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クソ野郎

投稿時章分けがされていませんでした。混乱した方がいらっしゃったらすみません。

正しくは天野視点ではなくここから小夜川視点です。


2024/5/10 18:07

 「さいっあく」


 吐き捨てるように小声で呟く天野さんの前にいる人、今「涼の兄」って言ったよな?でも……、身長は青葉より少し大きいくらい。大きな目にふわっとなんか柔らかそうな髪、天野さんの真逆を行く見た目だ。というか、青葉の兄ですと言われた方がしっくりくる。 というか天野さんと似ているところが全く見つからない。顔も声も体格も、なんかとにかく真逆だから、いまいち目の前の二人が結びつかない。


「あまりょー、兄ちゃんいたん?初めて聞いたけど」

「…………認めたくないけどいる。認めたくないけど、あれ、本物の兄」


 ニッコニコなお兄さん(本物)に会釈をしつつ驚いた様子の松下さんと、明らかに眉間にしわが寄りまくっている天野さん。二回も認めたくないって言ったな。どんだけ嫌なんだ……?


「ね、小夜川くんでも涼ちゃん先輩にお兄ちゃんがいるって情報は仕入れてなかったん?」

「そう、だな。確かに雨間高校に天野って三年生の選手がいるのは知ってた。けど、天野さんは高校から群馬(こっち)来たって言ってたし、雨間の天野って人は中学から大会の出場記録残ってたから偶然苗字が一緒なもんだとばかり……」

「は~、そっか。先輩にもなんか事情があったのかもしれないけど、小夜川くんでも気づけないならそりゃ誰も知らないはずだぁ」

「パッと見た印象と今話してる雰囲気だけ見ると、天野さんってよりお前に似てるけどな」

「え~、そう?僕あんな賢そうに見えるかな?」


 呑気に照れちゃうな~なんて返してくるから対応に困る。じゃなくて青葉の言う通り、今の今までバドミントンをしている兄弟がいることなんて全く気付かなかった。そこまでして天野さんが隠したかったことがこんな形で発覚して、大丈夫だろうか。

 察しが悪い方だとはいつも自分で思ってるけど、そんな俺でも明らかにお兄さんに対して身構えているのがわかる。いつもなんか明るいっていうか俺とは真逆だなって思うくらいコミュニケーション能力高くて世渡り上手に見えていた天野さんが、だ。


「お、そっちが後輩?改めまして、涼の兄の陽です!よろしくお願いします!」


 松下さん(と盾にされる花光さん)を経由して弟とコミュニケーションをはかっていたはずお兄さんは、気づけばこちらに人好きのする笑顔を向けている。


「ッス。晴風高校一年の小夜川です。」

「同じく青葉陸です!涼ちゃんせんぱ……じゃなくて涼先輩にはいつもお世話になってます!」

「羽代、颯太郎です。よろしくお願いします」


 雨間の天野さん越しに見える晴風(うち)の天野さんは、ついに目から光を失っている。なぜか羽代も少し表情が硬いし、二人してどうしたんだ?


「涼と違って素直で良い子たちじゃない。なんでお前はそんなに素直じゃないわけ?」


 相変わらず笑みは崩さないのに、しれっとムッとするようなことを言ってくる。悪気が感じられないところが余計にモヤモヤする。


「あ、次ノック練みたいだから、もし良ければ一緒のコートでやろうよ!せっかく今日会えたんだしさ」


 ライバル校の実力が間近で見られるなんて願ってもない。松下さんも同じことを思ったみたいで、もちろん了承。その横ではいよいよ天野さんから表情が抜け落ちている。


「っとにあのクソ野郎……」


 先ほど退場していった講師がタイミング良く戻ってきたおかげで、多分天野さんが舌打ちと共に吐き捨てた言葉は俺以外には聞こえていなかった、と思う。しかし、今日の嵐はまだまだこんなもんでは終わらなかった。


 ***


 前後左右完全ランダムなノック。結局人数の関係で、羽代と花光さんが別のコートに移動してくれた。まだ半日も経っていないと思えない地獄のような疲労は別にして、某兄弟を除けば比較的落ち着いた雰囲気でノック練習は進んでいた。雨間のメンバーはほとんど全員眼鏡をかけていて、やっぱり俺の頭良い=眼鏡の図式は間違っていなかったんだと謎に自信がわいた。

