三強との邂逅 その2
「鷹山、晴風の二年と一年だ。次一緒に練習する」
「ん?せい、ふう……?あ~っとどこだっけ?んー……」
軽く屈伸をしていた人を呼び止める仁田さん。名は鷹山さんというらしい。「晴風」という単語に首をかしげる様子は先ほどの豹我さんと同じで、ここまで無名なんだ…………となんだか複雑になる。まあね、警戒されないならされないに越したことはないんだけどさ。俺ですら入学するまで晴風にバドミントン部あるって知らなかったし、他校の人なんか余計知らないのは当然だ。
「松下のい……」
「あ、あー!松下君とこね!ふーん、なるほどね」
そして皆揃って「松下」という単語が出たとたんに納得する。これもまた複雑だ。晴風は、幹人先輩だけじゃない。涼先輩だって、ひなた先輩だって、小夜川や青葉だって、凄いのにって思う。でも一方で間近でみんなを見ていない他校の人に理解してもらうのが難しいこともわかってる。だからこれからインターハイ予選で結果を出して、晴風は強いことを証明するのだ。
「んー、見たところ二人とも結構長くバドミントンしてる?そっちの大きい君はたまに小・中の頃練習会とか大会で見かけたことある気がする」
「……そう、ですね。小学校からやってました。…………鷹山さん、凄く上手だったので、勝手に知ってました」
「やー、そう?照れるなー。確か、結構手堅く堅実で子供っぽくない戦い方する子って見たときに思ったよ」
なんかやけに情報が詳細。よく見てるんだな。
「そっちの中くらいの君は……あれか、もしかしてあのうるさいオッサンコーチの中学にいたかな?」
「あっ!あー……多分そう、ですね」
「しょっちゅうしょーもないこととかどーでもいいことで怒鳴ったり、訳わかんないくらい贔屓してたりすっげー目立ってたから覚えてる。何度か試合中審判に注意されてたよなー」
お恥ずかしい。水上さんにも団体戦のことツッコまれたし、明らかバドミントン以外のことで名前が広まっててとにかくお恥ずかしい。
「そんであれだよね?君、個人戦で関東出てた?」
「あ、出てました」
「やっぱそーだよね!見慣れない学校の選手が出てるーって思ったから覚えてた」
ホントに、よく知ってるな……?
「フムフム……。見たところフィジカル的にはそこまで秀でているわけではない?うんうん。無駄なく動くスピード重視でおそらくはそこまでパワーがあるわけじゃなさそう。決定打に欠けるのが欠点ってところかな?」
なにやら上から下までじっくり眺められたかと思えば、それこそバトル漫画にありそうな分析が始まったから驚いた。色々心当たりはあるものの、そもそも人を捕まえておいて「中くらい」だの「フィジカル秀でてない」だの中々失礼じゃないか?あまり直視したくない事実が思わぬ方向からすっ飛んできて、思わず涙目になった。それ以上言ったら先輩を召喚してやるぞコノヤロウ!
