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一緒に帰ろ

「よーし!帰ってきたぞー!」


 祭千、周りはでっけー建物ばっかだしコンビニもファミレスも目の前にあるし、なんかTHE都会って感じでちょっと疲れた。座りっぱなしで固まった体を軽く伸ばしつつ、見慣れた人もまばらな改札周辺に少し安心する。電車って普段あんま乗らないから、二時間ちょっとただ座ってるだけなのになんか落ち着かなかった。さて、こっから一キロ近く。荷物多いけどもうひと頑張り。涼やひなたは今頃もうとっくに家着いてるんだろうな。駅が近かったり、色んなお店があったり、そういう場所に住むのも便利なんだとは思う。でも俺は、お使いで通った商店や小さな体育館があるここが一番良い。

 そーいや羽代は、最寄りの駅から家まで歩いて五十分近くはかかるらしい。最寄り駅方面のバスもないみたいでそりゃ自転車以外通学手段ないよな。だから今日も含めて練習試合やら何やらで電車使って移動するときには結局交通の便がいい高崎か県庁の辺りまで親御さんに乗せてきてもらうか辛うじてあるバスに乗って下ってくるらしい。今日もその辺の市街地で下りて家の近くを通るバスで上ってくんだってぐったりしてた。最終的に親御さんが迎えに来てくれることになって滅茶苦茶喜んでたけど、気持ちはすげえわかる。涼とか南先輩とか小夜川みたいに市街地とか平地に住んでりゃ割と交通手段はある。だけど、俺とか羽代みたくちょっと山の方に差し掛かると、車以外の交通手段が極端に少なくなる。から、たまに困る。同じ中学なはずの青葉は平地で比較的市街地に近い方に家があるみたいだけど羽代は学区の端の山の方だったみたいで、同じ中学といっても随分環境は違うみたいだ。

 俺も交通機関が充実しているとは言えない場所に住んでるけど、あれこれ考えるより先に体を動かせの精神で片道二十km近くを自転車で通ってる。ま、流石に天気悪い時とかは野菜出荷するついでに近くまで乗せてってもらったりとかするけどさ。電車使うのは基本大会とか練習試合の時くらい。何か慣れなくて、未だに切符の買い方とかたまに焦る。さて、ここまで来たらあとは足を動かすだけで家にたどり着けるぞ。少し伸びをして歩き始めれば、最初の信号で見慣れた背中が見えた。


