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小夜川の秘密

 永遠にも思える沈黙の後、とりあえず自分用にと自販機で買っていたスポーツドリンクを渡して、ダッシュで他の誰かを探しに走った。


 あっちこっちぐるぐる回ったあの時は時間にすればほんの数分なんだろうけど、出口のない迷宮で彷徨っているような気分だったな。

 幹人を見つけた時は、背中に後光がさして見えた。


 そこから抜け殻のような小夜川からどうにか聞き出した言葉を繋ぎ合わせると、こうだ。


 ・昔から、とんでもないパワーがあった。

 ・フルパワーで打つと、コントロールができず、全く狙っていない方に飛んでいってしまう。

 ・中学の頃最初は期待されていたが、いつまで経ってもノーコンで周囲から愛想を尽かされた。

 ・それがトラウマで、高校ではコントロールできる程度のパワーで、頭を使ってバドミントンをすると決めた。(要するに自分のパワーのことは隠すことにした)

 ・今までとは正反対の自分になろうと頑張った

 ・しかし、事前に相手のことを予習していればそれで上手いことできたものの、試合中に相手を見て柔軟に対応していくことはできなかった(脳筋)

 ・ダブルスで味方に指示を出されたりすればその通り動ける。白間川との試合では羽代が逐一声をかけてくれるタイプだったからなんとかなった。

 ・実は伊達メガネ(真面目=メガネ)


 最後の伊達メガネはとてもユーモラスだけど、それ以外に、驚きの事実が一気に明かされすぎて訳がわからない。

 三角座りで後ろにはドヨーンという効果音が聞こえてきそうな重たい空気を背負った小夜川。青葉や幹人を筆頭に全員で取り囲んで話しかけても全く反応はなく、まるで抜け殻のようだ。側から見たら小夜川がカツアゲでもされていそうな危ない絵面だが、断じてそうではない。でも見られたら間違いなく勘違いされそうなので、そっとロッカールームのドアを閉めた。


 たまに遠い目をしながら「バレてしまった」やら、「やっぱり変われなかった」やら独り言を呟く小夜川を一人にしておくわけにもいかず、かといってこのまま全員下にいたら試合のコールをされても気づけない。審議の結果、一番出番が遅い幹人がしばらく側にいることになり、とりあえず俺たちは観客席に戻った。


 春風杯に出たくなかったのは、予習できていない人が多そうだからか。そして、1回戦でその不安が的中してしまったと。

 そんな中でも勝てちゃったことが良いのか悪いのか。あんな状態で二回戦も試合をするなら、いっそさっきの試合で負けちゃった方が良かった気もする。

 まあ、残念ながらいくら考えたって状況は変わらないのだ。こんなに自分のことに集中できない試合は初めてだなぁ。なんだかどっと疲れて、大会が始まったばかりとはとても思えない。とりあえず一息つこうと口に含んだスポドリの味が全くしなかった。


 そんなこんなで慌てた青葉は走り回り、羽代は黙り込み、ひなたはオロオロし、俺は言わずもがなこういうことに対して戦力外で手持ち無沙汰、というカオスな図が出来上がったのである。

 後からやってきた南先輩がいなければ、みんなしてフワフワしたまま試合に臨むことになっていただろう。だって、あの小夜川が幹人を超えるパワーの持ち主なんて誰が予想した?いまだに現実感がない。


 ――サービスオーバー、7-3


  おっと、そんなことしているうちに青葉は7点を先取。いい感じじゃん。応援に全く身が入っていなかった。青葉、ごめん!

 心の中でそっと謝る。


 とりあえず、インターハイ予選が始まる前に小夜川のこと、知ることができて良かった。わかっていれば全員で解決方法を考えることだってできる。そりゃあ俺もめちゃくちゃびっくりしたし、いまだに脳が理解しきれていない気はする。でも、苦手なことが「コントロール」であることがはっきりわかっていて、パワーを抑えればちゃんとコントロールができることもすでにわかっている。それなら、きっといくらだってやりようがあるはず。


 むしろ、ここにきてとんでもない武器が一つ発掘されたぞ。晴風高校の今の面子では、正直幹人以外にパワータイプと言えるような奴はいなかった。その幹人も、パワーに振り切ったタイプかといえばそうではない。割となんでもこなせるパラメーターを持つものの、その中でちょっとパワーの値が高いだけ。小夜川みたく、パワーだけがとんでもなく突出しているわけではないのだ。他の面子も、ダブルスだけでなくシングルスもこなせるマルチな安定感のひなた、得意不得意はなく、のらりくらり手数勝負の俺、多分読みとか考える力は頭ひとつ抜けてそうだけど、それを活かして隙なく立ち回る羽代と、割と何か一点に特化している人がいない。良く言えばバランスが良く、悪く言えばみんな器用貧乏。つまり、トガッた奴がいないのだ。この前の白間川みたいに見た目ではなく、中身。プレイスタイルの話である。

 そんな全体的に丸い晴風高校に彗星のごとく現れたトンガリボーイ、それが小夜川なのである!

 あ、後別枠として可能性無限大の青葉がいる。彼が第二のとんがりになる可能性はなきにしもあらず。今後に期待!


「んじゃ、大会中ずっとジメジメしてるわけにもいかないし、そろそろ小夜川連れてくる!南先輩とも話して、これからインハイ予選に向かっていくためにも、小夜川が楽しくバドミントン続けられるようにするためにも、俺らでできること考えようぜ」

「うん。ま、南先輩と幹人いるならどうにかなるでしょ!俺もできることはやるし」


 ひなたも、俺の横でコクコク頷く。割とどっしり構えている幹人と今は青葉の試合をベンチで見守る冷静な南先輩のおかげで、今日も晴風高校のバドミントン部は回っている。


ノーコン馬鹿力、小夜川でした。

少しでも面白いと思っていただけだら、評価していただけると今後の励みになります。


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