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縦縦横横ルール迷宮

「お願いします!」

「一本!」


 審判への挨拶の声と、サーブ前の掛け声。うわっ!本当に試合が始まったんだ!

 がんばれ。がんばれがんばれ!手すりを握る手に思わず力が入る。


  「ほら、右のコートが第一ダブルス、真ん中が第二ダブルス、左側のコートが第一シングルス。基本試合をする順番としては、第一ダブルス→第二ダブルス→第一シングルス→第二シングルス→第三シングルスなんだけど、今日みたいに複数のコートが使える場合は、出場する選手の出番が確実に被らない第一シングルスまでの三試合は並行して行われることも少なくない。なにより試合のテンポがスムーズになるから、大会でもよく見る」

「えっ!試合の順番も決まってるんだ!えーっと、てことは今始まった三試合全部勝てれば、残ったシングルス二試合をしないまま勝ちが決まるってことであってる?」

「ん。そういうこと。まあ、あくまで今日は練習試合だから勝敗ついた後の試合もすると思うけどね」


  言われてみればと、いつぞや部室で団体戦のルールを教えてもらった時のことを思い出す。なるほど!確かに第二、第三シングルスはダブルスと出る人が被るかもしれないから、そっちが終わってからじゃないとできないのか。目の前で繰り広げられるスピード感満載のラリーに、目が回りそうだ。最低でも五倍くらいは視野が広がるか目を増やさないと、とても全試合を見るなんてできそうもない。取り合えず、いっちょ景気づけに応援いっときますか!


「がムグ!」

「静かに!ラリー中は声を掛けるのはご法度!インターバル以外はベンチだろうと上からだろうと指示とかを出したりするのもダメ!」


 自分の緊張も吹き飛ばそうと思いっきり息を吸い込んだ僕の大声爆弾は、残念ながら小鈴さんによって不発に終わった。すさまじい勢いで口にノートを押し付けられて思わず涙目になったものの、理由を聞けば感謝しかない。


「ごめん!知らなかった!!」

「わかればいい。次から気を付けて。じゃあ取り合えず、シングルスから見ながらルール説明していくね。シングルスがわかればダブルスも割と頭に入ってきやすいと思うから」


  左のコートに目をやると、松下先輩がサーブを打つところだった。ネットの向こうに見えるのは、おっかない集団を束ねる只者ではなさそうな宮郷さん。あ!ほんとだ真ん中の線より右側に立ってる!対する宮郷さんも自分のコートの右側で構えてる。あれ?なんで二人ともネットからちょっと離れてるんだ?特にレシーブをする方なんか、もっとネットに近づいて相手にプレッシャーをかければいいのに。


「シングルスとダブルスどっちもそうなんだけど、サーブは後ろのライン、横のラインの他に、ネットの近くにあるあの横線より手前に落ちてもダメなの。サーブを打つ時も、受ける時も、あの線より前に出たり踏んだりしてはだめ。これは実際に打つとこ見ながらじゃないと言っても混乱すると思って、さっきは省いた」

「わ!サーブだけでまだ他にルールがあったんだ!?」


 質問しようと口を開きかけたところで小鈴さんがさらっと補足してくれた。僕の扱いをすでに分かってらっしゃる。そう、自分で言うのもあれだが、脳みその容量は決して大きくないのである。


 パッ!


 乾いた音と共に、松下先輩の手からシャトルが放たれた。バックハンドで短い距離のあれは、


「ショートサーブだ!」

「お!正解。松下先輩は、上から撃ち落とすスマッシュが得意でしょ。だから短いサーブを相手に下で拾わせて、帰ってきた高い打球を強く打ち返して自分の得意な形に持っていきたいんじゃない」

「なるほど!」


 あれはみんながサーブ練習をしている時に「ロングが~」とか、「ショートが~」とか言っているのを見ていたから、何となくはわかっていたのだ!珍しくちゃんとわかることがあってちょっとうれしい。だけど、既に縦の線横の線、どれがインでどれがアウト、サーブの時は超えちゃダメな線があるんだっけ、と縦横様々な線が頭の中で迷路を描いている。あ゛―!頭の中は既に大渋滞だ。


「うーん、何となく一つ一つは理解したけど、いざ試合を見て一人で応援したりスコアをつけろって言われてもとてもできる気がしないなー。南先輩が、今回の試合で審判はしなくていいって止めてくれた理由がやっとわかったかも」

「私も始めた頃は全然わからなくて、初めて審判をしたのも習い始めて3か月経った頃の大会で年下の子についてもらいながらだったよ」

「習ってたってことは、小鈴さんも小学校からやってたの?」

「うん。まあ、小学校っていっても6年生からだったし、男バドの人たちと違ってそこまで歴は長いわけじゃないから」

「いやいや!僕から見たら他の皆と同じように大先輩だよ!」

「…………ほら、もうインターバルに入るみたいよ」


  何となくあっちへフラフラこっちへフラフラと、気まぐれに楽しいことを探して首を突っ込んでは、どれも長続きしなかった僕の小学生時代を思うと、一つの事をこんなに長く続けていること自体が本当にすごいと思うんだけどな。

