それ行け!ルーキーコンビ!
「はぁ~。どうにか生き返った!」
小鈴さんに促されて深呼吸と水分補給を実行したら、さっきよりも頭の中がクリアになったような気がする。まだ春なのに、窓を閉め切った体育館は自分で思っていた以上に暑かったみたいだ。
「バドミントンってどんな気温や天候でも窓もカーテンも閉めた環境に長時間居ることになるから、見ているだけだとしても気を付けて」
続けて「少しでも風があるとシャトルの軌道が変わってしまうから、どんなに暑くても開けられない」と呟く小鈴さん。バドミントン、やはり僕が思っていた以上にハードである。ちなみにカーテンは、外の光でシャトルが見えにくくならないように閉めるんだって、この前南先輩が言ってた。確かに中学時代、ボロボロカーテンな体育館での朝練は、バスケットボールですら見にくかったんだもん、もっと小さいシャトルなんて見失ってしまいそうだ。
「普段の練習中とかも、自分で思っている以上にしっかり水分とりなよ。青葉、集中すると周りが見えなくなるタイプみたいだから」
「うっ…おっしゃる通りです…。周りに迷惑かけないためにも気をつけます」
中学時代、マネージャーをしたり、ベンチで応援したりしていた時は、試合に出ている選手をよく見て水分補給を促す側だったはずの僕が、促される側になるなんてなんだかこそばゆい。だけど、思い返してみると応援だけに集中する観客席では、他のことを忘れて喉をからしてしまったこともあったっけ。小鈴さん、やっぱり周りをよく見ているんだな。
「ほら、羽代君たちもがんばってるし、落ち着いてきたのなら応援してあげたら?」
そうそう!気を取り直して現在は、僕たち晴風高校が連続二勝で勝利に王手をかけているのである!第一シングルスで松下先輩が一勝、続く第一ダブルスで天野先輩と花光先輩組が一勝。今コート上で行われている第二ダブルスの羽代・小夜川組VSたくさんピアスさん・スキンヘッドさん組。ここが勝ったとしても、今回は練習試合だからこの後第二シングルスの天野先輩、第三シングルスには羽代君と五試合目まで続く。
天野先輩のダブルスは終わったから、第二シングルス始まるかな?と思ったら、第二ダブルスが終わるまでは一度皆で見守るみたいだ。
スコアは16―11。一ゲーム目よりは点差がついているけど、やっぱり油断はできない状況だと思う。
「羽代くん!小夜川くん!頑張って!」
声をかけていいタイミングも、だんだん掴めてきた。僕が応援の仕方を少しはわかってきたからか、さっきから小鈴さんは静かに試合を見ている。
ここが勝負所。あと五点で、部室の平和は守られるのだ!
「二人とも、上級生相手なのにしっかり流れを掴み始めてる」
「え?」
「ああ、独り言のつもりだったんだけど、聞こえちゃってた?下のホワイトボードに書いてあるオーダー見たら、白間川はみんな二年生か三年生だったから」
確かに、小鈴さんの言う通り普通に考えたらこういう試合って白間川みたいに上級生が多く試合に出るイメージがある。
それなのにうちは、二年生三人と受験期間というブランクがある一年生二人。試合に出ていないのは、三年生でマネージャーの南先輩と、四月からバドミントンを始めたピカピカの初心者である僕。
よくよく落ち着いて振り返ってみると、相手がどこであろうと傍から見たら今回の部室を賭けた練習試合はかなり無茶な条件だったのでは?
一体校長センセイは、バドミントン部をどうしたいんだろう?
おっと、また横道にそれてしまうところだった!
コート上では先程小鈴さんが呟いた通り、羽代くんと小夜川くんが上級生相手に互角以上の戦いを見せている。体格で勝る相手の方がパワーは上。でも羽代くんも、小夜川くんも、巧みなラケットさばきで応戦する。小夜川くん情報をもってしても、謎多き白間川学園の選手については情報がつかめなかった。そのため、特に小夜川くんは自分の得意な戦法を封じられたも同然な状態なのだ。それでも、勝利が見えてくるところまで持ち込んでいる。
「小夜川くん、僕が・・・」
「わかった。じゃあ、・・・・は任せた」
サーブ権は変わらず羽代くんたち。次のラリーまでのわずかな時間でも、なにやら作戦会議をしているみたい。細かいところは聞こえないけど、試合の中でも考える事が沢山あるんだろうな。
「サービスオーバー、12-18」
ああ!スマッシュの連打でコートの奥に押し込まれて、そのまま押し切られてしまった。
「やっぱり、力で押された時にどう対応するかがポイントだね」
「うーん…どうしたらいいん?」
「そうだね…色々な方法があるとは思うけど、私だったら角度のつきやすいスマッシュを打たせないように、低めの返球を心がけるかな」
小鈴さん流の対処法には、確かに納得だ。一番スピードが出るスマッシュさえ打たせなければ、それ以外ならパワーがある球が来ても、まだ可能性がありそうな気がする。二人は、どうするつもりなんだろう。
再び、羽代くんが小夜川くんに声をかける。今度は先輩方の応援にかき消されて、全く聞こえなかった。だけど羽代くんが、今まで見たこともないようなキラキラした目で、笑った。
何かが始まる!
そんな気がして、僕は思わず唾を飲み込んだ。




