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バチバチヒリヒリ

 俺に最初の点を許したことがよほど嫌なのか、地田は顔を歪めている。黙ってれば雷山のイメージにピッタリな今どきな高校生って感じなのに、あの喧嘩腰と常に眉間にしわが寄ってるんじゃないかってくらいキツイ目つきのせいかやけに貫禄がある。それが今はさらに凶悪な感じだ。

 身長も相まって去年夏の大会で見た羽代よりなんか怖い。あの時の羽代も背中に悪魔が見えそうなくらいだったのに、地田の背中には閻魔大王が見える。コーチ曰くまだ俺と同じ二年生らしいけど、とても信じられない。むしろ大学二年生か社会人二年生と言われても納得するかもしれない。ほんとに貫禄あるから。

 なんかもう今にも舌打ちとか聞こえてきそうだし、取って食われそうだし。ここまで感情を出されるとなんかこっちは逆にどんどん冷静になってくる。のまれる人や自分もヒートアップする人なんかもいるんだろうけど。

 なんていうか、勝手にあっちが崩れてくれてる気がする。あちらも色々思う所あるんだろうけどそれにこっちが付き合ってあげる必要もない。俺は俺で、やりたいことをする。

 間髪入れずにもういっちょ!


 テンポよくショートサーブ。うん、軌道もネットスレスレでいい感じ!

 地田はイライラしているせいか、構えていても心がちょっとお留守に見える。そのせいか、純粋なスピードは間違いなく俺より上なのに今も返球がワンテンポ遅れて少し浮いたドライブが返ってきたから横っ飛びでプッシュ!ではなく地田の頭上を通り越してコートの奥に。

 これはなかなか相手の意表を突くところ狙ったんじゃない?と、思ったんだけど……。いけ好かない態度の奴とはいえ腐っても県内上位。追いついて返球してくる。

 でも完璧ってわけじゃない。

 本当なら俺をコートの奥まで下げたかったんだろうけど、そこまでショットが伸びていない。それならまだまだこっちのペースだ。

 やっぱり単純なフットワークのスピードは負けているから、ここからうまいことネット前も交えてこちらの得意な形に持っていきたい。まずはネット前に落として、相手がそれに乗ってくるか見て見よっかな。

 対抗してネット前に出てきてくれるならこっちとしては美味しいし、もし嫌って距離を取ってくるならこっちからガンガン距離を詰めていけば後手に回ることは無い。距離を取ろうとするとどうしても球足が長いショットを打つことになるはずだから、スマッシュやドロップといった攻めのショットは使いにくくなるはず。自分よりも速い相手の攻め手を減らせるのはめちゃくちゃ大きい。


 さて、地田はどっちを選ぶ?

 今日一番のいい感触。こんないい理想的なドロップ打てたの初めてかも。シャトルは綺麗にネットギリギリを通ってコートへと吸い込まれていく。こんなに試合で注目されるなんて初めてなのに、不思議と緊張しないしむしろ調子がいい。

 ネットの向こうの地田は……足を一歩前に出してラケットを差し出すようなフォーム。

 これは、ネット前に返ってくる。ということは、


 乗ってきた!


 思わず笑っちゃった。

 俺にとっては一番うれしいパターンだね!それならやることは簡単。このまま前で勝負だ。

 後手に回れば間違いなく押し切られてしまうから、相手に考える隙も立て直す余裕も与えないよう即座にクロスネットで返球。これ、この前練習中青葉の前でやったら目をキラキラ輝かせて「すごい!絶対ストレートにヘアピン打つと思いました!どうやったんですか!?」と前のめりに聞かれたっけ。

 力が入りすぎれば飛び過ぎてアウトになるし、飛ばしたい方向に意識が行って体がそっち向いちゃえばクロスに打つのバレバレで逆に相手へチャンスを与えることになってしまう。つまりうまくやらないとリスクも高いショットってこと。でもここで安全で堅実な選択肢を取っているだけじゃ勝てないし、思い切った動きをする方が自分に合ってるんだなって最近改めて思うから。