「おっと、ゴメンゴメン!勝手に一人でテンション上がっちゃった」
なんかもうどうリアクションしたらいいのかわからない。フリーズする俺たちを見かねたのか、鷹山さんの隣に歩み寄ってきた人がこちらに笑いかけてくれる。
「悪い。コイツってばいつもこうなんだ」
表情こそ困っているように見えるものの、声色からは何故か全く申し訳なさを感じない。
「あ、オレは香保。香保伊吹。副部長やってる」
全く申し訳なさを感じない声色と食えない笑顔、なんだか底知れない雰囲気を持つ香保さん。さっきちらっと見えたけど、他のコートから飛んできたシャトルをほとんど見もせずに打ち返していた。それも、自分のラリー中にだ。スマッシュをバックハンドで綺麗に打ち返したかと思えば、あっという間にフォアハンドに持ち替えて隣のコートから飛んできたシャトルを元来た方へとクリアした。そのラケットさばきだけで、物凄く上手いことがわかる。
「俺、練習試合したことありますよ!確か三年になる前だったから春休みかな?こっちも大所帯だけど全員引き連れてくから一人最低一回は試合できるようにしようって伝えておいたのに、いざ行ってみたらレギュラーの奴らにしか試合をさせないからなんじゃあれって先生怒ってたんすよ。あ、俺一年の水澤みなとっていいます。よろしくっす!」
「お、お願いします……」
グイグイとこちらにやって来た水澤くん?は、パッツンの前髪にツンツンヘアーでなんかちょっとウニみたいだ。俺全然顔に見覚えないんだけど、それもそのはず。日記に書いた記憶のある春休みの練習試合だとすれば、試合なんて一回もせず審判やら片付けやら掃除やら外練しかやらせてもらえなかった日のことだから、相手の学校なんてほぼ見ていないのだ。それでなくとも俺、顔覚え悪いし。
「どうです?うちは県大会にも出れない落ちこぼれはコートに立たせないと決めているんです。これくらい発破をかけてやらんと最近の奴らは全くダメでね」なんて胸を張っていたけれど、明らかに相手方のコーチと先生は引いていて俺が勝手に滅茶苦茶恥ずかしかった。そのよくわからん独自のお考えもすぐにブームが去って、確か一週間と経たずに「誰にでも平等にチャンスを」とか言い出してて笑いそうになったっけ。
おっといけない。こんなこと思い出すだけ時間の無駄無駄。
鷹山さんに香保さん、そして水澤くん。中学時代は俺が幹人先輩すら知らないほど周りに興味がなさ過ぎたせいで、強豪榛屋工業にいるんだからきっと有名な選手なんだろうけど全っ然聞いたことがない。俺にとっては今日が初めましてだ。と、いうかさっきの妙里南のみなさんも初めましてだったし、もしかしなくとも俺三強の選手ぜんっぜん知らないのでは…………?まあ、相手が誰であろうと勝つしかないんだけども。
「そんで、今日来てるのは俺の同級生の双子と二年生の先輩が一人!ほんとは団体戦メンバーもう一人いるんだけど、先輩体調崩して急遽来れなくなっちゃったんすよ」
「せっかくの機会だったのに残念だよねぇー」
「そんなこと言って、お前部長のくせに朝一人足りないの気づかなかっただろ鷹山!」
「や~、それはそれだよ。それで、休憩もうすぐ終わりそうだし赤檜さんにもご挨拶するんでしょ?もう連れてってあげた方がいいんじゃない、仁田?」
「む、そうだな。では次に行くか」
香保さんは感情が全く読めないし、鷹山さんはなんだか常に楽しそうでフレンドリーだけどそれだけの人とは思えない。何か二人とも、俺の苦手なタイプかも。反対に水澤くんは、感情がわかりやすくて安心する。まあ、プレイスタイルがどんな感じなのかは今話しただけじゃ全然わかんないけどさ。でも、なんか鷹山さんと香保さんの三年生コンビは、祭千の舞宮さんに近いものを感じるというかなんというか……こう、ぞわっとするのだ。幹人先輩や仁田さんの見てわかる「強そう」とはまた違った方向で頭の中の警戒センサーが超反応してる。隣のひなた先輩も、なんだか落ち着かない様子だ。
この後の半面シングルス、できる限りいろんな人とやって実際コートでの様子を見たい。そんで、盗める技術はじゃんじゃん盗んでこよう。祭千の時と同じ当たって砕けろ、だ。そう決意を固めて、ヒラヒラと手を振る鷹山さんに会釈したあと再びずんずん進む仁田さんの背中を追った。ただ、今回の相手は県内。間近に迫った大会で倒さなければいけない相手。そう考えるとどこまで通用するんだろうって不安も正直浮かんできていて、変な緊張を感じ始めたのも後から思い返すと確かこのタイミングだったな。




