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小夜川


2023/11/29 19:48 一部加筆、修正

 最初は、何が起きたのか自分でもわからなかった。ざわつく周りの人を見て、ようやく自分がまた(・・)やってしまったんだと気づいた。


 頭によぎるのは、中学生の頃のこと。

 ぐんぐん伸びていた身長やパワーのこともあって、最初は大型新人だなんだと大歓迎されていた。

 でもそれは本当に一瞬のことで、周りはすぐ俺に落胆していった。


 いつまで経ってもままならないコントロール。

 それならばと一〇〇%の力で打たず八〇%でも良いからコントロールできるようにしてみろと言われたもののそれもできない。

 それじゃあ、上背はあるのだからと力はコントロールできる最低限にして、技術で勝てるような選手を目指そう。

 希望の光に見えたその言葉も、いざやってみたら結局、考えてる内にシャトルが頭上を超えていくわ、気を抜けば暴発して場外ホームランを放つわで全く向いていなかった。


「木偶の坊」

「見掛け倒し」

「期待して損した」

「宝の持ち腐れ」


 耳に入ってくるのは、そんな言葉ばかり。


「あんなに面倒見てやったんにあいつにはがっかりだよ」

「あ〜あ。あんな良いとこナシだって最初から分かってりゃあんなに手をかけなかったんにな」


 うるさい!うるさい!うるさい!

 勝手に期待して、勝手に見放して、全部お前らが、お前らが……!

 持ち上げるだけ持ち上げといてうまく行かなくなったらポイ。全部そっちの都合じゃねえか。


 特に俺に期待(・・)していた連中からは後ろ指を指され嘲笑を受けて、そうでない奴らからも腫れ物のように扱われるようになって、どれくらい経っただろう。気がつけば顧問に退部届を突き出していて、辞めちゃうの?なんて言いながらも僅かに口角の上がった顔を見てもうここにはいられないと逃げ出した。二年生の、秋だった。


 それでもバドミントンが好きで、大会を見に行ったり一人で素振りをしたりしていた。高校生になったら、新しい環境になったら、また、バドミントンできるかな?

 それまでに今の自分を変えられたなら、そしたら、きっと。


 それからはプロの試合映像を見たり、中学生や高校生の大会を見に行ったり、とにかくひたすら試合を見て選手特徴やらミスの多いショットやら目についたことをひたすらノートに書き留めていった。

 元々勉強も得意じゃない、一番成績の良い教科が体育の自分がよく続いたなと今になって思う。でも、それくらい変わりたかった。

 それからフットワークや返球のパターンも体に叩き込んで。

 相手の苦手なこと、得意なこと、全部頭に入れて、それに合わせたパターンを準備。これだけ予習しておけば、いくら俺でもボロを出さずまともに戦えるだろう。


 そうやって一人ひたすら練習を繰り返した。部活に所属していないから出られる大会は限られていたものの、時には県外の大会に出場したりして経験を積んだ。

 誰も俺を知る人がいない環境でのバドミントンは楽しかった。変な先入観や色眼鏡で見られることもないから、怖くない。一度だけ暴発した時も、以前のような焦りや焦燥はなかった。


 そうしてあっという間に受験の季節がやってきて、俺が志望校に選んだのが晴風。

 なんといってもあの松下幹人がいる。加えて学校見学で見た限りチームとしての雰囲気も悪くなさそうだった。

 決めたは良いものの、試験に合格しなければ何も始まらない。得意でないなりに机に齧り付きかろうじて合格を勝ち取ったあの日のことは一生忘れられない。縄文時代をマンモス時代と言っていた頃に比べたら大きな進歩だろう。

 制服はきっちり着て、それからメガネをかけて、話すときはできる限り敬語に。自分のイメージする「まじめ」になるために、プレイスタイル以外のことも思いつく限り変えた。

 今まで以上に大会を見に行ったり、高校の選手が載っているような雑誌を集めたり、時にはSNSなんかも駆使したりしてありとあらゆる情報を集めて予習をした。


 そうして迎えた高校入学。

 今度こそ、うまくやらないと。

 そう、思っていたのに。


 入部してから初めての練習試合、苦戦したもののペアを組んでいた羽代が上手いこと指示を出してくれたからボロを出さずに勝てた。しっかり下調べをした成果も出ていると思う。

 これならいけるぞ!そう手応えを感じていたのに、部室を守り切った後試練が訪れる。


 次は春大か夏のインハイ予選。県内の学校は出来る限り予習してある。入学したばかりの一年生についてはまだデータ不足だから不安はあるが、これから調べていけば十分間に合うはずだ。

 そう少し安心していたのに突如として登場した春風杯。一年生や県外含め、知らない選手が出てくる可能性も高い。だとするとボロが出る可能性も高い。

 それならデータ収集に集中したい。自分は遠慮しておこう。いや、出たら確実に何かやらかすから出たくない。

 そんな思いは叶わなかった。入部してすぐに先輩に対して「いや、自分は結構です」などと言える勇気は俺には存在していない。

 そもそもここで嫌な印象を残して、また部内で浮いてしまうのは嫌だ。結局のところ最初から、春風杯出場の流れを俺に止めることなんてとてもできなかった。


 それから大会でボロが出る夢を見たり、練習中に昔の失敗を思い出したりして、バドミントンに集中できなくなっていった。


 うまくやらないと。

 でも、出場者もわからない。データもないのにどうやって?


 もっと練習しないと。

 練習したところで隠し通せるものなのか?


 どうしよう?

 知らねぇよ!そんなの俺が知りたい。


 ああ、ああ、あ。

 そんなグルグル考えのまとまらない頭で試合に臨んで、それで、ついに、やってしまった。


 静まり返った会場。

 動かない体。

 スローモーションの世界。


 そこからもう頭は真っ白で、どうやって勝ったのか、どうやってコートから移動したのか、全く覚えていない。


 気づけば晴風メンバーに囲まれていて、その後松下先輩と何か話して、勝ったんだから次の試合もある。ちゃんと出ないと、頑張らないといけないってそんなようなことを言った気がする。


 それから、どうしたんだ?ふいにさっきの試合での観客の視線が怖くなって、苦しくなって、それで?


 確か気づいたら隣に南先輩がいて、駅に向かっていた。電車に乗って、家まで送り届けてくれて、少しお腹に入れといた方がいいよっていつの間に買ったのか春雨スープとおにぎりをくれた。俺ん家昼間基本人いないって前話したの覚えててくれて、それでついてきてくれたのかもしれない。


 一人じゃない方がよければしばらく一緒にいようか?どっかご飯でも食べ行く?一人でゆっくりした方がよければ今日はここで解散!


 そういつもの笑顔で言う先輩を見て、やっぱりそうなんだと思って、一度これからのこと自分で考えたいからこのまま解散でお願いした。


 家に入ってしばらくぼーっとして、もらった春雨スープにお湯を入れてまたぼーっとして。

 気づけば春雨はすっかり伸びていたけど、じんわりあったかかった。


 本当の自分を隠そう、変わろうとしてきた今までが正解だったのかわからない。この先どうしたらいいのかまだ自分じゃわからないけど、でも、やっぱりバドミントン、したい。これからも、続けたい。


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