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修行開始

 頭の中でグチャグチャに絡まっていた糸が、ピンと綺麗な一本になったような気がする。


 軽く息を吐く。


 パッ!


 乾いた音と同時に天井近くまで伸びて、それから落ちてくるシャトル。


 重心を下に。腕だけで打たない。全身を使って。


 相手の、松下先輩のコートへ。


 振り抜く。


 シャトルがラケットに当たる音。


 そしてすぐに床か壁かに当たる音。


 目を開く。シャトルは?


 松下先輩の立つコートには、見当たらない。


 それならコートのラインの外?

 右手側……ない。

 左手側……ない。


 それじゃあまさか…………。


 錆びた自転車のようにガチガチな動きでどうにか振り返る。




 ………………あった。


 自分のコートの一番奥のラインのあたりに、コロコロ転がっている。


 何故そこに? 一番俺が わからない


 そんな心の声はさておき、こわごわ周りを見回す。

 こんな初心者でもそうそうやらないようなことやってるなんて、呆れられるだろうか。


「おっ!めっちゃいい音したな!」

「ねー!これは晴風に新しい武器誕生の予感!」


 楽しそうな松下先輩と天野先輩。

 何というかこういう失敗した時って、大抵もっと「あー……」って呆れた声と苦笑いで微妙な空気に包まれるもんだと思ってたんだけど……。というか今まで実際そうだったから。

 俺を部活に勧誘した1つ上の先輩なんか、本格的にノックや基礎打ちなんかの練習が始まって俺のスマッシュ見たとき隠しもせずため息ついてたし。それから「誘って損した」とか「お荷物連れてきちゃった」なんてヘラヘラ笑ったり、俺の暴発するショットのまねして遊んだりしてたな。うわっ、思い出したら超嫌なやつじゃないか。


「よしっ!もう一本打ってみるか!」


 俺がろくでもないこと思い出してるうちに先輩方が集まって一言二言言葉を交わして、それから松下先輩がまたコートに戻ってきた。

 上下練習着でゴーグル装着した集団が顔を突き合わせている様はやはり奇妙だな。なんて考えることができるのだから、自分で思っていたよりちょっと余裕があるのかもしれない。


「お願いします!」


 さっきと全く同じように、放たれたシャトルは綺麗な軌道で俺がほとんど動かなくても打てるような位置に飛んでくる。


 何も考えずに思いっきり打つ!


 恐る恐る相手のコートを見ると、今度は松下先輩の位置からラケット二本分ほど逸れた。おしい。ダブルスならイン。

 それからひたすらスマッシュを繰り返すこと数回


「なるほど。大体わかったから今後の方針決めるか!とりあえず全員集合!」


 南先輩に目配せをしてから号令をかける松下先輩。いったい今の数回で何がわかったんだろうか?俺は三年と少し経っても未だにどうしていいかわからないのに。

 ひとまずいつも通り輪になって座れば、顔を見合わせて頷く松下先輩と南先輩。

 一体これから、何が起こるんだろう?


「じゃ!まず率直に聞くんだけど、小夜川大きな音苦手?」

「はい……?」


 突然何を言い出すんだ?わけがわからない。


「特に得意でも苦手でもないというか……。まぁ、突然大きな音とかすりゃそりゃびっくりしますけど」

「おし、じゃあ怖いとか、苦手ってわけではないんだな?」

「そう、ですね?」


 腕を組みしっかり頷く松下先輩。本当に話がどこへ進んでいるのかわからない。


「それじゃ先輩、とりあえず次コーチ来てくれるまではさっき言った感じでいいですか?」

「そうだね。僕はいいと思うよ」


 思わず首を捻る俺に気づいたのか、ごめん、取り残しちゃったね。そう少しを眉を下げた南先輩が、ノートを差し出してくれた。

 覗き込むとそこには太字で、


 小夜川修行計画!