 よっし!完全に逆を突いた。元々得意なショットではあったけど、ここ一番ってところでもバッチリ決まった。のに、地田は即座に反応してきた。ストレート側にドライブ気味なショット。多分コートの奥を狙ってる。俺がクロスに打ったってことは、地田から見た俺のコートはストレート側ががら空き。

 そう。クロスへのショット全般に言えることだけど、相手に追いつかれてストレートに返球されれば今度は自分が空いた場所に手痛いカウンターを食らうことになっちゃう。

 あー……、このまま下がっても間に合わない。ちょっと無理やりだけど、数歩下がって後ろに飛びながら何とかシャトルを捕らえた。どうにかラケットに当たりはしたけどほんとに当てただけって感じだから、残念ながら全然コントロールはできてないヘロヘロの球が相手コートに返っていく。

 んー、これは……場所が悪い。ネット前へのちょっと浮いた返球を見逃してくれるほど、


 ガンッ!


 「甘くないよなぁ……」


 なかなか重い音が聞こえた。気づいた時にはシャトルは目の前。辛うじてラケットのフレームに当てたものの、弾かれてコートの外へ飛んでいく。あんな吹っ飛ばされるって、幹人ほどじゃないけどパワーあるな。

 雷山応援部隊の「ナイスショット」の声が響く。負けじと青葉や幹人の「ナイスファイトです!」や「いい形作れてたぞ!次々!」って応援も聞こえてくる。って冷静に考えて相手は人数パッと見ただけでこっちの三倍以上は居そうなのにかき消されずに聞こえてくるってすごいな。流石晴風大声ランキング一位と二位(小夜川調べ)。


 「やっぱ、そこまででもないな」


 勝ち誇った顔の地田。なんかこっちを見下してる感じがして凄く嫌だな。今は審判だって同じ学生がやってる試合だから止められたりペナルティが課せられることなんてないけど、もっと大きな大会やプロの大会なんかだったら絶対大問題になるって!


 「まぁまだ、お互い(・・・)一点ずつしか取ってないし?始まったばかっかりですよね?」


 これくらい言い返したって罰は当たらないはず。心の中で今日あいつの夜ごはんに苦手な物が出ますようにとお祈りしながらシャトルを返した。まだ何か言いたそうだったけど、流石にあんまり無駄話ばっかしてるのも見てる方からしたら印象は決して良くない。流石にそれはわかっているのか、大人しくサーブの準備をしている。


 「よしっ」


 まだ相手は変な対抗意識でムキになって完全には試合に入ってない。やっぱりちょっとした動きでたまに心がお留守になってるのがわかる。のに、なんか押し切れないのが悔しい。今までの二点でそこまで絶望的な差は感じなかったしむしろいい感じに渡り合うことができてる気がするのに。なのに、本調子じゃないはずの地田に力技とか経験値の差で上手い事決定的なチャンスや流れを掴ませてもらえない。そこに何ていうか、地力の差が表れてるんじゃないかって嫌な考えが頭をチラつく。

 大丈夫大丈夫、まだ序盤も序盤。インターハイ予選で突然こんな事態に直面するよりも、今ここで経験しておけるほうが何倍もいい。たとえ負けてもこの経験は無駄にはならない。でも、でも、あそこまでコケにされてあっさりと負けるなんて絶対に嫌だから。今できることを全力でやるしかない。


 悪い方に気持ちが引っ張られないように。あまり考えすぎて動きが鈍らないように。まずは一本、自分の得意なことは見失わず使える技は全部使って止めよう。理想は一点でもリードした状態でインターバル。たとえリードされた展開でインターバルに入ったとしても、点差があまりない状態にしておきたい。そうすれば、相手にとってはプレッシャーになるはずだし。


 うん、方針は決まった。それなら後は進むしかない。一度目を閉じて息をしてから、もう一度白帯(はくたい)の向こうを見据えた。


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