変だ変だと言われても…
「いやー、惜しかった!相手の子ずっとバレーやってたみたいだし、あんな強烈なスマッシュ打ってくる相手によくあんな粘った!」
凪ちゃんは大健闘したものの、初戦で負けてしまった。朝戸先輩の試合が終わってすぐ駆けつけた先生の言う通り、あんな初めて二ヶ月とは思えないスマッシュを相手によく試合が成立したと思う。
「本当に、お疲れ様……」
一番側にいて、でも何もできなかった自分が情けなくて、何もかける言葉が無い。もっとこう動いた方が良いとか、あのショットを中心に攻めた方が良いだとか、技術面で言えることはあった。でも、言ったら混乱させちゃうんじゃないか?とか、集中できなくなるんじゃないか?とかごちゃごちゃ考えちゃって、結局気づけば試合が終わっていた。「凪ちゃんが楽しんでくれればそれでいい」なんて、偉そうなこと言ったのに。それでもいざ頑張っている姿を見ると、やっぱりせっかくなら勝ってほしいって思っちゃって、でも技術はともかくにあたし彼女の心を支える術はなくて、せっかくサポートとしてついてきたのに、特に何もできなかった。
「負けちゃったけど、楽しかった」
「え……?」
ポツリと、凪ちゃんが呟く。
「小田、毎日部活終わった後ノート書いてたもんな。苦手だって書いてたレシーブ今日はあんなに強いスマッシュ相手にちゃんとできてた」
「そうなんです!最初は、あのスマッシュを見てだめかもしれないって思っちゃったんですけど、練習でやった通りにしたらちゃんと通用して、凄く嬉しかった!次はあれをしてみよう、これを試してみよう、ってやっていくのワクワクして、実嶺ちゃんも私が聞かない限りは何も言わずに見守ってくれたから、思いっきり自分のやりたいことができたんです!今になると、もっとああしていればとかもいっぱい浮かぶんですけど……。あー!あそことかヘアピン打てたな!」
凪ちゃん、よく先生のところに行ってたのは、ノートを出してたからだったんだ。
「先生も小田のノート凄く勉強になってるから、これからも気軽に出しに来て」
あたし、居るだけでも少しは意味があったのかな?そう思っていいのかな?
辻先生と凪ちゃんのやり取りを見つつ、やっぱり何も言えなかった。
「あ、小鈴と小田は見てなかっただろうけど、朝戸は一回戦突破した!小田の後は今の進行状況だと他の試合までちょっと間が空くだろうから、席に戻るか男子の試合でも見つつ休んでな。ほんとに二人ともお疲れ様ね」
そっか。先輩、勝ったんだ。
朝戸先輩みたいに勝つ人がいれば、凪ちゃんみたいに負けてしまう人もいる。当たり前の事だけど、勝って喜ぶ人がいる裏では、誰かが悔しくて泣いている。凪ちゃんが「悔しい」って言いながらも、次に向けて凄く前向きでいてくれたことに、むしろあたしが救われている。
「実嶺ちゃん、ついててくれて本当にありがとね。試合、あっという間だったから、次はもっと長くコートに居られるようにしたいな。私、もっと練習頑張るね」
「うん。みんなで頑張ろう」
元々自分でも口数が多い方ではないのはわかってる。でも、こんな時、青葉みたいに明るい性格だったら、励ましたりできたのかな。まあないものをねだっても仕方がない。
「わっ!あ、小鈴さんいたっ!ちょっとどうしよう!あのっえーと……そう、小夜川君!小夜川君が変なんだ!」
観客席へと続く階段を上り切ったまさにその時、頭に思い浮かべていた顔が目の前に飛び出してきた。
――晴風高校青葉陸さん、第二会場第一コートに入ってください
「青葉、試合コールされてる。小夜川の事はまた後で聞くから、準備して試合行きな。女子の方次の試合まで時間空くから、皆で応援行く」
「へっ?!ほんと?やばい、南先輩待っててくれてるかも!ごめん!また後で!」
あの慌てよう、小夜川に一体何があったのかな?
