開催!合同練習会
「と、いうわけで。県内合同の練習会が開催されます!」
「おー!」
盛りだくさんだった合宿が終わって、その後も日々の練習はもちろん、祭千の監督の協力もあってたくさん練習試合を重ねている。インターハイまでもついに半月を切った。四月から数えて二ヶ月たらず。でもものすごく密度の高い時間を過ごせている。そんな頃放課後の部室で南先輩から発表されたのは練習会のお知らせ。幹人は既に歓声を上げてウズウズしてるし、ひなたも心なしかソワソワしている。俺は強くなれる機会が増えるのは嬉しいものの、ちょっと気乗りしない部分もあって複雑だった。
「はーい!春ちゃん先輩質問です!」
「ん?なあに青葉?」
「練習会ってことは試合はしないんですか?」
「お!良い質問だね。試合は多分しません!元オリンピック代表だった方がコーチとして来てくれて、県内のレベルアップのために開催されるみたい。人数制限はあるみたいだけど、うちはこれでフルメンバーだからもちろん全員参加!きっと三強含めてほとんどの学校が出てくると思うよ。もしかすると多少は試合形式の練習とかもあるかもしれないけど、大会とかに比べたらそこまで手の内を晒すことにはならないだろうしね。基本はビシバシ基礎練習するらしいし、それならリスクよりメリットが多いと判断して晴風も参加しようと思います!」
フムフムと頷く青葉は、その懐っこさから今ではすっかりチームのムードメーカーになっている。盛り上がる二、三年生+青葉の横で、羽代の颯太郎君は何やらプリントを見て難しそうな顔をしている。
「どしたん羽颯、何か気になるところあった?」
「は、羽颯?初めて言われました。じゃなくて気になるところ、あるにはあるんですけど…………」
「なに~?」
なんというか、羽代は最初と比べて随分壁がなくなった気がする。白間川との練習試合や合宿を経て、きっと彼にも何か心境の変化があったんだろうな。前より砕けた口調も増えたし。だから今ならいけると見て多少踏み込んでみる。
「あの、俺中学の部活あんまり良い思い出ないんですけど…………、元凶の一人が多分参加予定の学校にいるんです。正直今更会ったところで特になんだって感じですけど、でもわざわざ顔合わせたくはないなって」
プリントの文字列を指さしながら声を落とす羽颯。人差し指の先にあったのは、俺にとっても見慣れた名前だった。
「あ~雨間高校か…………。雷山もなんかチャラい奴多くてやな感じだけど、俺いかにも頭良いです~って感じ出してる奴多くて雨間の方が好きじゃないんだよね~。プライド高そうで」
「えっ……えぇ……?」
雷山も忘れはしない地田とのあれこれがあってだいぶムカついている。でもそれ以上に俺としては雨間にいるあいつへの私怨の方がでかい。でも、何も知らないはねそ~からしたら、突然試合したこともない学校へ手厳しい意見を浴びせているやばい奴だ。つい言い過ぎちゃった!
「ま、まあ確かに多分県内じゃ一番頭良くて色んな意味で突き抜けた人が集まってるイメージはありますけど……。なんだかんだ周りの個性が強くて俺の同級生はきっと呑まれてそうです」
どう話を続けたものかと一瞬戸惑った俺にそっとフォローを入れてくれる羽代は、一年しか離れてないけど随分しっかりした後輩である。それだけ言うとまたプリントを眺め始める横顔は、入学した頃よりなんか大人に見えた。ホント、どんどん技術面でも精神面でもどんどん成長してくんだもん。前だったらこんな会話続けずきっととっとと距離取られてたよ。なんか俺の方が子供っぽいじゃん。そんなちょっとひねくれた心の声に蓋をする。
羽代の変化の理由として、幹人とダブルス組むようになって一緒にいる時間が増えたことも結構大きいと思う。あの何でもどんと来い!って雰囲気は自分が後輩だったとしてもペア組んだり話したりもしやすいだろうし、実力があるからって決してえらそうにしたりもしない。なんていうか、気づけば周りも巻き込んで前向きにしちゃうからもうアレは才能だよな。
技術の面でもやっぱり影響は大きいと見ている。小夜川(馬鹿力発覚前)と組んでた時は自分たちが不利にならないよう配球について考えつつガンガン攻撃も組み立てていくという、今よりもちょっと忙しい状態だったから、きっと余裕がなかった。今振り返ってみればだけど、あの頃の小夜川はホームランしないようにデータと返球パターンをとにかく頭に叩き込んでその予習や羽代の指示通りに動くことで精一杯だったから、無意識とはいえそれをフォローする側にまわってた羽代も当然忙しいに決まってる。それが今は攻撃力は勿論守備力も文句なしな幹人が相棒だから、少なくとも攻撃は自然と組みあがってくる。だから考える余裕が生まれたみたいで、思いもよらないことを羽代はたくさんしてくる。参考にはなるけど負けてらんないなって最近はちょっと焦るくらいだ。だからって小夜川が悪いってわけじゃなくて、コントロールも八割方会得した今の状況で組んだらまた違ってくるんだろうけど。ま、コントロールをある程度会得したとはいえ、まだ相手の二人の位置を瞬時に判断して返球したり自分の相方を見て動いたりするほどの余裕があるわけじゃないから、上に行けば行くほど多分ダブルスで戦うのは厳しい。だから、この夏小夜川がダブルスで出る事はほぼないと思う。
それから最近気づいたけど、羽代の影響か幹人までできることが増えているなって凄く思う。一年一緒にいたのに俺じゃ幹人と差がありすぎてダブルスは組めなかったし、それを数か月足らずで軽々超えていかれるのは正直複雑だ。でも二人を見てて一+一が絶対二になるとは限らないのがダブルスの面白さなんだなって最近気づいた。確かに一対一じゃ練習中に勝ったのだって片手で数えられるくらいだけど、そんな俺とひなたのダブルスは幹羽ペア相手にだって引けを取らないしね。人は人、俺は俺。わかっていてもつい他の人が眩しく見えてしまうからやっぱり難しい。ひなたも青葉も南先輩も、皆してどんどん成長してるからこっちは焦っちゃうよ。特訓中のジャンプスマッシュ、俺ももっと磨いていかないと。
随分長く一人で考え込んでいた気がするのに相変わらず周囲は盛り上がっていて、やけに静かだと思っていた小夜川は床に正座し何やら熱心な様子でノートに書き込んでいる。
「あれ?どした~、小夜川?」
「久しぶりにいろんな学校が集まる機会なので、現状持っている情報と手に入れたい情報をまとめてます。それから、スマッシュある程度コントロールできるようになってきたんで、練習会の時はどの程度の出力で行こうかも考えてますね」
「お~!燃えてるね~」
左手ではプリントを握りしめ右手はシャーペンを動かし続ける様子は、なんかちょっと怖い。知れば知るほど小夜川って読めなくて興味深い人間だよな。
「おっと、もうこんな時間だ……。それじゃ、気を引き締めて今日も練習はじめよっか!」
壁の時計を見て一瞬驚いた南先輩が手を叩き、ようやく練習会の話題は落ち着いた。本番は週末、果たしてどうなるんだろ。なんとなくよぎっていた嫌な予感には気づかないふりをして、ラケットケースを背負い立ち上がった。
読んでいただき本当にありがとうございます。
おかげさまで七十話目です。内容的にはおそらくこれで折り返しのあたり。




