頑張れ!俺!
――雷山高校 地田ハヤトさん、晴風高校 天野涼さん、第三コートに入ってください。――
廊下での遭遇からそう時間が経たない間に、試合のコールがされる。
ぶすくれながら席に戻ったからひなたが怪訝そうにしていたけど、余計な心配かけるのはあれだから特に何も話さなかった。みんな次の試合控えてるのに集中できなくなったら困るしね。こういう時、ひなたは無理に聞いてこないからありがたい。
ラケットと水分、それからタオル。
うん。忘れ物はないはずだ。
「それじゃ!行ってくる」
これはぜっっったいに負けたくない。
がんばれよ〜!とおにぎり片手に笑う幹人と、無言で頷くひなた。一年二人は、応援行きます!といそいそ準備をしてくれている。
手を振って応えてコートへ続く階段に向かう道すがら、さっきまでのことを思い出すとなんかまたムカついてきた。
あー、ダメダメ!わけもわからないままあんな目の敵にされて一方的に色々言われちゃそりゃ腹は立つけど、それで試合中自分のペースが乱れちゃったらもっと良くない。
先生は運営の手伝いに行ってるみたいだから、ベンチにはコーチがついてくれるかな?他誰も今は試合に入ってないから多分そのはず。様子見て、タイミングあればコーチには話しておこう。
「お疲れ様!ちょうど会えてよかった」
「あっ、コーチ。お疲れ様です」
噂をすればドンピシャ!向かい側からやってきたコーチにことのあらましを話すと、なんとも言えない複雑そうな様子。
「雷山高校の地田くんか……。そうか、彼の……」
どこか懐かしむような、そんな顔をするのはどうしてなんだろう?
「おっと、ごめんね。それこそ二十年は前のことだから天野くんたちは知らないと思うんだけど、晴風ってその頃県内では頭ひとつくらい抜けてたでしょう?全国連覇してるくらいだったし。そんな時、県内で晴風一番のライバルって言われてたのが雷山。その全盛期の頃に彼のお父さんが雷山の部長だったんだ。それで、ほら、今その雷山のコーチもしてて。天野くんに宣戦布告したって息子の方の地田くんは、部長してるみたいだよ。父は自分ができなかった打倒晴風全国出場を息子に果たして欲しいからって随分厳しくしてるみたいで、その影響であんなに敵対心むき出しなのかもね」
「はぁ、なるほど……」
や、気持ちはわからないでもないけど当時いた選手なんてみんなもういい大人になってるだろうし、数十年後輩の俺らにそんなメラメラされてもちょっと困る。
幹人はこういうの燃える!とか言いそうだけど。
「まぁ以前試合した白間川みたいに物理的な荒れ方してるわけじゃないし、直接何か危害を加えられるようなことはないんじゃないかと思うよ。もし何かあったら、先生か僕にすぐ報告してください」
コーチはそう締めくくり、特にそれ以上気になることもなかったからそのまま二人で歩き出す。
第三コート!うん。ここで間違いない。
先に来ていた地田を見れば、なるほど。隣にいるコーチらしき人とかなり似ている。あの目つきがきつい感じとか特に。
「春体蹴ったって本当なんだな。俺たちは今日の春風杯も、春体も、インハイ予選も、ちゃんと全部出るぞ」
はあ“っ!もう!そうですかそうですか。そっちがその気ならこっちだってとことんスルーしてやりますよ!!
「よろしくお願いします」
自分にできる最大の笑顔でご挨拶。
そもそも!三強とかそれに近い学校は!この時期の!春風杯は避けて!夏の前哨戦の春体に出てますけどね!ま、県を勝ち抜けても!関東大会までしかないから!関東一番までしか決まらないけどね!!
結局前哨戦!腹の探り合い!!
団体戦の経験は!積みたいけど!今探り合いをする余裕が!うちの学校にはありません!誰か一人でも怪我したり!調子悪くなったりしたら!夏に響きます!春風杯ほど棄権とかも!なんかしにくいし!ただでさえ少ない手札を!あまり明かしたくないし!
まあ!とにかく!デメリットが大きいから!出ないだけです!
その分合宿とか練習試合とかで!経験を!積みます!
言いたいことは山ほどある。だけど荒れ狂う心の声を全力で喉元に留めて、ネット越しで握手をする手に力を籠める。
じゃんけんは勝った。やったね!それじゃ、レシーブにしよっと。
本日話題の晴風の選手と最近頭角を現しつつある雷山高校主将のカードは注目されているみたいで、両校の応援以外にもギャラリーが多く集まってきている。ので、目立つというミッションはこれでかなり達成されている気がする。
後はほんとに、とにかく勝つだけ。格上相手に俺がどれだけ通用するのか、とにかくやってやるぞ!もう二度と顔も見たことないだの大したことないだの言わせない。できることなら参りましたくらい言わせてやりたい。
「天野先輩!がんばです!」
「いけー!」
俺がダブルス中心なのに対して、地田の名前を見かけていたのはシングルス。
インターハイを目指して勝ち進むのなら、こんな風に格上を相手にすることだって増えていくから、今ここでそれを経験できるのは割と美味しいかも。
ラブオールプレイ!
なんかこのコール、いつ聞いてもちょっとワクワクしちゃうのは俺だけかな。
今みたいにイライラしてたり、はたまた何か落ち込んでいたり、色々なことがあってもこれを聞くと不思議とスイッチが切り替わる。
今日はかなりバタついたし地田の件で結構自分イライラしてるかもって思ってたけど、いつも通り始まれば頭をクリアにして臨むことができているから大丈夫。何があっても割と試合に響かないのは俺の強みかもしれない。
さて、相手がどんな出方をしてくるのか、何が得意なのか。なんだかんだ地田が幹人と当たったことはないから直接試合を見たことはないんだよな。小夜川ほどとは行かなくてももうちょっと他校の選手の試合、今後は見ておこうかな。
これまで出たとこ勝負。その場その場で柔軟にを信条としてやってきたけど、それだけじゃ俺は今後通用しないなってなんか最近思うから。構えながらも改めて気合いを入れた。
地田の手元を離れたシャトルは、山なりの軌道を描いて飛んでいく。さて、素直にスマッシュで攻め込むか、クリアで返して出方を見るか、それとも中間取ってドロップか。
今までの俺なら自信のないシングルスってこともあって様子見のクリアを選んでた。でも今の俺はちょっと違う。選ぶは強気の
カットスマッシュ!
スマッシュと同じフォームから、でも打球は減速してスマッシュよりも手前に落ちる。
それも、ストレートに打つと見せかけてクロスに。地田は俺のフォームを見た時点で完全に重心をストレート側に向けていたから、逆を突く形になる。
これはもらった!正直そう思ったんだけど……。体ごとそちらへ戻すのは難しいと判断したか、腕だけで振り抜いて返してきた。ううん。やっぱり一筋縄ではいかないな。
でも、返ってきた球はコースも高さも甘い。すかさず今度はスマッシュで打ち込みまずは先制。
「よっしゃ!」
最初のラリーから強気に出られたのはかなり大きい。どよめく会場を背に、まだ本番はここから。一瞬も気が抜けないのになんだかワクワクする。
晴風には天野涼もいるよって所を見せちゃおう。
他校や観客から見たうちが、松下の晴風じゃなくて、ダークホースの晴風に今日変わりつつある。そして、今、この試合を勝ち抜けば春風杯入賞も見えてくる。
どこまでできるか、全力の腕試しだ。




