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初陣前日

「あー!明日が本番なんて本当に信じられない!トーナメント表見たって結局みんな始めたてだから誰が強いかなんてぜんっぜんわからないし……。う゛ー!何かしてないと落ち着かない!ね、小鈴さん。十五点でいいから、もう一試合だけ付き合ってくれない?」

「いいけど……。明日があるから今日の練習早めに切り上げてるんでしょ?これ終わったら帰りなね」


 男子の方は、しばらく仕事と体調不良でお休みしていたコーチが復活したらしく、今まで以上に練習漬けの日々みたい。

 そんな状況でもめげずに食らいついている青葉は素直にすごいと思う。


「ね、女子の方も何人か春風杯出るんでしょ?」

「そう。高校から始めた一年生四人と、二年生でも一人高校から始めた先輩いるから合計5人出るよ」

「お!じゃあ小鈴さんたちは来ないんかー」

「んーん。あたしと副部長は引率的な感じで行くよ。他はここで練習」


 そう。主力である部長と志野花ちゃんを中心とした団体戦メンバーは、来たる春の関東大会に向けて練習だ。あたしと副部長もメンバーに入ってはいる。だけど、副部長は初めて大会に出る1年生のメンタル面でのサポートを、そして練習に付き合うことも多かったあたしがそのお手伝いをするためについていくことになった。


「へー!二年生の先輩にも、高校からの人がいるんだ!たまに隣で練習見ててもみんな上手だから全然わからなかった。どの人? 」

「すごい綺麗な黒髪で、よく緑のラケット使ってる先輩わかる?」

「あー!あの先輩か!」

「そう。その朝戸(あさと)明日香先輩。中学までは陸上やってたみたいで、基礎練を誰よりもしっかりやってて、体力もあって、試合後半でも足を前に出せるすごい人だよ」

「一年頑張れば、僕もあんなふうにできるようになるのかな?」


 高校からバドミントンを始めた二年生の朝戸(あさと)先輩。この四月に唯一団体戦メンバーから外れた人だ。


 春の大会は申込まで時間がなくて、一年生を含めてランキング戦なんてとてもできなかった。そうなれば、志野花ちゃんみたいに有名ならまだしも、あたしのように経験者ではあるものの無名な選手を無理してメンバーに入れるようなことはしないはずだ。


 それなのに、一体どうして?


 メンバーが発表されたときは、一体何が起きたのか分からなかった。後から聞いた話だけど、先輩本人が、自分ではなくてあたしを団体戦メンバーにしてほしいと部長に直談判していたらしい。

 

 「今の自分の実力では、今まで通り団体戦のメンバーになったとしても悔しいけど戦力になれないよ。全国はもちろん、県内だって勝ち進めば通用しなくなって、どうしたって他のみんなに出てもらわないととても勝てないから。それじゃあエースに体力温存してもらうこともできない。でも、私はこのチームで全国に行きたい。それなら、実嶺ちゃんに出てもらって少しでも勝てる可能性を上げたいの」


 練習終わりにそう言った先輩はもう覚悟を決めた顔をしていて、何も言えなかった。託されたからには、もう全力で全うするしかないのだ。

 一応試合の練習中にもかかわらずそんなことを思い返していると、思ったよりも良いスマッシュが飛んできてびっくりした。


「う゛ー!さっきから小鈴さん一歩も動いてない!どうして僕の打つ球ほとんど真ん中に飛んでくの!?」

「そうなるように返球してるから」

「えー!」


 そうは言っても、こんなふうに軽く会話しながら前後左右に振っても返球ができている時点で一ヶ月前から見たらすごい成長を遂げている。まあ、本人は気づいていないみたいだけど。


「はい、これで十五点。もう帰って今日は早めに寝なよ」

「あー!結局振り回されて終わっちゃった!悔しい!」


 プッシュ、と見せかけて優しくネット前に落とすと、青葉は綺麗に引っかかってくれた。でも、この調子ならこんなフェイントに引っ掛からなくなる日も、あたしが負けてしまう日も、そう遠くないような気がする。


「それじゃしつこいようだけど本当に今日はちゃんと休んでね。青葉、楽しみすぎか緊張のしすぎで眠れなかったとかありえそうで心配」

「うっ……。おっしゃる通り正直楽しみだけど緊張するしで、落ち着かないから帰ってからランニングでもしようと思ってた。でも、そうだよね。コンディション整えるために眠れないとしてもせめて早めに布団に入って目を閉じるよ」

「だといいけど……」


 青葉、遠足前の小学生と全くおんなじだ。まあ、気持ちはわからなくもない。私も同級生の初試合と、かっこいい先輩の戦いをしっかりと見届けないと。

 せっせと片付けを始めようとする青葉に、午後も練習するからそのままでいいと伝えると不思議そうな顔をする。


「明日出る人は午前中で終わり。出ない人は午後も練習」

「えっ!?じゃあ小鈴さん練習付き合ってもらっててよかったん?午後も出るんでしょ?」


 事実を告げると、すごく申し訳なさそうな顔をされた。別に、私と副部長は明日早いから午後練も途中で抜ける予定だったし、どのみち体力には余裕があった。だから、休憩時間に青葉の練習相手をしたくらいで午後動けなくなるようなことはない。多分。


「あたしも午後は早めに帰るから、その分練習したと思えば全然。気にしないで」

「ほんっとにありがとう!このご恩はいつか必ず返すから!」


 大袈裟な感謝をしながら帰り支度をする青葉。明日は案外良い線いくんじゃないかな?と思ったけど、それを本人に伝えるとまた変に力が入っちゃいそうだからやめておこう。

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