 先は長いと思っていたものの気づけば三セット目も終盤。というか残るは天野さんのみ。周りもぼちぼち終わりそうだから、俺らが特別遅れてるわけでもなさそうでちょっと安心した。のも一瞬だった。


「じゃあ、シャトル出ししちゃおっかな~」


 それまでシャトルを出していた松下さんの後ろからちょろっと飛び出してきたのは案の定お兄さん。


「あんまり弟を揶揄ったらかわいそうですよ。ただでさえ優秀で雨間の主将も務める天野君と比べられて肩身が狭いだろうし」

「や~、そりゃ雨間(うち)に来なかったことにはちょっとがっかりしたけどね。でもまあ、どこ行くかも何するかも個人の自由だから」


 眼鏡をかけたノッポがこちらをどこか馬鹿にした様子の視線を向けると、それをお兄さんが苦笑いでたしなめる。なんだあのノッポ。一見真面目走なのにすげーやな感じだな。というか確かに、天野さんどうして雨間には行かなかったんだろう?俺と違ってそんなに勉強してる様子もないのに成績もそれなりをキープしてるみたいだし、気合い入れればきっと雨間にだって合格できる力はあったはずだ。


「ほら、早く涼もコート入って。いつまでも終わんないから」


 周囲はポツポツとメニューをこなし終わったコートも出てきているから、そろそろ終わらせないと。それは天野さんもわかっているようで、仏頂面でコートに向かう。


「は~い、行くよ~!」


 そんなちょっと気の抜ける声と共に始まったノックは、もう最悪だった。

 前と見せかけて後ろ。ジャンプスマッシュの隙を突いて今度は前。ことごとく逆を突いていくから、ノック練習のはずなのに、天野さんは半分もシャトルに触っていない。先ほどまでの比較的明るい感じの雰囲気からは想像できないくらい、めちゃくちゃえげつない球出しだ。結局どうにか食らいつこうとシャトルを追い続けた天野さんは散々振り回されて、最後には足がもつれて膝から崩れ落ちてしまった。カラン、とラケットが落ちる音だけがやけに大きく響く。


「ま、こんなもんか。お前やっぱわかりやすいね。ジャンプスマッシュも、その感じじゃ隙を晒すだけ。あの松下君がいるとこに行ったんだからどんだけ上手くなったのかと思ったのに、全然怖くない」


 そのまま肩で息をする天野さんに投げかけられた言葉は、トーンこそ明るいもののとんでもない毒を含んでいた。こんな時に限ってシャトルの片付けで松下さんと青葉は遠くにいて、この場にはモップを持った俺と一触即発の兄弟だけ。どうすりゃいいんだ?

 多分時間にすれば一分足らず。なのにまるで昼休み前にある数学の授業のようだった。火花散るにらみ合いが始まりかけたところで結局集合がかかってどうにかその場は解散したもののその後の天野さんは心ここにあらずといった感じでボロボロで、ようやく昼休みを迎えたかと思えばフラッとどこかに行ってしまった。それが気にかかりつつも、休憩時間は限られているから早いところ昼飯を食べてしまわないと後半の地獄をとても乗り切れそうにない。別のグループで練習していた羽代もなんか元気ない気がするし、本当どうすりゃいいんだ。

 考えても何も良い案は浮かばないので、ひとまず栄養補給に集中した。ものの、うっかり普段は飯用に持ち歩いているはずのお茶を忘れたことに気づく。大抵皆面倒がってスポドリで済ませてしまうけど、俺は絶対弁当、いや飯にはお茶派だ。ジュースも邪道だと思ってる。ので、


「ちょっと自販機行ってきます」

「いってら~!確かこっからだと入り口のより休憩所側のやつの方が近いはずだぞ」

「あざっす。すぐ戻ります」


 松下さんの声を背に受けておにぎりも食いかけだから早いとこ行ってこようと出発した……はずだったのに。


「…………」

「………………」


 目の前には全く感情がうかがえない目をした天野さん、気まずすぎる沈黙。ペットボトルから垂れる水滴の音すら今なら聞こえる気がする。

 なんだこれ?いつか似たようなことがあった気がする。そん時は立場が逆だったきがするが…………。今ならわかる。あの時の天野さんに謝りたい。これ、ものすごく気まずいしどうしていいか全くわからない。


ほんとにどうしてこうなったんだ?


自分に問いかけてもわからないけど今すぐここから逃げ出したい!


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