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締まらない日

 「あー!ほんっとに悔しいってか自分にむかつくー!」

 「いやー、俺はめっちゃよかったと思うよ!三ゲーム目であんなに粘るあまりょー初めて見た」


 あんなに「方針は決まった。それなら後は進むしかない。」なんてキメッキメで臨んだのに!結果

 16-21

 23-21

 19-21

 はいっ!負けました。

 結局立ち上がりがらペースをつかみきれず、危惧していた通りジリジリと押し込まれて1ゲーム目を取られた。あ!インターバルはどうにか二点差で持ち込んだからまあ、当初の目標は達成できたといってもいいと思う。

 そして二ゲーム目。さっき幹人が言ったように、今まで俺は基本一ゲーム目と二ゲーム目をストレートで取り切るのが勝ちパターンだった。一ゲーム目か二ゲーム目を相手に取られて三ゲーム目にもつれ込むとグッと勝率が下がっちゃってたんだよね。それが今回、スコアを見てもわかるように、最後の最後まで勝つか負けるかのシーソーゲームだった。 

大抵三ゲーム目はこれまでもっとしっかりはっきり差がついてたからこれは大きな変化。もちろん今までだって三ゲーム目になったって手を抜いていた訳じゃない。でも、どうしたって後半になるにつれて普段得意としているトリッキーな動きや細かいコントロールが必要になってくるショットが少し大雑把になってしまっていた。集中力も体力も切れちゃってたんだと思う。

 今まで、できそうな時になんとなく得意なことをやってみていた。それがコーチに言われたように自分がやりたいことをするために逆算してラリーを組み立てることを意識するように変わって、無駄な動きが減って結果として集中力や体力が最後までもつようになったんだろうな。あちこちに散らばっていた点が、線でつながるようになったというか。うまく表現できないけど、とにかく自分の得意なこと・やりたいこととかがより明確に見えてきたような感じ。

 手応えを感じていたからこそ、何というかそれを掴みきれず勝てる試合に勝ちきれなかった自分にものすごく腹が立つ。


 「ホントにすごかったですよ!!だって天野先輩に勝った地田さん、準優勝してたじゃないですか。しかも決勝で幹人先輩と当たるまで、天野先輩との三回戦以外全部ストレートで勝ち進んでましたよ!実質先輩が二位か三位といっても過言ではありません!」

 「……青葉」


 フォローしてくれてるんだろうけど、もう一度事実を突き付けられて余計に悔しさが増し増しになったよ……。ほんと、あそこさえ勝てれば入賞見えてたよな……。

 そうそう、ほかのメンツもひなた八位入賞、羽代四位入賞、初心者部門でなんと青葉が準優勝とすこぶるいい感じの結果となった。


だ!か!ら!こ!そ!


 余計に悔しいんだよ!!!


 しかも負けたのがあ!の!めっちゃこちらを下に見てくる地田だから!嫌なわけ!

 幹人に負けて悔しがる様子は実に爽快だったけど、でも!ほんとは!俺が!あの顔にさせたかった!

 結果入賞してないのは俺と、棄権した小夜川だけってわけです。あー!後で小夜川にジュース奢ってやろっと。

更にムカつくのは、雷山のコーチ。俺とのギリギリ(・・・・)の試合を終えて、あちらのベンチから聞こえてきた会話。


「晴風の、それもあんな無名の(・・・・・・)選手にここまで苦戦するとは何事だ?松下以外の二年生なんて、今のあいつももう一人もダブルスはともかくシングルスで入賞したことなんておまえと違って一度もないんだぞ!」


だって。それに対して地田も


「すみません。相手が晴風だからって力入りすぎてました。あんなに構える必要なかったですよね」


だっっっって!ほんっっっとに何様のつもりなわけ?上を見るのは良いことだとは思うけどさ、それでも上だけ見てたらいつか足下掬われるよ?というか今回は俺が負けたし、シングルスで結果出せてないのも事実。だけど、そのうち俺が足下掬うので是非お覚悟しておいてほしい。


 「まぁ、ひとまず誰も怪我なく大会が終わったわけだし。明日からはまた練習頑張ろうぜ!みんなそれぞれ今日色々気づくこともあっただろうしさ」

 「そうですね。全国目指すなら、まだまだやることは山積みですもんね」


 前を歩く幹人の言うとおり、誰も怪我なく終われたのは本当に何より。そしてそれに続く羽代の言葉通り、俺にはまだ課題が山積みなことに今日気づかされた。


 「……小夜川のことも、みんなで考えたい」

 「そーだね。全員で考えれば何か良い案浮かぶかもしれないし、今ならコーチもいるもんね」

 「小夜川がこれからも楽しくバドミントンできるような方法見つけたいな」

 

