二日目:午後その4(難局到来)
「え……?い、いま部長たち、点取られた?」
「……マジ?」
「見間違い、じゃないよな?シャトル……やっぱり何度見てもこっちのコートに落ちてる」
「相手って最近じゃ全国にだって全然出てこれないような学校なんだろ?俺、晴風なんて今日初めて聞いたのに、そんな無名なとこからあんなきれいに点取られた……?」
得点のコール後、僕らのコートを中心にざわめきがさざ波のように広がっていくのを肌で感じた。ざわざわ、ざわざわ、小さな声でささやき合ってるんだろうけど、不思議なくらいクリアにいろんな言葉が聞こえてくる。
どうしてか、こういう時マイナスな声の方が入ってきちゃうのが不思議。中学の頃も聞かせようとしてる時だってあったんだろうけど、それ以外もだんだん空気感とかで「あ、今多分なんか言われてるな」「何かたくらんでるな」とかわかるようになっていったっけ。それで最後には謎の力、地獄耳で自分に関するマイナスなご意見は全部聞こえるようになったとさ。
あー、嫌になる。変な方向でリスニング力が高まってしまった。できれば英語で発揮したいのに。でも、高校に上がってからは地獄耳を発揮する機会なんて全然なかった気がするんだけどなぜ急にここに来て再び?なんか神経研ぎ澄まされてるのかな?最後の奴の言葉は聞き捨てならないけど。
「わ〜!取られちゃったじゃん舞宮《まいみや》〜」
「……や、これはオレも予想外だし。縁《えん》だって一歩も動けなかったろ」
部長さ……、じゃなくて今しがた名前が判明した舞宮さんは、薄茶色さんもとい縁さんの冗談めかした抗議の声に口を尖らせてぼやく。
うーん……。僕としては縁さんや松下先輩もラリーに絡ませて、さらに点をとったからサーブ権が僕のまま、という正直「やってやったぜ!」って感じの本当にこれ以上ない状況になったはず。なのに、相手は二人とも全く気にしていないというか余裕そうで、逆にこっちが経験の差を見せつけられたような気がしてしまう。足りないものだらけだ。もっと、頑張らないと。フットワークもそうだし、体力とか、ショットの威力とか__
「ふごっ」
「ナイス羽代!今のよく取ったな!!」
感傷的になりかけた僕の背中を、突然の衝撃が襲った。犯人は一人しかいない!それはわかっている。咽せそうになりながら首だけでどうにか振り返れば、満面の笑みが目の前に。
「うぇっ!あ、ありがとうございます」
潰れたカエルみたいな声が出てしまって、自分でもちょっと面白かった。「ふごっ!うぇっ」って……。
「多分次から、もっとギア上げてくると思う。あっちは今、羽代に綺麗な形で点取られて驚いただろうから。ガンガン来られてしんどい展開になるかもだけど、何にも気にしないでとにかくできることを全力でやろう。頼りにしてるぜ!」
僕の様子を見ながら、松下先輩が少し声を落としてまた笑う。そうだ。僕、全国王者相手にちゃんとラリーができてる。手も足も出ないほど絶望的な差があるってわけじゃないんだ!
「今の感じ、俺もすっげえ動きやすかった。本当にありがとな」
頭をごっつんこしたり、お見合いしたり、思えばありとあらゆる衝突(物理)を繰り返してきたのに、今じゃペアとしてなんとか成り立ってるんだから不思議。まあ、今も僕が気を抜けばすぐ成り立たなくなっちゃうと思う。
だからって松下先輩に合わせてもらおうとすれば、いつでもどんと構えて即断即決で動けるっていう先輩の良さを消してしまうことになるから難しい。でも一人じゃできないことも二人なら、ダブルスならできるから、常に頭フル回転であれもこれもと休む間もなく考えることがなんだかんだ楽しいんだよな。
「おっし!そんじゃもう一本!」
松下先輩の頼もしい声を背中に受けて、ラケットを構える。やっぱり僕が後衛に下がったり、こっちが守りに入ればその途端に僕が狙い撃ちされるのは目に見えている。今回は、こちらのやりたいことを押し付けるよりも、相手のやりたいことをさせないように立ち回らないといけないのは今の一球でわかった。ただ打ち合ったって力負けするのが目に見えている。
そうなれば徹底的に、僕を狙いにくい状況を作らないといけない。それも全国王者相手にだ。得意なことややりたいことでごり押しするよりも考えることはどうしたって多くなるから、気合入れないと。でも、方針が決まったから、全部手探りだったさっきまでよりはずっといい。
ロングサーブ……は、打った途端に僕にスマッシュがぶっ飛んでくるのが目に見えているから絶対になし。僕がサーブ権持ってる間はできればロングサーブは使わずに行きたいところなんだけど、正直そんなのすぐにばれると思うから、持って次くらいまでだろうな。だから後一点、欲張ることができるなら二点、取れたらめっちゃいいんだけど。
少しでもネットから浮いたら叩かれる。そんな一瞬の油断もできない環境なのにちょっと楽しくなってきてる自分に思わず笑ってしまった。手を離れたシャトルは、きれいに頭で描いた軌道を通って相手のコートへと飛んでいく。うん、なんか今日サーブの調子めっちゃいいかも。これなら白間川の時使ったみたいなドライブ気味な軌道のサーブ、後で使ってみてもいいかもしれない。
相手の動きはずっと視界に入れつつ、でもちゃんと自分の足も動かす。さて、縁さんは一体どう動いてくるだろう?僕の手から離れたシャトルを見ると、足は前に。プッシュで叩けるほどシャトルは浮いていないはずだから、下がる必要はなさそう。ラケットはネットの前に差し出すような動きで、綺麗に目線の高さを滑っていく。
これは、ヘアピンが来る!それならこのまま粘れる限り、前で粘ってやるぞ、と気合を入れてありとあらゆる返球パターンを考えていたんだけど、甘かった。シャトルが触れると思った瞬間、スッとラケットが下がる。えっ?
「ざぁ~んねん!」
口角を上げる縁さん。そこからは全部スローモーションに見えているのに、全然体が動かなかった。自分の遙か頭上をシャトルが越えていくのを、本当にただ見ているだけだった。僕が早まって動いてしまっていたから、松下先輩から縁さんは見えていない。故に、反応が遅れた。
「っと!」
それでも取ってくれるんだもん、流石松下先輩。ただ、ほんのちょーっと今までに比べて返球が甘い。甘いって言っても僕からしたらあの体勢であんな返せるなんてバッチリすぎると思うんだけどね。だけど、そのほんのちょっとを見逃してくれる相手ではない。
「ほっ!!」
そんな気の抜けるような声と共に打ち落とされたシャトルは、地面へと吸い込まれていった。
「こんなもんで、お返しになった?」
舞宮さんは、そう首をかしげて笑った。
祝 60話!
読んでいただき本当にありがとうございます。
今年中の完結を目指し楽しんで書きます!