「あれ、女子早めに終わったんじゃなかったんすか?」

「おわっ……って幹ちゃんか。びっくりしたー」


 女子バドミントン部部長の芽谷センパイ。行ってたバドミントンクラブも、小学校も中学校も一緒の所謂幼馴染ってやつ。


「やー、うっかり寝過ごして乗り換え一回間違えちゃったらこんな時間。ちょっと目を閉じただけだと思ってたのに、気づいた時には全ッ然知らない駅名見えてびっくりした!」

「あー普段電車なんて乗んないし、焦りますよね」

「ほんと、終点までドンブラコしなくてよかったぁ」


 あははと呑気に笑う様子は、昔から全く変わらない。


「幹ちゃんも今帰り?」

「そっすね」

「じゃあさ、久しぶりに一緒に帰ろうよ!」


 言われなくてももう薄暗くなってきた人通りのない道を、近所とはいえ流石に一人で歩かせるつもりはなかった。流石に見知った人に何かあったらと思うと心配だし。でも、ラケット背負(しょ)って一緒に帰宅なんて小学校以来だ。あの頃は先に始めていたセンパイに全然勝てなくて、家の近くの曲がり角で「明日は勝つからな!」なんて捨て台詞を放って「明日も負けない。今日より一点でも多く取れたらいいね!()()()ちゃ()()」なんてからかわれて、それで俺があっかんべーしながら別れるのがお約束だった。一年先にセンパイが中学に上がって、そこからあんまり話すこともなくなった。俺が中学に上がってからも、部活は男女で別れてたし。そんでセンパイが引退して卒業したかと思えばあっという間に自分も引退して受験生になって、俺以外わざわざこんな遠いとこ来る奴いる訳ないと思いながら晴風高校いったらいた(・・)から驚いた。同学年で晴風受けたのなんて俺しかいなかったし、進路面談でも担任の先生がここ数年では一人しか行ってないとは言っていた。言っていたけどまさかそれがこんなご近所のセンパイだなんて夢にも思っていなかった。うちは男子も女子もバドミントン強くて県内じゃ負けなし。そんな学校だったから、近場に進学しない奴は大抵スポーツ推薦で県内外問わず強豪校に進学してた。団体戦レギュラーでも個人戦でも最後の夏かなりいい結果残してたセンパイならきっと同じようにそーいう有名どころに行ったんだとばかり思っていたんだけど、実際通っていたのはバドミントンでの推薦もなくただただ遠い晴風。男子よりか女子は部員もいたし、団体戦でもベスト八とか十六あたりには食い込んでいるそこそこのチームって感じだったけど、それでもどうしてここを選んだのかちょっと不思議だった。まあ人にはそれぞれ考えや思いがあるだろうし、俺の気にすることじゃないんだろうけどさ。かくいう俺も、「なんで君が晴風(うち)に?!」なんて言われながら入部した身だし。


「はーあ、こうやって合宿帰りにへとへとで帰るのも、あと何回できるんだろ」

「んー……、インハイ本選まで進めば多めに見積もって三か月近くチャンスはあるんじゃないすか?」

「ははは!簡単に言うねー!」


 センパイがまた顔をクシャクシャにして笑い、はらりと落ちた髪を耳に掛けた。屈託のない笑顔やしぐさは良い意味で年上だから、先輩だからって壁を後輩に感じさせなくて、この軽やかな雰囲気はなんていうか才能なんだろうなって思う。女バドの雰囲気いいのも、センパイが主将だからってのは結構でかいと俺は見ている。


「でも、センパイはそれを目指して晴風(ここ)に来たんでしょ?」

「…………そうだね。うん、そのために来た」


 ちょうど一年前くらいだったか、体育館に残って練習してた時にお互い通うのは結構遠いよなって話をしたことがあった。その時先輩は、俺と同じで小さなころに見た「強豪晴風」にあこがれていたことと、それから実際見学に行ったときに見た部の雰囲気が決め手になったことを教えてくれた。決して広くない体育館。ボロボロの設備。少ない部員。自分の居る中学とはかけ離れた環境と、そんな中でもお互い支えあい励ましあい、ひたむきにバドミントンに取り組む部員たち。これまで自分の居た環境がどれだけ恵まれていたのか、それに気づけず漫然と過ごしていたとようやくわかって恥ずかしくなったと笑うセンパイを見て、なかなかそんなことに気づく中学生はいないだろうと驚いたのを思い出す。それで、ここでバドミントンをしてみたい。憧れた全国の景色を憧れた晴風で見てみたい。って周囲の反対を押し切って来たって笑ったセンパイは、めっちゃかっこよかった。


「私はさ、今後の人生でも仕事か趣味か、どうなるかは全くわかんないけど何かしらの形でバドミントンに関わり続けたいと思ってる。でもね、今後進む方向によってはこんな風に全部をかけて全国目指して全力でバドミントンするのは最後になるかもしれない。だから自分のありったけを注いだ今までの集大成のその先に何があるのか、道がそのまま続いてるのか、それとも全く違う方角へ進んでいくことになるのか、わかんなくて怖いんだと思う。ま、そんなこと今は考えずに突っ走らないと後で後悔することになるのはわかってるんだけどさ」