 と書かれている。他には何やらコートの図やメモがちらほら。


「さっき打ってるの見てて気づいたんだけどさ、小夜川思いっきりスマッシュ打つ時だけちょっと目ぇ瞑ってる」

「えっ!?」

「やっぱ気づいてなかったか!だから音苦手で瞑っちゃったりしてるのかと思ってたんだけど、苦手じゃないならこれからどんどん打って慣れてけばいい。改善できればもっとちゃんと打点とか狙う方向とかに意識向けやすくなると思う!それから、構えてから打つまでずっと全身に力が入ってる。音だけが理由じゃなくて、常に力んじゃってるから目を瞑っちゃう可能性もあるし、力を入れるとこと抜くところ、それが掴めれば少なくとも自分のコート内に叩きつけたり、後ろに飛んでくようなこともなくなるんじゃねーかな?ひとまず当面の目標は、この二つを改善してそれで正しい打点と緩急で打てるようになること!」


 高らかに宣言された目標に、不思議と今まで先の見えなかった迷路の中で進むべき道がわかったような、そんな気がした。

 それから具体的な練習メニューを説明してもらう中で、ふと思った。中学の頃はフォームのことは教えてもらったことがあっても、基礎打ちやノックで四方八方にシャトルを散らす俺には先輩も大人たちも頭を抱えるだけだったな。


 正確には、

 もっとこう、スッと振って!

 とか、

 普通に素振りと同じようにやるだけ!どうしてそれができないの?

 とかひたすら言われてばかりで、具体的にどうしたらいいのかは全くわからなかった。

 この経験で得たものといえば、「四方八方」という言葉を知ったことくらいだろう。思えば競技生活三年と少しにして未だにわからないことだらけだ。

 でも、わからないことばかりだからきっとこれから新しい発見がたくさんあるはず。誰よりも成長できるはずだと、そう思いたい。


 それからは早速特別メニューでの特訓が始まった。

 練習初日、まずはスマッシュ一〇〇本ノック。その後改めてフォームの確認と力を入れるタイミングのおさらい。その後5本連続でコートに入るまで終われません!地獄の連続ノック!(メニュー名は全て修行ノートより引用。)結果としては、まさかの初日にしてほぼ目を開けたまま打てるようになってきた。ただやっぱり、どうしても常に全力フルスイングになってしまう。やはりできない自分に自分に腹が立った。でも、松下先輩曰く、打ち方がわからないからって闇雲自己流で打たずに封印していたことがかえって良かったらしい。思ってたよりクセがついてないからきっとすぐ打てるようになるって言われてちょっと嬉しかった。


 次の日からも同じように朝も練習、昼も練習、夜も練習。もちろん体力的にはかなりハードで、家に帰るとつい寝てしまって課題がほったらかしになったことは一度や二度じゃない。でも、協力してくれているバドミントン部のメンバーなんてやらなくてもいい準備やシャト出しなんかにたくさん時間を割いてくれているんだから絶対もっと大変だ。


 だからこそ、今度は絶対それに応えたい。

 インターハイに行くために、晴風の武器に、戦力になりたい。


 一歩進んで二歩下がる。そんな決して要領の良くない俺に根気よく付き合ってくれるチームメイトがいる。大きなエネルギーが自分の中にできたような、なんでもできるような感じがした。全力で練習するうちに体力がついたのか、いつの間にやら課題もできずに寝ることも、授業中夢の世界へ旅立つこともなくなっていった。むしろ朝早く来て朝練前に自主練したり、夜練習終わりに自主練までしている。もっともっとバドミントンがしたい。楽しい!未だかつてなく生活が充実している。

 無理して自分を隠す必要もなくなったからだて眼鏡はやめたし、チームの役に立てたらって情報収集は続けてるけど前ほどそれに全振りしてない。自分でも見失いかけていた自分がだんだん戻ってきているような、なんか息がしやすいような、そんな不思議な感覚。春風杯終わってすぐ、インターハイ予選に向けてレベルアップするための合宿をするって南先輩から発表があった。他校との練習試合もいくつか予定されているらしい。ちょっと先だと思っていた合宿気づけばもう目の前。もっと、もっと練習して上手くなりたい。早く合宿、始まんないかな。


いつもありがとうございます!!!!!!!

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