二日目:午後その2(一球目)
「一本!」
周囲は四方八方どこを見ても祭千の大応援団。正直アウェイにも程がある。そんな中でも響く松下先輩の声に謎の安心感すら覚えて、思わず口元が緩んでしまった。ほんと、お腹からどころか全身から声が出てるような気さえする。
サーブは僕。今のところ僕が前衛、松下先輩が後衛にいるときの方がお互いにしっくりくるから、まずはショートサーブではじめてみよう。部長さんが何を返してくるだろう?案外手が震えたりすることもなく、良い感覚で手からシャトルが離れていく。
さあ、どう来る?部長さんから目を離さないようにしていたはず、だったのに。
「はっや!」
耳の横すれすれを通り過ぎていったシャトルに思わず声が漏れてしまう。マジか、全く反応できなかった。そんなドライブ気味の軌道で返してくるようには全く見えなかったのに。というかまずい。今のは多分、僕が対応するべき球だった。前にいる僕の体近くを通っていったってことは、多分松下先輩は僕で視界が遮られて飛んでくるショットの軌道があまり見えていないのでは?
「っすみません!」
「まかせろっ!」
僕が取り損ねたことを謝るのとほぼ同時、乾いた音が響く。瞬きの間が過ぎれば、視界に高く飛んでいるシャトル。動きに迷ってしまった僕が体勢を立て直す余裕を作ってくれたんだ。
「来るぞ。まずは先のことまで考えなくていい。目の前のショットを丁寧に返そう。焦らなくて良い。ミスしたり取り逃したって今みたいに俺がいるから思いっきり行こう!俺もまだダブルスの戦い方ってわかってないからさ、頼りにしてる。慣れてきたらどんどん頼むぜ」
「……はいっ!」
さあ、今ので間違いなく僕がこちらのペアの「穴」であることがあちらに伝わったはずだ。それであればほぼ確実に、どんなショットであろうとこっちに飛んでくるはず!シャトルを追って下がったのは部長さん。スマッシュかドロップかそれともクリアか、あるいはそのどれも違うのか。答えは……スマッシュだ!
うっわ、重い。これはどこに返すかとか相手をどこに動かしたいだとか考えていられない。先輩の言ってくれたように、まずは返すだけで手一杯だ。それでも、返さないことには、相手のコートにシャトルを入れないことには何も始まらない。最低限ネット前に浮いた球を返さないことだけは意識して、打ち返した先は僕から見てクロス側。
祭千の部長さんから見て打ちやすいストレート側に松下先輩がいることになる。体をひねって角度をつけないといけないクロス側に僕がいる訳だけど、この場合はどうするだろう?
クロス側にショットを打つとき気をつけないといけない点としては、万が一相手が体勢を崩さずに追いついてストレート側に返球されてしまうと手痛いカウンターを食らってしまうこと。でも、ここまでの僕の様子から相手はそこまで僕を脅威と認識はしていないだろうから、僕の方に来る可能性の方が高い気がするな。
バッ!
ほらね。軽い音と共に飛んできたドロップは僕の方。さっきのスマッシュで僕が前よりも後ろを――強打を意識して下がるとみていたんだろう。でも今の僕は崖っぷちの晴風高校バドミントン部員。倒れるならば前へ、全力前進守備で挑ませていただいております!故に、タイミング良く足を踏み出すことが出来た。
これ、下から打ち上げるロブじゃなくてもっと上の方の打点からのショットでも間に合うな。それならここは、思い切って更に前へ!狙うは相手が少しでも返球に迷ってくれるように二人の間あたりへ落とすヘアピン。そのままネット前に張り付く。後ろに松下先輩がいてくれるなら、大抵何があっても大丈夫。
そして何より左右に振られたりスマッシュのような強打もバンバン飛び交ったりとシングルスよりコート上の人数が多く展開の早いダブルスで、今の僕が後衛に下げられたらそれはつまり失点に直結してしまう。松下先輩のように終盤まで走りきる体力も、スピードの落ちないフットワークもまだないから。
ヘアピンに反応して前に出てきたのは部長さん。さっきから薄茶色の髪の人の方は全然シャトルに触ってないから、どんな人なのかもわからなくてちょっと嫌だな。例え点を取られたとしても、このラリーで粘って一回は打ってるところを見たい。
あっ、部長さんさっきよりも反応が早くない。サーブの時何の迷いもなく前進してドライブ打ってきたから、ちょっと落差があるな。返ってきたのはヘアピン。こちらが後手に回れば、きっとまた僕に集中砲火でラリーは終わってしまうから、このまま例え決定打にならなくても攻撃を続けなくては。
でも欲を言うなら僕一人で返球し続けるよりも松下先輩がラリーに絡んでくれた方が点を取ることが出来る可能性が高いから、なんとかしてロブを上げさせて相手二人とも後ろに下げたい。更にできるなら、相手の後衛にも打たせたい。それならちょっと冒険しないと、かな。
ほんの少し、返ってきたシャトルはネットから浮いている。それならこっちも、部長さんの体すれすれを通して狙うはコートのサイドライン。部長さんの体よりも少し後ろ、コートのちょうど真ん中あたり。思い切って更に一歩前に出て、僕はプッシュを打ち込んだ。
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