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心のシャッター常に閉店☆

 ラブオール、プレイ!


 てんやわんやだった俺たちがようやく多少の落ち着きを取り戻したかと思えば、次は青葉の初試合。ちゃんと見てやりたいという気持ちはあれど、いまだに先程起こった訳のわからない出来事を脳内で処理しきれていない。


 「青葉、いっぽーん!」


 コートに向かうまではちょっとふわふわしていた青葉だったけど、今は真剣そのもの。うん、案外大丈夫そう。

 サーブも、相手が天井の高さに慣れていないと踏んだのか、ロングサーブを打つみたい。

 初めて大きな会場で試合する人も多いだろうし、これはなかなかいいところに目をつけている。


 「涼……、試合もうすぐだと思うけど、動いておかなくて平気…?」

 「ん。もうちょっとしたら軽くストレッチとかやっとこうかな。ひなたは?」


 一回戦の最終試合だから大丈夫。と会場の熱気にかき消されそうな声が聞こえた。松下はシード。一回戦はない。となると、この後もしばらく小夜川の面倒見ることになるのは幹人かな?


 思い返すこと二十数分前。

 なんだかちょっと調子の悪そうな小夜川は、一ゲーム目から完全に押される展開にはならないものの、四捨五入してようやく拮抗と言える状態。何か一つでもきっかけがあれば、あっという間に押し切られてしまいそう。


 思えば、大会に出ることも消極的だった。

 本当に嫌なら何か言ってくるでしょ。まだ出会ったばかりの先輩に、あんまり根掘り葉掘り聞かれるのも嫌だろうし、同級生もいるんだから、本当に大変なら誰かしらに話すはず。と、とりあえずそっとしておいたけど、もっと気にかけておくべきだったかな?

 相手も三年生だし、まあ、負けちゃったとしても仕方ないんじゃない。そんなちょっと冷たいことを考えていたのは、ここだけの話。


そうそう、そんなことを考えていた矢先何があったか。晴風高校バドミントン部一同の度肝を抜かれる事態は、精彩を欠いていた小夜川が一ゲーム目を落とし、あと三点で二ゲーム目も落としてストレート負けしてしまうという時にやってきた。

 本当に、今でも見間違いかと思う。

 初戦の相手は、全くデータを取れていないから不安だ。始まる前からしきりにそう呟いていた通り、後手に回りっぱなしの試合展開。ああ、これはこのまま負けちゃうな。そう思っていたのに、突然まるで雷みたいな音が鳴り響いた。シャトルは……?対戦相手のコートのちょっと外に転がっている。


 「ア、アウト……?」


 線審が、あっけにとられたのか暫く固まった後、思い出したかのように慌てて動き出す。

 今のはなんだ?小夜川がスマッシュを打った瞬間、あの音がした。でも、小夜川のスマッシュであんな音がしたのなんて聞いたことがない。早さも出鱈目過ぎて、全く見えなかった。


 「へ……?い、今のは……?」

 「わかんね…。小夜川、スマッシュ打ったんだよな?」

 「ほんとに小夜川があんなの打ったの?幹人のスマッシュだってあんな音しないでしょ」


 小夜川はなぜか顔面蒼白で、しきりに腕を気にしていた。しかし、何が起きたかわからないのは俺たちだけではなく、相手も相当戸惑っていた。今はアウトだったけどもう一度あのトンデモスマッシュが来たら?それが頭をちらつくのか、明らかに小夜川の出方を窺うような動きになっている。

 守りに入った相手に対して、小夜川は何故か混乱している様子を見せながらも、どうにかペースを保ち、二ゲーム目を取り返す。三ゲーム目になると相手はそのまま焦りを見せ、スマッシュの幻影に怯えたままあっさり自滅。正直に言えば完全なるラッキー勝利だ。小夜川、あんなに凄いショット持ってるなら、バンバン使えばいいのに。

 試合が終わり、コーチと南先輩から一言二言アドバイスをもらうと、足早にコートから去って行った。


 「小夜川、様子がおかしいよね?どうする?見に行く?」

 「やっぱそう思うよな。よっし、羽代、青葉!一旦下へ探しに行くか。もし体調悪いわけじゃないんなら、俺が静かな場所へ連れてって様子見る」


 幹人を筆頭に階段を下りて下のフロアを探す中で、ちょうど俺が小夜川を見つけた。小さなロッカールームで、頭を抱えてしゃがみこんでいる。これ、俺が最初に話しかけていいの?せめて同級生とか、それか関わりの多い幹人の方が良い気がする。それとも、南先輩呼んでくる?さっきコーチも先輩も無視して逃げるように戻っていったから、きっと二人も小夜川を探しているはずだ。

 柄にもなくちょっと焦ってひとまず誰かを探しに行こうとしたのに、こういう時ってどうしてかいろんなタイミングがかみ合わないもんなんだよね。突然顔をあげた小夜川と、バッチリ目があっちゃった。


 「あ、あー……。お疲れ!」

 「………………はい」


 なんて声を掛けていいのか全くわからない。優しい南先輩や、ああ見えて気遣いができる幹人、言わずもがな穏やかで沈黙が苦にならないひなた、それから同級生として俺たちよりかは長い時間を過ごしているであろう羽代や青葉。

 それに対して今ここにいるのは、「心のシャッター常に閉店☆」の天野涼くんである。どういうことかって?俺は今までの十六年とちょっと、運動、勉強、その他諸々すべての事をほどほどに、もちろん人間関係もほどほどに、つかず離れず、特定の人と仲良くなるようなこともなく過ごしてきた。だって、転校してばっかだったから仲良くなったってすぐお別れで辛くなるだけだし、転校生でとびぬけて何かができたりすると良くも悪くも目立っちゃうじゃん?俺、ただでさえ世間的にも割と悪くない見た目をしているから。それで嫌な思いしたり、痛い目を見るうちに、だんだん誰に対しても本音で話したり向き合うようなことは無くなっていった。

 高校生になるタイミングでまたまた転校して、初めての場所で新生活が始まって、高校生のうちはここに居られそうだからちゃんと部活に入ることもできそうだな。せっかくなら、あいつ(・・・)をぎゃふんと言わせたい。そんなこと考えながら晴風高校バドミントン部の扉を開いた俺は、紆余曲折を経て、ひとりじゃなくてみんな(・・・)で何かをするのも悪くないって思うようになった。そうはいってもだ。表向きフレンドリーはお手の物とはいえ本当のフレンドリーは大の苦手な俺に、よくわからないけど落ち込んでいる後輩の相手は荷が重すぎるのである。


 気まずい沈黙がロッカールームを包む。十秒以上お互い何も言えずに見つめあう。何秒だったか見つめあうと恋に落ちるとかなんとか、クラスの女子が騒いでいたのをふと思い出した。だけど、今度そんなの大嘘だって教えてあげよ。だって今俺、どこでもいいから逃げ出したい。誰でもいいから俺かあいつをここから連れ出してほしいって思ってるから!


心のシャッター常に閉店☆

2年前からメモにあった言葉をようやく世に放つことができました!

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