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二日目:午前

「ふぁぁ……。眠い」

「いくらお隣の県とはいっても、渋滞とか考えると結構早く出発しないとだもんね……」


 バスの車内、まだほとんど皆半分夢の中だ。隣に座る青葉も、あくびを一つしたっきりずっと静か。女子と合同じゃなきゃこんなバス移動なんて出来なかっただろうから、本当にラッキーだったな。女子が座っている前の方からも、こちらと同じくほとんど声が聞こえてこない。斜め前に座っている長山先生もさっきからコクコク船を漕いでいるし、バッチリ元気なのって松下先輩くらいじゃないのかな。南先輩がとってくれた白間川との練習の動画を見てるみたい。今回の遠征一番楽しみにしてたのはきっと先輩だしな。


「今日の相手って祭千(さいぜん)高校ってところだったよね……?発表された時みんなびっっくりしてたからなんとなく凄いところなんだってことはわかったけど、そんなに有名なん?」


 しばらく窓の外を眺めていたら僕もまぶたが重くなってきて、いつの間にか再び夢の中へと旅立っていた。到着まであと三十分というところで目を覚ますと、隣の青葉はすっかり元気な様子でそう問いかけてくる。


「そうだね。ここ二年インターハイは連覇してるし、ものすごく強いよ。関東でバドミントンっていったら、一番に名前が挙がる学校なんじゃないかな」

「へっ!?そんなに強いの!?」

「個人戦でも全国入賞するような選手が毎年いる学校だからね。県外からもバドミントンするために来てる人多いらしいよ。それこそ例えるなら、松下先輩レベルの人がいっぱいいるって感じ」


 全国……全国優勝……入賞……松下先輩がいっぱい…………。


 なにやらブツブツと呟きながら遠い目をする青葉。まぁ、身近で一番上手い人っていったらやっぱり松下先輩だし、そんな僕らから見て遠い背中が一つのチームにゴロゴロいるなんて恐ろしくて考えたくないもない。その気持ちはよーくわかる。


 でも、今の僕たちが全国王者相手にどこまで通用するのかを試すことが出来るまたとないチャンスだ。正直僕は、インターハイに出場することすら本当に届く目標なのかまだわかっていない。県内を勝ち抜くイメージすらまだわいていない。


 きっと先輩方もそれは同じで、だからこそ小夜川をできる限り隠し球にしておこうとしたり、経験より欠員のリスクやライバルに情報を与えてしまうリスクを重視したりと慎重に慎重を重ねているんじゃないかって思う。でも今日全国の頂点を肌で感じたら、そしたら何かがわかるんじゃないか、見えてくるんじゃないかって、漠然とそんな気がしている。


「午前中はアップだよね?暑いけど基礎練いつも通りやらないと怪我の元。ストレッチもしっかり丁寧に。春ちゃん先輩毎日言うからもう覚えちゃった」

「まあ、うちの人数的に一番怖いのは怪我人が出ることだからね」


 どんなに気をつけていたって、普段の練習でも試合中でも怪我をするときはする。でも、体感として普段とは違う環境やメンタルの中行う試合中の方が、大きな怪我をしてしまうことが多いような気がするから、本命であるインターハイ予選以外の大会を回避しているのは僕も納得している。ただでさえ少ない人員でやりくりしている我がチームにとって、一番避けたい事態は本番も近づいている中で欠員が出ることだと思うから。


「そろそろ到着だから、降りる準備しておいてください」


 女子の顧問の先生からそう声がかかる。アイマスクまで準備して移動中ぐっすりだった小夜川が、寝ぼけて何やらムニャムニャ呟いているのが後ろから聞こえた。


「あ!あれだ。でっっか!?」


 外を見ていた青葉の声で窓の方に目をやると、確かに広大な敷地が見えた。晴風高校は校舎と部室棟、第一体育館と第二体育館の全四つの建物があるが、目の前の学校はパッと見ただけでも体育館らしき建物の奥に校舎らしき建物が一、二、それから何だろうあれ?何の建物なのかわからないけど一,二,三,四,五?!


 あれ、今のだけで八?!校庭もうちよりどう見ても広いし、なんかスケール違いすぎない?


「うっわぁ、やっぱでかい。あっほら、あれって寮じゃない?」


 なるほど、あのいくつか固まってる建物って寮なのか。天野先輩の言葉でようやく理解した。あんなピッカピカな寮…………、うちの合宿所とえらい違いだ。


 わいわいがやがやと車内が騒がしくなったところでバスが止まったみたい。先生方が先に挨拶してくるって降りていった。僕らも続いて荷物をおろす。というか駐車場も広っろ!こんな規模の学校じゃ、きっと練習用の設備も充実してるんだろうな。絶対体育館の天井から雨漏りなんてしないはず。


「おはようございます!」


 キョロキョロとあたりを見渡していると、後ろから突然挨拶が聞こえてきて大分びっくりした。


「晴風高校バドミントン部の皆さんですよね?お待ちしてました。体育館にご案内します!」


 振り返ると赤みのある頬に、ものすごく強い目力。ツンツン立った短い髪の人と、つり目に薄い唇。そしてポニーテールのなんだか狐みたいな人。


「祭千高校男子バドミントン部副部長の氏子(うじこ)です」

「同じく女子バドミントン部副部長の稲荷(いなり)です。本日は遠いところありがとうございます。先生から体育館へご案内するように伺っていますので、早速移動しましょう」


 なんていうか二人ともキリッとしていて雰囲気あるな。松下先輩は全く動じずに挨拶を返しているけれど、なんか僕は気圧されてしまった。促されるまま二人についていく道すがらも見慣れないものばかりでつい足を止めてしまいそうだったし、五分近く歩いてやっと体育館にたどり着いたからびっくりした。


 どれだけ広いんだ?!しかもこちらが本日練習する第三体育館です。って言ってた気がするけど体育館そんなにあるの?うちの第一体育館より広いんですが……。


 案内された場所に荷物を置いてからもしばらく衝撃を受けていたけど、そうしてばかりもいられない。松下先輩の号令で早速アップ開始。祭千高校は午前中別の場所で練習してるみたいで、まださっきの副部長二人以外の部員には会っていない。はたして午後、どんなことが待ち受けているのか、僕は不安もあれどものすごくソワソワしていた。


今年もどうぞよろしくお願いいたします。


年内完結を目指して突き進みます!

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