 空を見上げながらさっきよりも幾分静かなトーンで話すセンパイは、なんか知らない人に見えた。


「ね、幹ちゃんは?高校卒業した後もバドミントン続けるの?」

「俺?俺は…………」


 特に誰に聞かれる訳でもなかったから、そーいや今まで誰にも話したことなかったな。


「高校までで辞める!だから長くてあと一年ちょっとってことになる……と思います」

「あはは!学校でもないんだし、別に無理して敬語じゃなくてもいいのに。……やっぱりそっか。そんな気がしてた」


 なんか、もっと驚かれるんじゃないかと思ってたのに意外と静かなリアクションだ。


「そんなに意外じゃなかったっすか?」

「ん。まあね。幹ちゃん何事も猪突猛進に見えてなんだかんだ色々考えてるし、でも決して器用じゃないでしょ?中学から今までシングルスに専念してたのはその方が勝てるからだろうし、自分が勝って結果を出した方がチームが盛り上がるからチームのためでもあったんだろうなって気がしてた。でも一年生が……えーっと特にあの子!羽代君が入ってきてからは自分からダブルス始めてみたり、外部の練習に出るよりも残って他の皆と練習することが増えたり、なんか変わった。それ見て、ああ、周りの期待に応えることよりも自分のやりたいことを優先できるようになったんだって思って。しかも今までだって全力だっただろうけど、それ以上になんていうか、燃え尽きちゃいそうな勢いって言ったらいいのかな?今まで見たことないくらいモチベーション高いなって外から見てても感じてさ。それで、いつだって周りの『期待』を背負うのが当たり前だったバドミントンともしかしたら遅かれ早かれ距離を置くんじゃないかって。そんな気がしてた」


 誰にも悟られていないと思ってたのに、なんか色々当てられていて恥ずい。


「純粋にバドミントンは楽しいし、それは小さい頃から全く変わってない。だけど、ずっとバドミントン続けていくかって考えた時俺の中ではなんか違ってさ。そんで、入学してから半年くらいは似合わないけど色々悩んでた。でも考えて考えてやりたいこと見つけて、そんでバドミントンは憧れてた晴風で残り二年全力でやって、それで未練なく終わらせようって決めた。だけどさ、最初の年は色々(・・)あったし気づけば選手は涼とひなたと俺の三人だけになっちゃったじゃん?そんで正直、ああ、一番目指していた団体戦での全国は、後二年あっても叶わないかもしれないってちょっと思っちゃったんさ。でも羽代と小夜川と青葉、入ってきてくれて、遠すぎてぼやけてた団体戦全国って目標がちゃんと形になってきたから、だから一〇〇%以上でやんないとって思って。俺個人としてはまだ来年もチャンスあるけど、でも南先輩もいる今年勝ちたいって思って……ます」


 やべ!一応上下関係はちゃんとしないとって意識してたのに途中から敬語なんてすっかり忘れてて、とってつけたかのような「ます」がやけに響いた。


「なるほどね。自分で決めたことだもん、私から言うことは何もないや。なんか話しずらい事きいちゃってごめん」

「や、いつかは全員知ることだしまったく気にしてないです」


 丁度先輩の家の前で話が終わった。周囲はもう街灯の下以外はよく見えないくらいに日が落ちている。


「あれ!私ん家の方来ちゃったけど大丈夫?」

「いえ、元々暗いし送ってこうと思ってたんで」

「わ!幹ちゃんにそんなこと言われる日が来るとは思わなかったよ。ありがとね!」


 今日何度目か忘れたけどまたセンパイが笑って、俺に手を振って玄関へと向かう。カギをとり出そうとバックをゴソゴソする様子を横目に帰路へつこうとしたところ、センパイがこちらへ振り返った。


「幹ちゃんのさ、単純明快熱血の赤!に見えてほんとは考えて一人で静かに燃えてるとこ、晴風ブルーって感じで良いと思う!応援してるからさ、お互い頑張ろ!」


 それだけ言うと、今度こそ振り返らず玄関を開けて明かりのともる家へと吸い込まれていく。晴風ブルー、ちょっと懐かしい響き。俺たちが憧れた、あの頃の晴風のユニフォームカラー。もう一度、あの色が全国で輝く日を自分たちで作ることができるかもしれない。そう思うとより一層気合が入って、あんだけ合宿中シャトルを打ちまくったはずなのに明日の練習が待ち遠しくなった。


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