一日目:午後
「なななななななな、何事?!」
午後練の開始時刻。整列した白間川の見慣れた面々の中、一際目を引く彼に晴風高校バドミントン部(ボクを除く)の視線は釘付けだった。慣れない第一体育館に青葉の声がやけに響く。
「ふわぁ。ダイ、なんであんな早い時間集合って嘘ついたのさ」
等のご本人は、マイペースにあくび。目尻にはうっすら涙までたまっている。
「えー、だってお前絶対いつも集合時間より短くても二十分は遅れてくるじゃん。だから早めに伝えたんだけど、今日は珍しくその通り来たんだなー。明日は槍か雨かもな!」
「ナニソレ。雨は降るかもしれないけど、槍なんて降るわけない。今日はお昼より後だから流石にちゃんと起きた」
というか、「ダイ」に反応して返事してるの宮郷くん?!「ダイ」って宮郷くんだったんだ!?聞きたいことは色々あるものの時間は限られている。少しでも長く練習をしたいから、新メンバーさんのことは後にしてひとまず動き出さないと。他の皆も喉元まで浮かんできている「なぜ?」をぐっと飲み込んでいる様子だ。
「おっし。じゃあ今日は白間川さん半日よろしくお願いします!」
『よろしくお願いします!!』
そうして始まった合同練習は、なんていうか、いろんな意味で驚きの連続だった。
まずはこの前の練習試合以上にキビキビと統率のとれた動き。
それからジャラジャラついていたアクセサリーは全く見当たらなくなっている。それに髪も、色は相変わらずカラフルだけど、短くしたり括ったりとなんか動きやすそうっていうか部活する人の格好になっている。
そして何より動きが違う。この前だって見た目に反してちゃんとバドミントンしていたのに、更にぐっと上手くなっている。
短期間でこの変わりっぷりなんて、逆にこっちが学ぶことのほうが多いんじゃないかって思うしちょっと焦る。
そして何より噂の新メンバー、連取トキくん。名前凄く古風だから、見た目とのギャップが凄い。どうやら生まれは日本だけど、両親の都合で小・中学生の間はほとんど海外で暮らしていたそうで、日本に戻ってきたのは最近みたい。
宮郷くんとは小さい頃の幼馴染みなんだって。小さい頃からずっとバドミントンしてたらしいけど、色々あって今はあんまりやる気はないらしい。でも、モチベーションそんなに高くないと言いながらも長い手足と圧倒的なセンスの良さで、どんな練習でもすぐにコツを掴んじゃう。正直これが「天才」ってことなんだと思った。
うちでいうと何でも要領よくこなす天野が近いタイプだけど、なんていうか全部が全力で動いてるようには見えないのに凄くて、もし本気になったらめちゃくちゃ強力なライバルになっちゃうかもしれないって、そう思った。同じ高校生なのに身長とか持って生まれたポテンシャルみたいなものが、元々持ってるスペックがこうも違うのかってなんか勝手に突き放されたような、そんな気がした。もうボクがコートに立つことなんてないのに。
終盤の試合練習で何やら羽代と話し込んでいたから、後でなんだったのか聞いてみようかな。うちの一年生に混ざって試合をしているときはなんだか生き生きしていたから、お互い良い刺激になったのかも。隣の芝生は青いって言うけれど、一年生が凄く眩しく見えた。
練習自体はとても実のあるものだったし、良い雰囲気だった。のに、上手く言葉にできないものの自分だけ置いて行かれているような、前に進めてないような気がしている。なんだかジリジリ焦がされているような、何が理由かもはっきりわからないのに焦燥感にかられているような、ここからちょっと逃げちゃいたいような、ごちゃごちゃもやもやとしたなんか嫌な感じ。自分で決めた道なのに、何でまたこんなうじうじしてるんだろ。
あぁ、本当午後は練習に身が入らなかった。できることをやらなくちゃなのに。誰も知らない後悔を抱えつつとっぷり日も暮れた頃に、合同練習は幕を閉じた。夕飯は白間川も一緒にバーベキュー。人数が増える分準備が大変だけど、一日目も終盤。さて、気合い入れ直して頑張りますか。
そう、気を抜くと爆発しそうな感情をグッと押し込んで蓋をした。自分で決めたんだから、振り返らずに、逃げ出さずに頑張らなくちゃ。ここ一年で何度唱えたかわからない言葉を心で繰り返す。それが自分にとってある意味呪いのようになっていることには気づかないフリをした。




