決着!部室防衛戦!
スマッシュを良い形で打たせないために、僕がまず小夜川くんにお願いしたこと。それは、できる限り後衛に回ってほしいことと、ドライブ気味の軌道で返球を心掛けてほしいことの二つである。
相手は二人とも、わりと身長が高い。だから、僕も小夜川君も徹底的にドライブ気味の低い球をできる限り相手のボディ周りに集めて、大きく上から叩きつけるスマッシュを打ちようがない状況を作る。
本当に幸いだったのは、小夜川君があまり緊張したり動きが固くなるタイプではなかったこと。僕も、今回は久しぶり過ぎて少しエンジンがかかるのが遅れたものの、本番の方が動けるタイプ。だから、僕らは案外、突然の作戦変更にも対応がしやすいペアなのだ。
「落ち着いて、一本止めよう!」
多分、スキンヘッドの人はサーブもレシーブも、直線的な軌道のショットで来ることが多かったように思う。反対に高く打ち上げるショットは、あまり使ってこない。その事から考えるに、後がないこの状況、得意であろうドライブ気味のサーブを打ってくる可能性が高い!
パン!
ほら!やっぱり!
すかさず一歩踏み出してドライブを返すと、予想外だったのか相手は二人とも反応が遅れた。辛うじて両耳がピアスだらけの人がラケットに当てたものの、シャトルはコートの外へと飛んでいく。
サービスオーバー、19―12
よっし!綺麗に決まった!まあ「読み」とはいっても、僕はあくまで頭の片隅で「その可能性」があると意識しておく程度に留めている。最初からそれ一点狙いなのがばれていたら相手だって警戒してしまうし、相手のラケットからシャトルが離れるその時までは、「絶対」なんてない。万が一にも予想していない球が来た時にこっちがピンチになってしまうのは避けないといけない。だから、可能性を探して、少しでも早く動き出せるようにする。僕の「読み」はあくまでその程度なのだ。
「羽代!ナイス!!」
「もう一本取ろう!小夜川君!」
点を取り返し、次は小夜川君がサーバーだ。さっきまでは点を取っても取られても長いラリーが多かった。それだけに、いまの一点は相手に対してかなりダメージが大きいはず。ここで一気にたたみかけるぞ!
「一本!」」
目を合わせなくても、自然と声が揃うこの感覚が心地良い。一瞬の静寂の後小夜川君が放ったサーブに、僕は思わず口角が上がってしまった。何故なら、小夜川君の手から離れたシャトルは、相手の得意なドライブ気味の軌道を描いたのだ。流石、小夜川君も最高に良い性格してる。
相手も明らかに嫌そうだ。さっき僕のドライブであっさり点を取られたばかりだから、そりゃそうか。ピアスの人が、負けじとドライブで返してくるけれど、軌道が甘くネットからすこし浮いている。それは見逃せない!
ネットの前に詰めて、プッシュで押し込む。コートの中ほどに返ってきたのは中途半端に浮いた球。そこまで角度をつけられていないから、取られるのは想定済み。でも、体勢を崩しているわけでもないのに、あからさまに上から叩いてくださいと言わんばかりの返球だ。こちらに強打がないのはわかっているから、相手にとって返しやすいスマッシュを打ってほしいのかな?そこから立て直して、また直線的な軌道とパワーで押し込みたいんでしょ?
だけど残念!僕らスマッシュは打ちません!
