愉快な白間川学園
そんなこんなでとりあえず、めでたく部室を守ることができた僕たち。その後も無事に団体戦を五試合目まで戦い抜いたが、正直僕はヘロヘロだった。しかし、先輩方や小夜川君はピンピンしているのを見てしまい、なんだか複雑な気分である。
そして現在、長いようで短かった練習試合も終わりを迎え、最後のあいさつのために整列して白間川と向かい合っている。
「今日はありがとうございました!」
「こちらこそ、呼んでいただいてありがとうございました。今回は団体戦も、その後の試合も負け越しちゃいましたけど、またリベンジさせて下さい!こいつらもすげえ悔しがってるんで」
朝と同じように、ガッチリと握手を交わす松下先輩と宮郷さん。しかし、非常に引っかかる言葉があった。宮郷さん、今確かに「こいつらも」と言ったよな?でも目の前にずらりと並ぶ白間川のみなさんは、どう見ても仏頂面。喜怒哀楽が全く表情から感じ取れない。「宮郷さんが」悔しいならまだわかるけれど…。というか今日、宮郷さん以外の白間川生の声、まともに聞いてないぞ!
「ねぇ……、白間川の人達噂と違って叫ばないし暴れないし、それどころかおとなしすぎて何考えてるのかわからなくない?」
「ね!僕も上から見てて、すごくスムーズに試合が進むから、相手があの白間川だってことすっかり忘れてたもん!」
会話が弾む主将たちを横目に隣の青葉君に問いかけると、やっぱり同じことを思っていた。白間川学園、噂と今日の様子とのギャップがありすぎてわけがわからない。そしてそれを束ねるのが唯一黒髪短髪アクセサリーも一切ナシな、むしろ晴風に居そうな宮郷さん。全くもってわけがわからない。
「うっうっ…」
僕と青葉君が首をかしげていると、どこからともなくうめき声が聞こえてくる。
「ねぇ、なにか聞こえない?唸ってるみたいな声」
「へっ?何も聞こえないけど…。何か外に動物でもいるとか?」
周りの会話にかき消されて小さくしか聞こえないからか、青葉君は不思議そうな顔だ。でもそんなこと話しているうちにも、声が少しずつ大きくなっていく。。
「うう……、う゛う゛―!」
「ほら!めっちゃ唸ってるじゃん!」
「え~?何も聞こえないけどなぁ……?羽代くん疲れてるみたいだから、空耳じゃないん?」
何故かタイミングよく主将同士の会話も盛り上がりを見せ、良い感じに聞こえにくいせいか、青葉君はまたもわけがわからないといった様子だ。
ハッ!もしや僕だけに聞こえる声?!突然霊感に目覚めたのか?!
いくら訴えても気づいてもらえず、いよいよ僕の思考がおかしな方向に進み始めている気がしてきたちょうどその時、
「う、う、うわーん!」
体育館に、ちびっ子みたいな泣き声が響き渡った。ただし、かわいらしい高い声ではなく、地の底から響くような低音ボイスだ。
声の出どころは……宮郷さんの隣にいるスキンヘッドの人だ?!
「お、おい今村?!今日は大人しくしてろって言ったろ!どうした?」
「だっで、だっでぇ~、俺、俺、なにもでぎながっだし、口開くと言葉悪ぃのはわかっでるがら、応援だっでまどもにでぎながった。アニキの役に立でながっだ!!」
スキンヘッドの人改め今村さんは、驚く宮郷さんに今にも抱き着きそうな勢いだ。
「チクショー!オレももっと練習するッス!」
「自分も、今日帰ったら自主練付き合ってもらってもいーですか?宮郷センパイ!」
「うおー、俺ももっとうまくなりてー!」
それに続いて、それぞれ涙目な白間川の面々がぞろぞろと宮郷さんを取り囲む。
「お、お前ら……。う、うおー!そこまで真剣にバドミントンに向き合うようになったんだな!」
おいおい……宮郷さんまで雄たけびを上げて泣き出したぞ……。これはいよいよ収拾がつかない気がする。白間川だけの世界が広がり、我々晴風高校はすっかり取り残されている。
どうしていいかわからない。松下先輩は笑顔のまま固まっているし、南先輩は遠い目をしているし、花光先輩はいつかと同じように窓の外にいる小鳥さんに目を向けている。天野先輩は突然目の前で繰り広げられる青春ヤンキードラマがツボに入ってしまったようでプルプル震えているし、青葉君は見間違いだと思いたいのか、何度も目をこすっている。小夜川君はしきりに眼鏡をカチャカチャしたかと思えば、どこからかノートを取り出していた。
結局突然の展開に取り残されること約五分。パン!と手を叩く音を合図に、白間川の面々がぐるりとこちらを向いた。そして、赤髪の人が、ビシっとこちらを指差す。
「晴風高校!次は負けねーからな!」
「ビビるくらい強くなって震え上がらせてやるから、首洗って待ってろ!」
「それじゃ、お前ら最後のあいさつだけはしっかりやるぞ!今日は本当にありがとうございました!」
『ありがとうございましたー!』
赤髪の人に続いてみんなして泣き顔のチーム白間川から一方的に宣言されたかと思えば、宮郷さんの号令で勝手にいい感じでまとまっている
「今日の悔しさは一生わすれねぇからなー!」
「覚えとけヨー!」
ここまでくるともはやコミカルな捨て台詞を残して、白間川学園は嵐のように去って行った。
「……一体、白間川学園って何だったんですかね?」
「さあ……?なんか噂よりおもしろ……じゃなくて真剣にバドミントンしてる感じではあったね……?」 「まったく参考になるデータは取れませんでした」
僕の疑問に天野先輩は答えにならない答えを返してくれた。小夜川君は、こんな時まで徹底してデータを気にしている。流石だ。
「あっ!誰かラケット忘れてるじゃん!俺追いかけてくるから、もう部室で帰る準備しな!先生も各自撤収で良いって言ってたから!とりあえず、今日は本当にお疲れ!じゃあまた!」
白間川学園の忘れ物に気づいた松下先輩が半日試合をした後とは思えない素早い動きで出口に走って行くのを見送り、初めての練習試合は幕を閉じた。ただし、宮郷さんを筆頭に、白間川の謎は解けないままである。まあ、部室は守ることができたし、課題は山積みだけどひとまず全国目指して幸先の良いスタートが切れたんじゃないか?
これにて、部室防衛練習試合(VS白間川学園)編完結です!
投稿も不定期な中、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたのなら、それ以上の幸せはありません。
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