二日目:午後その7(課題山積み)
「はぁー!祭千、超強かった」
叫んだ勢いそのままに、布団へ倒れ込む。いやー、天国天国。
「つっても天野、良い試合してたんだろ?青葉から聞いたぞ」
「やー、正直ひなたがいつも通り安定してミスなくこなしてくれたからなんとかなった感じが大きい。俺だけ見ると、とにかく相手に予想できないような動きしなきゃーって変にひねりすぎてミス多かったし。なんか悔しい感じで終わっちゃったけど、いろんな課題は見えてきた」
「課題?」
「そ。あーしたらこーしたらって色々頭にはあるんだけど、一番はどんなときでも迷いなく使えるような自分の武器っていうか必殺技?みたいなの欲しいなーって思った。今までみたいに手数頼りじゃ上に行けば行くほど通用しないってわかったから。コーチにアドバイスもらってから最近どんな形に相手を動かしたいか、どんなショットを自分が使いたいのかって考えながら動くようにする中で、元々自分のパターンに絶対取り込める何かが欲しいって思ってはいたんだけどさ」
「武器、か」
「そ!幹人から見てさ、俺の強みってなんだと思う?」
「んー、まずやっぱそれ来る?みたいな体勢とか角度から予想外のショット打ってくるとこだろ。あとさ、前から思ってたけど割と飛べるじゃん?なんでジャンプスマッシュ使わないんかなって思ってた」
それだ!頭に雷が落ちてきたような衝撃を受ける俺に、幹人はさらに続ける。
「手数で押していくのは天野に合ってていいスタイルだし変える必要はないんじゃないかって気はしてるんだけどさ、ほら、ジャンプスマッシュって高いところで打つから当たり前だけど相手が思ってたより早くシャトルに触れることになるわけじゃん。だからさ、相手にとったら想定外の速さで返球が来る。それってリズム崩して後手に回らせるにはすげー良いきっかけを作れるんじゃないか、って俺は思う」
なるほど。そっか、何もずっと相手を崩そう、翻弄しようってしなくてもいいのか。確かにずっとありとあらゆるショットを出し続けるよりも、堅実な動きを織り交ぜて不意に意外なショットを使う方が効果的かもしれない。今日なんかまさに、一度使った手はもう次のラリーでは通用しなくなっていて、どんどん攻めの引き出しを消費していくばかりだった。そうしてもう出せるものが無くなった頃に、ジリジリと差をつけられてあっという間に試合はおしまい。引き出しがスッカラカンになった時、俺って何にも出来ないじゃんってめっちゃ思った。他の大会でだっていつも負けるときは点を取るペースが遅くなっていって、相手に連続得点されておしまいってパターンめちゃくちゃ覚えがある。全く意識していなかった自分の弱点も、振り返れば兆候はあったんだな。
「あー。俺、前からシングルス勝てるようにならないと、幹人に頼りっぱなしじゃどうやったって勝ち上がれなくなるってわかってた。でもさ、春風杯も結局良い結果出せなかったし、どっかで無理なのかも、羽代とか小夜川に任せた方が良いかもとか考えたりしてさ」
「そっか。俺としてはさ、天野とひなたってそれこそダブルスじゃ県内でもそうそう負けないコンビだと思ってるし、だから団体戦でだって二人が第一ダブルスに居てくれんのすげえ心強い。最近自分もダブルスするようになって難しいのわかってきたら余計に二人がすげえって、そう思う。人間って自分にないものが眩しく見えるもんなんだろうけどさ、天野が頑張ってることわかってる奴は少なくともいるから。コーチも今日褒めてたぜ?」
「……幹人ってさ、たまにこっちが恥ずかしくなるくらい直球だよね。ま、ただでさえうち人数少ないんだから、シングルスで戦える人間だって大いに超したことはないわけじゃん?勝ち上がるために幹人や羽代の体力は温存できるに越したことはないし。だからさ、俺もどこまで出来るかわかんないけどやれるだけやってみる」
一人でコートに立つダブルスよりも、ミスも少なく確実なプレイをするひなたとペアになるダブルスの方が勝率が良いとは思ってたけど、俺が意外性でひなたは堅実。いま幹人と話してて気づいたけど上手い事かみ合ってたんだな。「俺はダブルスが得意でシングルスはあんまり勝てない」って、ただ単純に得意不得意の問題だと思い込んでいた。だけど、コートの広さがちょっと変わる以外はシングルスもダブルスも、シャトルの数や、ネットの高さだっておんなじ。これからもっと練習して立ち回りを意識していけば、今までよりも戦力になれる可能性が見えてきた。シングルスだけじゃない。ダブルスでだってもっとラリーにメリハリをつけられるようになれば、より強い人たちともきっと渡り合える。自分の得意をいかにして効果的に生かしていくのか、考えて動けるようにならないと。
「あれ?そーいや羽代は?小夜川と青葉は風呂で、ひなたは飲み物買いに行くってでてったけどさ。さっき俺出てった時は爆睡してたよな?」
「あー……。あの、祭千の一年生?第一シングルスに出てた、えーーっと、そうだ囃子《はやし》!に連れて行かれた!」
「そうか!所在がわかってんなら良いや。まあ消灯までには返却されるだろ!」
え?いいの?思わずそうツッコミかけて、余分なことに首を突っ込む元気はないから飲み込んだ。ごめんよ羽代。もう立ち上がる元気がないどころか今頭を使ったせいでもうまぶたを開けているのもキツイ。いざとなれば、きっと元気の有り余っている幹人がなんとかしてくれるはずだから。最後にそんなことを脳内の羽代に語りかけてから、天井がだんだんとぼやけていく心地よい感覚にそのまま身を任せた。
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