としちゃうちや榛屋に比べてプライド高くて固い連中が多いってとこかな。そんで龍野は自分が勝った相手に全く興味なしときたもんだから、今年こそは俺たちも視界に入れてもらわないとって気合を入れてるわけだ」
妙里も、榛屋も、バドミントン続ける気がなかった俺ですら名前を知っていた学校なのに。
「三年かけてようやく顔と所属を覚えてもらえたからな。次は絶対に負かして名前まで覚えさせてやる」
きっと俺なんかが想像もつかないくらいたくさん試合に出て、勝っているはずなのに、赤檜学園には、龍野さんにはそれでも及ばないのか。闘志を燃やす仁田さんが、なんだか急に遠い世界の住人に見えた。
「あ、仁田さんじゃないすか!」
「おお、八重田か」
「お久しぶりです!あれっそっちは……?」
間違いなくこの後の半面シングルス、実力の差を見せつけられるんだろう。それを確信して、ちょっぴり憂鬱になってきた。強い人とやるのは吸収できることも多いし基本いいことづくめなんだけどさ、それでも完膚なきまでぼっこぼこにされるのは慣れているとはいえ心に来るものがあるのだ。
そんな心とは正反対に、背後から元気な声がするからびっくりした。そりゃあもうびっくりした。振り向いた先には、うわ、でかい。小夜川より身長あるかも。いや、もしかするとひなた先輩よりあるか……?八重田と呼ばれた彼は、不思議そうにこちらを見つめている。
「えっと、この後一緒に練習させていただく晴風高校一年の羽代です!それでこっちは二年生の……」
「花光…………です」
「お~!羽代同級生じゃん!敬語いらないよ。オレ郷って言うから、八重田でも郷でも、はっちゃんでも!好きに呼んで。赤檜今日は一年生オレだけだったから、仲間できてうれしい!それで花光、さん?はでかいですね!身長いくつですか?」
「あ、え、その…………最後に計った時は、一八一あった、かな」
すんごいマシンガントーク。すっかりペースに乗せられたのか、あのひなた先輩ですら初対面のはずの八重田君の質問に答えている。
「よっしゃ!オレのが一センチ高い!あ、羽代はシングルスとダブルスどっちが得意?オレはシングルス!」
「ダ、ダブルスかな?」
「へぇ、じゃあさじゃあさ!ラケッ「八重田。あっち、呼ばれてるぞ」」
「へっ?ほんとだ!みんな集合してる。それじゃ、また後で!」
マシンガントークに慣れた様子で何も言わずに見守っていた仁田さんが不意に口をはさむから何かと思えば、確かに指差す先には赤檜学園と思わしき選手たちが集合している。うっわ、なんか冷たい感じというか、皆表情がない。そう思うと八重田君はチームの雰囲気とはずいぶん対照的なんだな。
ピリついた空気などどこ吹く風。「スイマセーン!」なんて明るく謝りながら嵐のように去っていく背中を見て、何やらドッと疲れを感じた。
「八重田は……、な。赤檜の中じゃ珍しいタイプだよ。確か県外から推薦で来たらしいんだが、最初っからずっとああだ。懐っこい。よく合同で合宿なんかもして顔合わせるから、なんだかんだ後輩みたいなもんだ」
へえ、やっぱレアなタイプなんだ。というか、今日出会った一年生皆ガツガツグイグイしてるから、強豪の一年生ってこの前の囃子君も含めてみんなそうなのかとちょっと不安になってくる。
「これで一通り回ったか。それじゃ、この後はよろしく頼む。俺も一度戻るから、二人も今のうちに水分補給とか済ませとけよ」
「お付き合いいただきありがとうございました。こちらこそ、またお願いします」
部員も多い強豪校でレギュラーの座を勝ち取っている時点で只者ではないのはわかっていたものの、こんなに一癖も二癖もある人達ばっかりなのかと驚いた。さっきまでに聞いたいろんな名前が頭を飛び交って、情報は渋滞中。前にもこんなことあったな、なんて記憶をたどって、初めて晴風のバドミントン部へ足を踏み入れた日を思い出して笑ってしまった。残るは後数時間、一日やそこらで劇的に変わるわけがないことはわかっているものの、それでも一〇〇パーセントでやり切らなかったら後悔するのは自分だから。もう一度気合を入れ直し、軽くラケットを振る。
ここまでで既にかなり疲れていたけれど、残念ながら本番はここから。
「五分交代。余った奴はさっきの筋トレ」
端的な指示で始まったこの時間は、多分一生忘れられないと思う。
人数の関係もあって全員コートに入ることができるわけじゃないから、最初は筋トレからスタートだった。




