進みたい道
前話大きく話の展開は変わりませんが少々加筆・修正しました。
「おーし!じゃあやるぞ!」
すっかり通い慣れた第二体育館に響く松下先輩の声。
周りには実験用のゴーグルをつけたチームメイト。
どうしてこうなったんだ?!
現実から一瞬でも目を背けたくて、事の発端である今日の練習冒頭を思い返してみる。
練習前、心配かけたこと謝って今考えてることをきちんと伝えないといけないと思って、ちょうど集まっていた先輩方に声をかけた。
まずはあの日……春風杯の日に、やっぱり俺はバドミントンを続けたいと思ったこと。
その次に今までのこと、簡単に話した。
多分大会の時にも何か言ったような気がする。が、自分が何を話したのかはあやふやだから。
勝手に期待して勝手に落胆してきた周囲にもムカついたが、それより何よりもあれだけ目をかけてもらってそれに応えられなかった自分が何より一番嫌だった。
本当なら自分の強みを活かして試合ができたら一番いいとはわかっているが、どうやってもそれはできなくて。だから、自分を変えようとした。
でも結果として、結局隠そうとしていた過去のことがバレてしまったし、今後もずっと隠し続けていけるとも思えない。
だから、バドミントンは続けたいがどうしていいかわからない。
自分で答えが出ていないのに人に話すのはどうなんだ?とも思ったが、何もありのまま現状の俺を、隠さず見せるべきな気がしたから、少し声が震えたけどとにかく頭の中に今あることをひたすら言葉にした。
また、一人になるのかもしれない。
でも一方であの時の南先輩が頭に浮かんで、この人たちなら大丈夫な気がした。
それでも一瞬の沈黙が怖くて、何を言われるだろうと思わず身構える中最初に聞こえた松下先輩の声。
「おー、じゃあまず思いっきり打ってみるか!」
「はぁ!?」
一瞬意味がわからなかった。
「えっ、だって俺、思い切り打つとどこに飛んでくかわからないって言っただろっ、じゃなくて言いましたよね!?」
そう。相手コート周辺ならまだしも、自分の真後ろや真横にすっ飛んで行くことすらあるからこれじゃあ誰に当たるかわからないヒヤヒヤロシアンルーレットになりかねないんだぞ!
思わず敬語すら抜けかけた。危ねえ、まじめにまじめに。
「おう。話聞いてたら、今まで全力で打つ練習ってほとんどしてなくて、抑える練習ばっかしてたってことだろ?見たところフォームは綺麗だし、クリアとかドロップとかはちゃんとできてるし、うん。やっぱスマッシュさえなんとかなればバッチリだろ」
そう。クリアやドロップみたいにパワーというより打点とかラケットの当たる角度とかが大事なショットならフォームさえ体に叩き込めばなんとかできた。まぁ、それもまともになってきたのは部活辞めて一人で練習するようになってからのことだけど。それでも、未だにスマッシュになるとどうしても力の入れ方とかタイミングとかわかんなくなる。思い切り打つことに集中するとコントロールができなくなるし、コントロールに集中するとただラケットに当てるだけみたいなドロップよりヘロヘロフワフワショットの出来上がりだ。同じように素振りだって練習してるのにどうしてうまくいかないなのか全くわからない。
だからって、八〇%で、とか五〇%で、とか細かい調節なんて無理。〇か一〇〇かしかできなかった。
そこをどうにかしようともがきにもがいて今は、三〇%くらい出せるようになった…ような気がするものの、それも結局データと組み合わせてようやく成り立っていただけで事前の予習がなければただ力を調節して返球することに精一杯になってとても試合にならない。一番の爆弾であるスマッシュを使わず試合に臨めばそんなこと気にする必要ないって?
そんなわけがないだろう。うっかりするとどんなショットも未だに暴発の恐れがある。散々鏡を見ながら一人で素振りしていたから、松下先輩のフォームが綺麗って言葉はすげえ嬉しい。が、それでも稀に暴発する。クリアのホームランとか特にやる。だから絶対暴発しないなんてとてもじゃないが言い切れない。
現在何をしても中途半端。俺を短く表現するならその一言。
「ほら、何も考えなくていいから。俺ももっとちゃんと小夜川のスマッシュ見たかったし。今日はうち以外もうテスト前で休みだから思いっきりやっていいぞ!」
いや、そうは言っても……。
「松下なら何が起きようとまぁ大丈夫だよ」
「俺らも距離とって見てるし」
「…………!」
口々にコートの外から声をかけてくれる先輩方。花光先輩はグッドポーズ。
これ、本当にやるしかないのか……?
でも……。
「先輩〜!頼まれてたもの理科部から借りてきましたー!」
腹を括るに括りきれなくてもだもだしていたところに現れた羽代。
抱えている段ボールに入っているのは、実験で使うようなゴーグル……?
「よーし!じゃあみんなつけろー!」
「ラジャー!」
おどけて敬礼をする天野先輩を筆頭に、ゴーグルをつけ始める面々。
「んー。みんなはともかく俺はつけなくてもいっかなって思ってたんだけど、小夜川はつけてた方が安心か?」
それはもちろん。その思いを込めて全力で頷く。
「そっか!なら俺もつけとく!」
そう言って松下先輩は迷いなくゴーグルを手に取ってくれて、なんかホッとした。
シャトルが当たってケガをするリスクが一番高いのは目だと思う。現に俺の周りでも、練習中目に当たって救急車で運ばれた人がいた。
俺みたいにコントロールのつかないスマッシュなんか、周りの人からすれば想定外の場所から突然シャトルが飛んでくることになる訳で、咄嗟に避けるのなんてまずできない。だから怖くて、打ちたくなかった。何も言葉が浮かばない。なんか打つ方向になってるし流されてそのつもりになってたけど俺、打てるのか?大丈夫なのか?とにかく色々なことが頭をぐるぐる駆け巡って、俺は固まってしまう。背中に汗がつたった。
こうして松下先輩の「おーし!じゃあやるぞ!」に至る。
ノックとかでシャトル出す人とかその補助をする人とかはこんな風にゴーグルつけさせる学校もあるって聞いたことあったけど、実際見るのは初めてだ。改めてまじまじ見回す。羽代が前練習行った先で見たことあるって話をしてたが、その時聞いて想像してた以上にシュールだ。でも、これで一番危ないパーツが守られる。
さっきまではどうしてこんなことにとは思っていた。でもこうして思い返してみると、俺のために、俺の不安を取り除くためにここまでしてくれているってことだよな。
それなら、それならもう一度思い切り打ってみてもいいのだろうか。
もし、中学の頃期待されてたみたいに自分の強みをちゃんと生かせたらどんなに良いだろう。
ただバドミントンに集中できたら、どれだけ楽しいだろう。
自分を変えようと、今までやってきたことも決して無駄にならないと思う。でも、できることなら自分の持ってる力をできることならちゃんと使えるようになりたい。
「よろしくお願い、します」
ここでなら、「変わる」んじゃなくて自分のままバドミントン、できるだろうか。
初めてラケットを持った日ぶりに、期待に応えないといけないだとか、上手くやらないといけないだとか、難しいことは何も頭に浮かばずただワクワクした。




