開幕!春風杯!
それでは、三分間の練習を開始します。一コート六人まで。計五回転行いますので、順番に並んでください。円滑に試合に移るために練習を終えた人から席に戻ってください
開会式も無事に終わった。このアナウンスを聞くと、ついにはじまるなって思う。
春風杯は、インターハイや春総体みたいな公式の大会ではない。スポーツショップとか県内の企業とかが主催だって聞いた気がする。
同級生は四人が四人とも明らかに緊張しているから、ちょっと心配。男子バド部は会場に入った後人が多すぎて見失った。青葉、昨日はちゃんと寝られたかな?
そして、今私の隣にいる朝戸先輩。唯一いつも通りな様子の彼女のヒッティングパートナー(練習相手)を務めるために、私は今練習の順番待ち。コートのあるフロアにいる。副部長は、先生との打ち合わせ兼荷物番だ。
「次のローテで練習入れそうですけど、なにからやりますか?」
「そうだな。それじゃあ、クリアからやっていい?天井の高さに慣れときたい。大丈夫そうだったら、その後スマッシュとドロップ。余裕があったらドライブとヘアピンできたらいいな」
「わかりました。先輩のタイミングで変えいただければ合わせます」
ありがと、と笑う先輩。比較的集合場所の駅から近い今日の会場は、天井から雨漏りしているわが校の体育館とは違ってできたばかりのピッカピカだ。さらに、クリアやロブを少し高く上げると天井に当たっちゃうわが校の体育館とも違い、天井はものすごく高い。どんなに高くシャトルを打ちあげたって、ぶつかる事なんて100%ありえない。
大きな会場で試合経験のある羽代や小夜川、朝戸先輩はともかく、朝一からの移動に、慣れない環境での初試合と、初めて尽くし四人+青葉のデビュー戦組がちょっと心配だ。
朝戸先輩は最初こそちょっと動きにくそうにしていたものの、すぐにいつも通りのペースになった。四人は隣のコートに並んでいて、多分私たちの次に練習だ。終わった人は捌けなくちゃいけないから、近くには居られない。だけど、できる限りスムーズに撤収してちょっとでも様子を見たい。
うちみたいに、春の大会で関東まで駒を進めた学校はほぼ出てこない。関東大会や夏のインターハイも間近に迫った中で手の内を晒したり、けがをするリスクを高めたりする必要はないからだ。それでも、上級者部門に出る朝戸先輩は初戦から少し厳しい戦いになりそう。何故って、出てくる人には小学校や中学校からバドミントンをしている選手も少なくない。それどころか、関東にこそ進めなかったものの限りなくそこに近い実力を持つ選手はいるわけで、今日の大会に出てる人の中にだってそういう人がいる。だから、一戦だって気を抜くことはできないのだ。
そして、ビギナー部門に出る五人。ここに関しては、昨日青葉も言っていた通り全員始めてから二カ月も経たないくらいの初心者だから、誰が強いとかは全く分からない。ただ、強豪と言われるような学校から出ている人であれば、高校からだとしてもビシバシ鍛えられて強いのかもしれないけれど……。結局そんなの試合が始まってみなきゃわからない。
自分の試合なら、何が起ころうと自分で何とかするしかないし、負けたって自己責任。そう思っているからか、緊張したことなんて今までほとんどなかった。でも、間近で頑張っているところを見てきた仲間たちの試合を見守るとなると、不思議と緊張してしまう。どうかみんなの頑張りが報われてほしいと思うし、初めての試合を思いっきり楽しんでほしい。
そんな祈りを込めながら、私の本日最初で最後のコートでの出番は終わった。
「ありがとね。割と今日、いい感じかも」
「朝戸先輩は、初戦すぐでしたよね?」
「うん。第二試合だったから、練習終わったらすぐコールされると思う」
ビギナー部門と上級者部門という二つの部門があり、県内だけでなく県外からの参加も少なからずいる。つまり、凄く大規模な大会なのだ。多分参加者全員合わせたら、五百人近くにはなるんじゃないかな。もしかすると、もっとかもしれない。メイン会場とサブ会場、合わせて十八コート。そこで丸一日試合が行われる。どちらの部門でも、頂点を目指すとなれば厳しい連戦を勝ち抜かなければならない。
「じゃあ、ユニフォームに着替えてきちゃうね。コール始まったらそのままコート行っちゃうから」
「はい。私は皆の様子見ながら、副部長や先生のところ戻ってますね」
初戦が早めにあるのは、かなり運がいいと思う。練習でつかんだ感覚を忘れないうちに試合ができるのはかなりのアドバンテージ。まあ、それは初戦で当たる相手も同じことなんだけど。組み合わせを見た感じだと、最初からコートに入ることになるのは朝戸先輩と、男子の方の小夜川だった。他はというと松下先輩はシードだったし、天野先輩や羽代も悪くない位置にいた。ひとまずは、練習を終えた四人と一緒に朝戸先輩の応援かな?ベンチには副部長と先生が入るだろうし。小夜川の方はコーチがつくみたいだから、きっと大丈夫。
ただ、朝戸先輩が初戦で当たるのは確か中学からの経験者。私も大会で名前を見かけるくらいで直接対戦したことがないから何とも言えないところだけれど、楽な戦いにならないことは確かだ。
「おっ!お帰り小鈴!先生運営の方に顔出してそのまま朝戸の初戦のベンチ行くから。初戦以降は進みが読めないし、必ず小鈴か先生か、副部長の誰かしら気づいた人がベンチについてあげよう。渡した関係者証はもう首にかけときなね。あ!あと一年生は調子どう?」
「そうですね……。みんな明らかに緊張してます。軽井さんはシードに入ってるからどうしても公式練習から本番まで時間が空いてしまうし、軽く動いておくよう言っておきますね。他三人は割と早い段階で初戦始まると思うので、朝戸先輩の試合応援しながら実際の試合がどんな感じか見てもらえたらといいかと」
「そっかー。まあ、そりゃあ緊張するよね……。今日小鈴が来てくれてほんと良かった。先生もまだバドミントンわからないことばっかりだから、頼りにしてるね」
それじゃ、また後で。と駆け足で去っていくせわしない先生を見送ってすぐに、練習終了のアナウンスが響く。それからすこし間があいて、遂に試合のコールが始まった。先生――辻先生は、まだこの学校に来て二年目だそうで、バドミントン部の顧問は今年から。わからない事は私たち生徒にも躊躇なく聞いてくれるのが、凄いと思う。
上級者部門、第二試合。晴風高校 朝戸明日香さん、渋山高校 港リサさん、第五コートに入ってください。
来た。朝戸先輩は第五コートか。いよいよ始まる。勝ち抜いて長い一日になるのか、はたまた負けてしまってあっという間の一日になるのか、それは今の時点では誰にもわからない。
ラブオールプレー!
どこかのコートでは、既に始まりの言葉が響いていた。
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次回は、7月16日(日)18時に投稿予定です。