「任せた!」
後ろに抜けた球を、後衛の小夜川くんがコートの右端をドライブで刺す。すかさず追いついたスキンヘッドの人が、コートの奥に高く上げた。あと二点で負けてしまうこの状況では、やっぱりさっきよりも強引に攻めてこない。小夜川くんがドロップで手前に落とす。前に出てきたスキンヘッドの人が、ロブで再び高く打ち上げる。
小夜川くんが相手の期待通りスマッシュを打つことはもちろん無く、今度は※ドリブンクリアで返すと、しびれを切らしたのか、追いついたピアスの人が苦し紛れのスマッシュを打ってくる。でも残念。そんなに肘が曲がっていたら、ほとんど角度がつかないよ。
ネット前に持ち込んでも小回りの利く僕がいる。こっちが全然相手の欲しいショットを打たない。そしてさっきまでと違いスマッシュも気持ちよく打てない。相手は相当フラストレーションが溜まっているはず。
ちょうど目線の高さ位に飛んできた球を、今度は僕がドライブで返す。狙うはスキンヘッドの人の左手方向。うん、やっぱり、二人とも体回りのラケットワークはそこまで得意ではなさそう。取られはしたけれど、打ち返したというよりも、当たっただけ。シャトルはネット前に高く打ちあがる。
「羽代!行けっ!」
背後からの声と同時に、僕は飛んだ。
できる限り角度をつけて、振り下ろす。シャトルはそのまま、スキンヘッドの人の足元に吸い込まれて、二回ほどバウンドした。
「ナイスショット!」
今日一番、青葉君の声が良く響いた。
20マッチポイント12
これで、残すはあと1点だ。ジャンプスマッシュ、やっぱり松下先輩みたいにかっこよくは行かないな。かっこつけたけど、前にちょっと飛んだだけ。あんなに高くは飛べない。
「羽代ナイスショット!ラスト、このままいこう」
「うん。僕らで試合を決めよう!」
松下先輩や天野先輩、それから南先輩とちょっとだけど花光先輩の声もする。
皆が繋いでくれた。後は出し切るだけだ。さあ、一本!
ふわり、と小夜川君の手からシャトルが飛ぶ。さあ、何で返してくる?
スキンヘッドの人が選択したのは、コートの奥への高い返球。こっちにわざわざ返してくるってことは、ネット前から僕を遠ざけたいのかな?でも、それに従う義理は無い。ここまでの2ゲーム戦ってきて、一つ確信したことがある。流石に何度も通用しないだろうからここぞという時に使おうと思っていたけれど、それは間違いなく今だ!
横並びの陣形を取る二人の間を狙って、僕はここしばらく封印していたスマッシュを打ち込んだ。
一瞬時間が止まったのかと思うくらい、体育館が静かだった。コトン!とシャトルが床に落ちた音だけが、やけに響いた気がする。ん?床に落ちた…?あ、れ…?ということはこれで…?
「勝っ…た…?」
「ゲームセット。マッチワンバイ羽代・小夜川。晴風高校」主審のコールがどこか遠くで聞こえた気がした。そこから多分、相手と握手をして、コートを出たんだと思う。どこか現実感のないまま、気がついたらベンチで座っていた。
「羽代、お疲れ!!」
ニッコニコの松下先輩に頭をグシャグシャにされながら、僕は最後のラリーを思い返す。最後まで取っておいた隠し玉は、最高の効果を発揮した。相手のスキンヘッドの人は右利き。そして、ピアスの人は左利きだった。それはつまり、横並びになった時、間に来た球を取るにはお互いフォアハンドか、お互いバックハンドと同じ構えになってしまうということ。僕と小夜川くんみたいにお互い利き手が同じであれば、バックハンドで拾える方が取るのがセオリー。咄嗟に判断しやすい。しかし相手は利き手が違う。一瞬判断が遅れ、お見合いになりやすいのだ。それでももし相手が、もっとお互いに声を掛け合ったり、間に打たれた時の対処法をしっかり決めていたのなら、こんなにうまくはいかなかったはずだ。
「まだ練習試合は終わってないけど、これで部室は守られたよ!みんな本当にお疲れ様」
微笑む南先輩の横で、花光先輩がそっとレモンのはちみつ漬けを差し出してくれたので、ありがたくいただく。程よい酸味と甘みが体に染み渡った。
ちなみに僕の隣に座る小夜川君は、天野先輩にもみくちゃにされているが、なんだかちょっと嬉しそうだ。ふと見上げると、青葉君も二階でブンブンとちぎれそうなほどこちらに手を振っている。その横では小鈴さんが、表情こそ変わらないものの拍手をしてくれている。
「よっし!じゃあ残りの試合も気合い入れて勝つぞ!」
松下先輩の声に、我等晴風高校バドミントン部は拳を突き上げた。
※ドリブンクリア 相手コートの奥に低い軌道で打ち込むショット。高い軌道で相手コートの奥に打ち込む「ハイクリア」もあります。
閲覧、ブックマークなど本当にありがとうございます。お陰様で、2年近くかかりましたが部室を賭けた練習試合に決着がつきました。この後ももう少しだけ練習試合が続きますのでよろしければお付き合いください。