 ポツリと隣で呟くひなた。そうだよな。今晴風として一番の課題はそこだよな。これからも楽しく、か。幹人は簡単そうに言うけど、全国を目指しながらそれってなかなか難しそうな気がしちゃう。まぁでも、きっと今の晴風ならなんとかなっちゃうかも。


 今気にかけるべきは小夜川。チームとしてそうなるのはもちろんわかってる。わかってるんだけど、なんか、なんていうか、やっぱ俺今日結構良い線いっちゃうかもとか思ってたし、実際手応えも感じてた。それに、南先輩から目立ってこい。できることなら勝ってこい。ってミッションももらったのに、目立ちはしただろうけど、結果今いる中では俺だけ入賞できなかった。何もできないって焦ってた俺に託してくれた役割も満足に果たせなかった。


 立ち止まって見上げた空はもうすっかり茜色から薄紫へと変わっていて、建物や看板の輪郭もぼやけて見える。ほんの五・六歩先を行くみんなの背中がなんだかとても遠くに見えて、勝手に取り残されたような気分。


 あーあ。なんかもう、このままフラっとどっか行っちゃいたい。今日このまま一緒に帰っても、俺が勝手な劣等感でどうにかなっちゃいそう。でも反対に、なんか一人になりたくない自分もいて、もうホント自分がメンドクサイ。


 「…………天野涼?」


 隣にいたはずの俺がいないことに気づいたのか、振り返ったひなた。


 「ってなんでフルネームなのさ?!」

 「……早くしないと、帰るの遅くなる」

 「無視かいっ!はいはい、今いく!」


 はぁ、なんだかんだ二年生で一番子供なのは俺かもしれない。こういう時、程よい塩梅で俺を扱ってくれるひなたや幹人の存在にホント助けられてるんだよな。

 風もなく穏やかな陽気。カラスの鳴き声もすっかり聞こえなくなった駅までの道を、さっきよりちょっとだけ大きな歩幅で歩き出す。モヤモヤすることも悔しいこともあったし、まだ何も解決はしていないんだけど、それでも最後に笑えるようにまた頑張るしかない。

 

 それから駅で解散して、方向が同じひなたと電車に乗って、先に降りるひなたを見送って。それで一人になった時、ちょっと泣きそうになった。今日のこと絶対忘れずにもっと強くなりたい。

 最寄りまで後一駅って時に、南先輩からメッセージがきた。


  お疲れ様。小夜川はとりあえず無事帰宅したよ。

  天野と雷山の子の試合、すごい盛り上がって大注目だったんだってね。先生から聞い 

  たよ!今日は本当にゆっくり休んで。

  それから今度合宿することになったから、詳細はまた連絡するけどよろしくね~!


 ひとまず小夜川が無事でよかった。その後は照れくさいからそっと読み飛ばし、最後の一文。そう、そこ!合宿。

 バドミントン部、いかんせん人数が少なすぎて学校の合宿所もなかなか借りられないような状況だったから、久しくそんな部活っぽいイベント耳にしてなかった。そっか。合宿か。朝から晩まで、もっと練習してレベルアップできるかもしれない。


 ちょっと楽しみかも。そんなこと思いながら画面を見ると、南先輩から追加のメッセージ。


  まだ確定じゃないんだけど、もしかしたら県外に遠征いけるかも!それか、県外の学

校きてくれるかも!


 そうかそうか。県外か~。


 「えっ!?」


 小夜川問題まだ解決の目処たってないのにいきなり県外ってそりゃなかなかスパルタじゃないですか?えっ!ホントどうするの?


 ――お降りのお客様はお忘れ物なさいませんよう


 「あ!着いてる?!」


 バックを抱えて慌てて脱出し、どうにか乗り過ごしは免れた。なんか、最後まで今日は締まらなかったなぁ。

 空に浮かぶ月がオムライスみたいな色をしていて、思わずお腹が鳴った。いろんな感情がグチャグチャですっかり忘れていたけど、そういやお昼軽く食べた後今まで何も食べてないや。そりゃお腹も空く。

 

 「もしもし、母さん?うん。今駅着いたとこ。……え!マジ?やった!すぐ帰る」


 震えたスマホを取れば母さんからで、なんと今日の夕飯は俺の好きなオムライスだってさ!あいつの夕食は、苦手なもの出てるといいな……。なんてまたちょっと意地悪なことを考えながら、さっきより軽い足取りで改札を出た。


春風杯篇、これにて完結です!

次回から、小夜川修行&合宿篇スタート。お楽しみに。


評価やブックマーク、閲覧、いいね本当にありがとうございます!何より励みになっています!

活動報告にて改めてお礼と、個人的春風杯篇振り返りを投稿しておりますので、よろしければチェックしてみて下さい。


2024/04/08→天野と地田の試合スコアが一部逆になっていたので修正しました。

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