やる気全開!熱い展開!
あっちで天野先輩・花光先輩組が危なげなく相手の居ないコースを狙って点を取ったかと思えば、そっちでは羽代・小夜川組が息も詰まるようなラリーの末、惜しくもスマッシュを打ち込まれる。目まぐるしく変化するそれぞれの試合展開に目がいくつあっても足りない。僕が目を回しかけたちょうどその時、試合が大きく動いた。
「やったぁ!松下先輩が勝った!」
遂に、晴風が一勝をあげたのだ。さすがはエースの松下先輩!見ていてもハラハラするようなところなんて全くなくて、終始いつも通りだった。羽代くんと小夜川くんの試合を見ている時間だって決して長くは無かったはずなのに、気が付くと松下先輩は宮郷さんと握手していた。バスケでは試合時間が決まっていたから、同時に始まったはずの試合なのにそれぞれ終わるタイミングが違うことがすごく不思議だ。これが実際の大会になったら、一日にいつ終わるかわからない先の見えない試合を勝ち進むほど続けないといけないんだもんな。バスケとはまた違ったキツさがありそうだ。
「なんだかちょっと安心したらすごく力が抜けちゃった」
「応援しててもなんか気を張っちゃうしね。でも、実はまだ一時間も経ってないんだよ?」
「え?!……ほんとだ!」
思わず手すりにもたれかかった僕は、小鈴さんが指さす先を目で追う。
時計の針は、初めてのラブオールプレーから一周も回っていなかった。
開始早々ルール無視の大声爆弾を炸裂しかけたり、ルール迷宮に迷い込んだり、肩に力を入れすぎて空回ったり、中学時代のあれこれに思いをはせたり、白間川の謎を解き明かそうとしてみたりと、今日はいろんな意味で濃い時間を過ごした。すごく長くここにいる気がするのに、まだ一時間も経っていないなんてとても信じられない。白間川高校をドキドキしながら待っていたのがもう遠い昔のようだ。
「まあ、松下先輩なら県内ではほぼ敵なしだろうしね。ほら、天野先輩と花光先輩のところもそろそろじゃない?」
「もう?!わっ!19-6!あと二点だ!」
嬉しくてテンションはうなぎ登り。勝ってもいないのに思わず飛び跳ねる僕の横で、小鈴さんは静かにコートを見つめている。相変わらずクールだ。
天野先輩と花光先輩の対戦相手である金髪さんと赤髪さん(名前を知らないので今日僕は、心の中で勝手にそう呼んでいる)は、荒っぽい行動などは一切していない。多少顔つきが険しかったりだるそうだったりするが、決して試合を放棄する事も無く、スポーツマンシップにのっとった試合っぷりだ。
「天野先輩、花光先輩!もういっぽーん!」
勝利はもう目と鼻の先だけど、まだ試合は終わっていない。相手だって真剣にやってるんだ。何が起こるかわからない。油断せず最後のひと押し、と少し緩んだ自分の気を引き締めて先輩方に声をかける。天野先輩はこちらに振り向いてウインク、花光先輩は小さく頷いてくれた。
「ひなた、気を抜かずにあと二点、しっかり取りに行こ!」
天野先輩の言葉に、シャトルを持った花光先輩がまた小さく頷く。
「「一本!」」
二人の掛け声はピッタリ揃った。
一瞬の静寂の後放たれたサーブは、低く鋭い軌道でコートの奥へと向かう。
赤髪さんはなめらかな足運びで後ろに下がると、これまたネットスレスレの低い打球で返した。
すかさず反応した天野先輩が、ネット前にソフトタッチで落とす。今度は金髪さんが、同じように手前へ落とし返した。
ポン、ポン、ポンと、テンポよくネット前での攻防が続くこと数往復。天野先輩がいきなり、目線とは逆の方向にシャトルを落とした。反応が遅れた金髪さんが、コートの中央あたりへ半端に打ち返す。
ネット前に張り付いていた天野先輩が下がって打ち返す!と思いきや、すかさず前に出てきた花光先輩が叩き落した。
「ナイスショット!」
あんなに速いラリーの中お互いが取りに行こうとしてお見合いになったり、反対にパートナー任せにしてしまったりする様子は全くない。ひょっとして先輩方は、テレパシーを使えるのでは?そんなことを疑ってしまうほど、流れるような連携だった。思わず小鈴さんより先に、言葉が出てしまったのも仕方のないことだと思う。
これでスコアは20―6。ついにあと一点だ!
「ガンバです!!もう一本!!!」
勢いそのまま、二人は相手に息つく暇も与えず畳みかける。
スマッシュ! スマッシュ! スマッシュ! あ!えーっと多分プッシュ!(まだ色々勉強中で、強く打ち付けるショットはほぼスマッシュな気がしてしまう。)立て続けに響く重い音に、思わず僕の手にも力が入ってしまう。間違いなく押しているのは先輩方。それでも、相手だってこの一点を取られたら試合が終わってしまうんだから、そう簡単には取らせてくれない。このラリーは長くなりそうだ。そう思った矢先、
コン!コトン!
「へ?」
最後の一点を取るために終始強打で攻めの姿勢を見せたかと思えば、試合終了の決め球は、天野先輩のゆるっとした手前に落とすショットだった。意外な展開に、思わず間抜けな声が漏れてしまう。でも、これで二十一点。ということは…!
「勝った!」
「これであと一勝。……青葉、顔赤いけど大丈夫?かなり声出してるし、ラリー見てるとき力入っちゃうのもわかるけど、ちゃんと息して。それから水分も摂って」
またしても嬉しさを抑えきれない僕にそっと団扇を差し出す小鈴さんは、やっぱりクールだった。




