光れ!あまりょー!
そうこうしているうちに青葉は危なげなく一回戦を突破した。コーチに初試合の感想聞かれて「楽しかった!」って元気に言っているくらいだから、ああ見えて大物なのかもしれない。そんでもって、ひなたと俺も無事に一回戦突破。羽代も危なげなし。幹人はシードだったから、これで全員初戦は突破したことになる。朝からバタバタしていたせいか、あっという間に気づけばお昼も間近。次に控える二回戦が終わったら軽くお昼食べようかな。
「天野!ちょっといい?」
各自次の試合に備える中、しばらく姿の見えなかった南先輩がひょっこり現れた。「すぐ終わるけど、場所を移そっか」と促されるままに席を立ち、人の少ない通路に差し掛かったところで南先輩は足を止めた。
「試合前なのにこんなとこ連れてきちゃってごめんね。早速本題に入ると小夜川の事なんだけどね……。今回の春風杯、やっぱり棄権することになった」
「えっ……?!」
棄権?あんな形とはいえせっかく一回戦勝ったのに?
ちょっともったいない気がする……と言いたいところだけど、確かにあの様子じゃ次の試合はもっとひどいことになってたかもしれないし、もっと言うとさっき心配してたみたいに、同級生と自分を比べて余計に落ち込んでしまう可能性もあった。それなら、全国を目指すにあたって直接関わってはこないこの大会で勝ちにこだわる必要はないか。
「それでさ、このまま会場にいてもしんどいだろうしボクが小夜川連れて帰るんだけど……。言わずもがな県内で松下を知らない人なんていないし、加えて小夜川の初戦でだいぶ他校から注目浴びてるから、渦中の人が二回戦棄権ってなると何かあったって勘ぐられちゃうと思うんだよね」
南先輩の言う通り。中学では全国制覇も成し遂げた幹人がどうしてか超少人数の今じゃ名前も滅多に聞かなくなった高校に来てるなんて、もし俺が他校の生徒だったとしても気になる。
加えてさっきの試合で小夜川が見せた雷のようなスマッシュ。
晴風といえば幹人のいるところ。
きっとそんな風にしか思っていなかった人から見れば、何事かと思うはずだ。
去年の大会の成績を見て羽代の事知ってる学校も少なくないはずだから、ただでさえ今までよりも注目度は上がっていたはず。
だからとにかく、今までに比べて注目度は増し増し。一躍時の人ならぬ時の学校!
これまで幹人と仲間たちくらいの認識だったからこそ、よほど用心深い学校じゃなきゃ俺やひなたのことまでチェックするなんてことはなかった。だって人数足りなくて団体戦出れなかったし!
言い換えれば、基本俺とひなたは霞んでおまけ程度の認識をされることがほとんどだったんだよね。
ある意味そのおかげで戦いやすい事は多かったのがすごく複雑なところだけど。
「それでここからが天野に関わってくることなんだけど、この後の試合とにかく思いっきり目立ってきてほしいんだ」
「……と、言いますと…………?」
「とどのつまり、小夜川の件を霞ませてほしい!!今後の彼次第だけど、晴風高校バドミントン部にとってあのパワーは凄い武器になるかもしれない。だから、隠せるのなら現時点ではできる限り印象を薄くしておきたい」
「でも、今回ベスト四常連な学校は基本出てないはずだし、出てたとしてレギュラーメンバーじゃなさげですよね?なら、小夜川は棄権でこれ以上注目されないのなら今日来てた学校以外には広まらないだろうし、幹人注目されるのはいつものことだし大丈夫じゃないんですか?」
「それがね……なかなかそうも行かなそうなんだ。すごく言いにくいんだけど…………さっき校長先生……来たんだよね……」
うげぇ!
喉元まで出かけた悲鳴を、どうにか心の中だけで抑えたことを褒めて欲しい。えらいぞ!天野!
「それで、相変わらず松下くん以外はパッとしませんね〜とか、全国目指してるんですからまさか入賞できないなんて事ないですよね〜?とか色々言ってきててさ。で、最終的に松下君以外でも最低一人は入賞しないと、体育館使う権利なんてないんじゃないですか~。とか言ってきたわけ!まあいくら校長先生でも、ちゃんとした部活動で体育館を使わせなくするなんてできないだろうけど。でも、いつまでもそんなに軽く見られてるわけにもいかないから、見返してやるためにも全力で勝ちに行ってほしいんだ。勝ち進んでコートに立つ時間が長くなれば、自然と目につくしなんか強豪っぽいでしょ?」
それはもちろん!せっかく大会に出たからには全力で勝ちに行きますとも!
「それとやっぱり、小夜川が変に注目されちゃったのすごく気にしてるみたいでさ。だから勝って入賞して、晴風は松下と謎の一年生だけじゃないんだぞー!っていうのを見せてきてほしい!」
「なるほど……?」
小夜川のメンタル面のケアはきっと俺にはできないから、他にできることを頑張ろうと思っていた。思ってはいたものの、だからって何をしたらいいかは全くわからなくてちょっと困っていたのも事実。
そんなで俺にもできることが、今!判明しました!やったね!
転校に転校そして転校を重ねたおかげで、どうやったら目立たないかは嫌と言うほど心得ている。とどのつまり反対にどうすれば目立つことができるかだってお任せあれ!
「じゃあ、優勝目指して幹人倒す勢いで思いっきり輝いてきます!!」
「ありがとう!花光はこういうの苦手だろうし、羽代や青葉も高校初めての大会で一杯一杯だろうから助かるよ。頼りにしてる」
先生と松下には伝えてあるからこのまま帰るね。見慣れた笑顔でそう告げた南先輩に手を振り、小さくなっていく背中を見ながら思った。もしかすると俺があまり人付き合い得意じゃないのも、できることがなくてちょっと焦っていたのも、先輩は気づいていたのかも。
先生と幹人に伝えてあるんならそのまま帰ったってよかったはずなのに、わざわざ俺を呼び出して「お願い」をしてくれた。もちろん良くも悪くもいつも以上に注目されちゃったことも、小夜川がそれを気にしていることも事実なんだろうな。あと、校長が来たことは紛れもない事実。でも、この「お願い」はきっと俺のためでもあると思う。
南先輩、思えば常に程よい距離感を保ってくれている気がするな。一年後俺、あんなに大人な対応できるようになるのか?
南先輩だけではない。思えば幹人やひなたもそう。練習終わりの買い食いもオフの日の偵察や勉強会も、気乗りしない時の方が多くてたまにしか参加しない俺を誘い続けてくれているし、断っても気を悪くしていないのがわかるからこっちも変に言い訳する必要なくて気が楽だった。二年前の自分に、こんな長続きしてるなんていっても信じてもらえないだろうなー。それくらい、ここはすごく居心地がいい。
この先も、みんないつでも一緒に仲良しこよし〜!なんて一生できそうもないけど、でも、そんな奴でも居場所はあるんだなってここに来てそう思えた。だから、俺はここで勝ちたいんだな。それを今改めて確認できた気がする。
「よっし!思いっきりかましちゃいますか!」
さあ、俺のターンはじまりはじまり!