「青葉君、凄いドタバタしてたけど大丈夫かな……?」
「わからない。とりあえず、一度席に戻ってから応援行こうか。そっちにいる羽代とかに何があったか聞けるだろうし」
変とはいったいどういう事なのか?男子の方は、初戦で入るのは小夜川だけだったはず。次に入るはずの青葉が今コールされているってことは、男子は皆小夜川の応援に行ってたはず。体調が悪かったり、怪我をしたりしたのならまず南先輩が気づくだろうし、青葉だって「変」なんてよくわからない表現をしないんじゃないかな?コンディションの問題じゃなかったとしても、近くに先輩がいるであろう状況で、どうして青葉は駆けまわってたんだろう?
無事に他の皆と合流して、朝戸先輩におめでとうを伝えて、凪ちゃんが他の一年生に囲まれて健闘を称えられているのを見て、それから先に青葉の応援に行くことをほたる先輩に伝えてから第二会場へと急いだ。途中、男子の席を通ったら、顧問の長山先生(松下先輩や天野先輩からは「ながやん」と呼ばれていたりする)だけがいた。曰く、今日はコーチも来ていて、マネージャーで経験者の南先輩もいるから、自分が率先して荷物番をしているとのこと。じゃあ、小夜川も含めて皆青葉のところに居るはず。
あんな様子の青葉を見ると小夜川の事はもちろん気になるし、さらに青葉がきちんと試合に集中できるのかも不安だ。せっかく毎日あんなに頑張って練習していて、さらにはあたしもあんなに自主練にまで付き合ったんだから、半端なバドミントンをしてもらっては困るのだ。
青葉は第一コートって呼ばれてたっけ。じゃあ、そこが見下ろせるあたりに……いた!
重い扉を開けて、たどり着いた第二会場。十二コートある第一会場と比べて、コートの数は半分になるここは全体的にコンパクトな作りで座席もないから、男子バドミントン部の面々はすぐに見つかった。
一番手前にいた羽代に声を掛けようとすると、タイミングよく振り向いた彼と目が合った。
「あ!小鈴さん!あのさ、実は……小夜川君の様子がおかしいんだ!」
本日二度目、小夜川が変だと宣言された。私に言われてもどうしようもない気がするが、ここまで口をそろえて言われると、いよいよ気になってくる。
「あの、怪我とか体調不良では絶対ないんだけどさ、何が変かって言うと口では表現しずらくて……。とにかく様子がおかしいとしか言えないんだ」
曰く、今は松下先輩と共に下で休んでいるという件の小夜川の一回戦で事件が起きたらしい。そこまで聞いたところで、青葉の試合が始まってしまった。変だ変だと言うだけ言って、肝心の内容は追々ということになった。同級生でチームメイトの二人が変だ変だとそろいもそろって言うような状態じゃ、私に言われたところで何の解決もしないとは思うけど、ここまで来たらいい加減早く何が起きたか教えてほしい。
「あ!小鈴ちゃん応援来てくれたんだ!今小夜川が変になっちゃってうち一番の大声の持ち主が面倒みるために離脱してて戦力不足だったから、是非声出してって!」
「はい、女子の方は一回落ち着いたので、皆すぐ応援に来ます。ありがたいことに荷物は保護者の方が見てくださっているので」
だからそこまでは聞きました!天野先輩に噛みつきたい気持ちをぐっと抑える。男子バドミントン部の本日のあいさつは「小夜川が変」なのか?そう思ってしまうほど開口一番そのワードが飛び出してくる。ふと最後の良心である花光先輩を見ると、どこか遠い目をしていた。先輩も、苦労しているのかもしれない。
「お!女子の方も応援来てくれてるんだ!青葉から聞いてるかもだけど、ちょっと今小夜川変なんだよ」
「それは何度も聞きました!」
思わず飛び出てしまった言葉を全く聞かず、とりあえず下の自販機のとこで休ませてるけど、どうにか二回戦は出られそう!一旦一人で落ち着きたいって言うから、置いてきた!なんて報告会が始まる。花光先輩は、こちらを見ると諦めろとでも言いたげにうなずいた。
思わず私もうなずき返す。ほぼ言葉を交わしたことは無いのに、なんだか仲良くなれた気がした。




