小鈴実嶺の考え事
クールな小鈴さんの頭の中。
「それでさぁ、ようやくサーブがちゃんとコートに入るようにはなってきたんだけど、やっぱりいざ試合練習とかになると、サーブの後のラリーで全然教えてもらったショットが打てなくて……」
「あ〜!サーブ入れるだけでも最初は神経使うし、毎日少しずつ意識して使えるショットを増やしていくしかないかもしれないね」
「あ!これスマッシュ打てる!とか思っても、判断が遅いせいか当たりどころ悪くて、アウトになったり浮いた球打っちゃったりで酷いんだよね……。みんなに試合練習してもらってもこっちが動かされるばっかりで、この前なんか松下先輩を一歩も動かせずに一セットとられたよー!」
この前の練習試合からなんとなく顔を合わせば話すようになった青葉と、チームメイトで同級生の雪渡志野花ちゃんとの会話を聞きつつ、練習終わりの牛乳をひと口。うん、やっぱりこれに限る。
あたし小鈴実嶺は実のところバドミントンを選手として続ける気はなく、マネージャーとして関わりたいと思っていた。だけど、晴風高校の女子バドミントン部は男子ほどではないものの人数が少ない。
三年生二人、二年生が四人。それから一年生が六人。先輩方はほとんど経験者だけど、一年生はあたしと志野花ちゃん以外高校から。
団体戦出場ギリギリ人数の男バドと比べれば多少人員に余裕はあるものの、できることなら動ける人は多いに越したことはない。だから、あたしは誰に頼まれたわけではないけれど、選手として入部した。
先輩方は個性豊かで楽しいし、中学の頃から県内でも有名だった志野花ちゃんがまさか同じ高校に来るとは思わなかった。このチームは面白くなる。
それを、もう少しだけコートの中で見てみたいと思った。決して嫌々選手をしているわけではないのだけれど、マネージャー志望だったことを言えばきっとみんな気を使うだろうから、今の所言う気はない。
このこの学校に同じ中学から来た人はほとんどいないから、あたしがバドミントンを辞めようとしていたことを知っている人は多分いない。だから、変に気を遣われないこの感じが案外心地よいかもな、と最近は思う。
「ねーねー!小鈴さんは、初めて大会に出た時のこと覚えてる?」
「……あたし?そうだね…………。前にも言った気がするけど私始めたのは小六で周りの子たちより遅かったから、ボロ負けしたな。ひたすら相手にスマッシュ打たれてるだけで試合が終わっちゃった」
青葉に突然話を振られて、現実に引き戻される。私がぼんやりしている間に二人の話題は「初めての大会」になっていたみたい。
「あー!確かに、小学生の頃って習ってる年数よりも学年で分けられる大会多いもんね……。私も、最初の大会は私より長く習ってる子相手で完膚なきまでにやられたな……」
志野花ちゃんも、懐かしそうに笑う。それから、あれはずっと忘れられないな、なんて呟きも聞こえた。
3-15 0-15
これが、デビュー戦の結果。あたしも多分、一生忘れられない。一ゲーム目はともかく、二ゲーム目は本当に一点も取れないまま負けた。
より長い期間やっている方が必ず勝つ、というわけではないのはわかっている。でも一方で、一、二年の差が勝敗に関わってくることは少なからずあることも同時に知っている。
だから高校から始めた青葉が、他の面子と一緒に全国を目指そうとすることがどれだけしんどいことかなんて想像もつかない。仮に勝ち進んでいっても、出番なんてほぼないに決まってる。茨の道を進む彼はきっと、いつか途方もないくらい高い壁にぶつかるはずだ。
そんな時にちょっとでも、同じ思いをしたことのある自分が手助けできたらいいな。なんて思ってしまう。青葉のことだけじゃなくて、志野花ちゃんや小夜川くん、先輩方のことがつい色々と気になってしまう。
バドミントンは大好き。せっかくもう少しだけ続けようと決意したからには、全力で頑張りたい。それでもやっぱりあたしは何かの渦中にいるよりも、一歩引いたところから見る方が性に合っているんだと改めて感じて、なんとも複雑な気持ちになった。
「あと半月もせずに大会本番なんて想像つかないよ……。そういえば、女子は春の大会出たんだっけ?」
「そう。個人戦は三年生の先輩方と志野花ちゃんが入賞したし、団体戦は三位滑り込みで関東大会が決まったよ」
「四枠だったからどうにかなったけど、夏のインターハイ予選で本戦に進めるのは優勝した学校だけだから……。より一層気を引き締めないとだね」
「えっ?!そっか……わかってはいたけど本当に狭き門なんだね」
そう。志野花ちゃんの言う通り、このままではインターハイに進むことは叶わない。時間は限られている。勝てる可能性を少しでも上げるために有効に使わなければ。
「男子も、人数少ないとできる練習限られちゃうでしょ。うちの部長も必要な時はお互い声かけあって一緒に練習しようって言ってたから、青葉も練習終わりとか自主練の相手必要ならあたしたちに声かけてくれれば協力するよ」
「え!?僕に付き合ってもらってたら二人は全然練習にならないんじゃ……?」
「全然そんなことないよ!基礎に立ち返ると自分たちの復習にもなるから。現に私たち高校から始めた子たちの練習手伝ってるし、週二日くらい練習終わりにやってるから、良ければそこに参加してみたらどうかな?」
「それなら是非!!お邪魔にならない程度に参加させてもらうね」
言わずもがな志野花ちゃんは凄く上手いのに、それに驕ることなく誰にだって丁寧に接する。本当に尊敬すべきチームメイト。それに、つい言葉が直球になりがちなにあたしとっては、誰かに何かを教えるうえでは見習うべきところばかりの良いパートナーだと思う。でも志野花ちゃんは、「少し見ただけで直した方が良いところとか、得意な事とか苦手な事とかわかっちゃうのが凄い!」なんていつも言ってくれる。そのたびあたしは、嬉しいような恥ずかしいような、何とも言えない気持ちになってしまうんだよな。
それはさておき、青葉に近況を聞けば聞くほど、男子バドミントン部は気になることがいっぱいだ。今の優先順位第一位は勿論間近に迫った大会を全力で勝ち抜くことだけど、機会があればもっときちんと彼らの試合を見てみたいな。
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