  しばしの沈黙の後突然コートに向き直った小鈴さん。明らかに話をそらされた気がするけどまあいっか。小さいことをいちいち気にしていたらあっという間に胃に穴が開いてしまう。


「インターバルは、試合の途中にある休憩のことだよね!バドミントンは試合時間が決まっているわけじゃないし、どのタイミングで入るん?」

「どちらかのスコアが十一点になったタイミングで取ることができる。一ゲーム二十一点先取だから、ゲームの真ん中位って思ってもらえばわかりやすいかも。この時は六十秒以内。それから、一ゲーム目と二ゲーム目の間、二ゲーム目と三ゲーム目の間にもインターバルが取れるんだけど、この時は百二十秒以内。きちんとした大会だと時間内にコートに戻っていないと失格にされちゃうから注意ね」

「なるほど!気を付ける!」


  バドミントンは、先に二ゲーム取った方が勝ち。さすがにこれは入部を決めたタイミングで調べた。ということは、このまま松下先輩が順調に点を取り続ければ、あと二十分もしないうちにこの試合は終わってしまうのかもしれない。

  他のコートの得点板に目を向けてみると、花光先輩・天野先輩組が八対三、羽代君・小夜川君組が七対五で勝ってる!凄い!今のところ晴風高校優勢だ!あれ?でも、松下先輩のシングルスと同じタイミングで試合が始まったはずなのに。


「松下先輩が一番強いのはわかるんだけど、宮郷さんも小夜川君情報によれば相手のチームではとびぬけて強いんだよね?どうしてここが一番早く試合が進んでるのかな?」


  そう、第一シングルスは既にインターバルを終え、一ゲーム目も中盤へと差し掛かっている。


「そうだね、なんて言えばいいのかな。これはあくまで私の考えだから、必ずしも正解ってわけじゃないことを頭に入れながら聞いてほしい。私は、バドミントンのプレイヤーにはみんなそれぞれタイプがあると思ってる。例えばスピードで相手を翻弄するのが得意な人もいれば、松下先輩みたいにスマッシュを軸に点を取りに行くパワーが飛びぬけた人もいるでしょ」

「確かに!練習を見てても、やっぱり松下先輩の打つショットが一番音が出てて重そう!他の先輩方や同級生も、同じノックしてても全然音や軌道が違ったな」

「そう、みんなそれぞれ特徴がある。その中で多分、相手の宮郷さんも松下先輩と近いタイプなんだと思う。細かいコントロールで狙いに行くショットはあまり使ってなくて、わかりやすく言うとすごく豪快な感じ。決め球も、攻めにいくためのきっかけも、パワーのあるショットに自信があるんじゃない。こういう似たタイプ同士の試合では、実力の差がそのまま出ることが多いよ。ほら、」


 小鈴さんに促されて松下先輩を見る。お、ちょうどネット前に上がって来た球を、強く打つ、と見せかけてネット前に落とした!宮郷さんもなんとか拾ったけど、シャトルはコートの真ん中あたりにフラフラと返る。それをすかさず、松下先輩は今度こそスマッシュで打ち込んだ。よし、また一点。


「松下先輩は、もちろん強力なスマッシュが印象的だけど、ネット前へ落とすヘアピンとかも今みたいに要所要所で使ってる。一方宮郷さんは、自分以上のパワーで押し切られて、なかなか自分が攻めに転じるためのきっかけをつかめずにいるみたい」


  なるほど、確かに宮郷さんはなんだか押し込まれて後手に回っているような気がする。もっと細かく考えたいのに、僕はまだまだ、飛び交うシャトルを見失わないことと、さっき教えてもらったサーブのルールを脳内で復習することで精いっぱいだ。おお、あっという間に松下先輩が一ゲーム目を先取した。


「もしもパワータイプの松下先輩に徹底してスマッシュを打たせないように立ち回る人が相手だったら、多少実力差があったとしても松下先輩が負けてしまう可能性は大いにある。でも、宮郷さんみたいに同じタイプなら、地力の差がそのまま点数として現れるでしょ。まあ、最初に行った通りあくまで私の考えだから、繰り返し言うけどこれが正解かどうかはわからないよ」

「凄い!僕なんかシャトルを目で追うのに精一杯なのに、こんな短い時間でどうしてそんなにわかるん?ねえ、他の皆は小鈴さんから見てどんなタイプなの?」

「え、えっと、シングルスのルールは大体わかったと思うから、次にダブルスの方見ながら話そうか」

「お願いします!!」

 

  これまで色んなスポーツをしてきたけど、どうしてだろう、まだコートに立ったこともないのに凄くワクワクする。運命の競技に、出会ってしまったのかもしれない。やっぱり、バドミントンって面白い。


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