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二回戦 第二ダブルス 

 奇妙な遭遇を経てなんか気持ちが疲れた気がしないでもない。が、席に戻ってからはちゃんと試合に気持ちを向けることができた。リサーチノートを見返しはじめてまもなく試合がコールされたから、本音を言えばもう少し復習したかった。

 そうは言っても仕方が無い。階段を降りてフロアに向かい、今度はベンチからのスタート。俺は第二ダブルスの松下さん、羽代の方にいる。右にはコーチ、左には青葉。天野さんたちの方は、先生と南さんが行ってくれてる。


 相手のオーダーは、


 第一ダブルス  地田(三年)・落合(三年)

 第二ダブルス  遠道(えんどう)(二年)・乾野(いぬいの)(三年)

 第一シングルス 稲生(いなせ)(三年)

 第二シングルス 地田(三年)  (第一ダブルスと兼)

 第三シングルス 遠道(二年)  (第二ダブルスと兼)


 となっている。雷山高校でここ最近特に目立った活躍を見せているのはやはり主将の地田。天野さん曰く、「なーんかスカした見た目でツンツンしちゃってさ。そのくせめっちゃ口悪いからムカつく」らしい。スタイルとしてはとにかくキレのいいスマッシュと、スピード感のあるラリーを得意とする選手。そして合間合間にドロップやカットを挟んで時折緩急をつけてくるから油断できない。

 俺のリサーチや天野さんの証言から考えるに、大分我の強そうな地田。あのタイプは組める人がかなり限られてくるような気がするが、ダブルスにも出てきているということは相方の落合が合わせられる柔軟さをもつ人なのだろう。これまでの戦績を見る限りダブルス中心の選手のようだし、こちらも雷山らしくやはりスマッシュやカットは得意としているようだから、相手が一方的に攻撃してくるような展開になったら勢いに乗られそうで怖いな。

 そして第二ダブルスは雷山で唯一二年生ながら団体戦メンバーとしてエントリーされている遠道と、長身の三年生、乾野。遠道は実績だけ見れば地田にも迫るであろう実力者で、実質雷山の二番手といえる。そして乾野は雷山には珍しいレシーブを得意とする選手で、守備の安定感でいえば県内でもかなり上位に食い込んでくるはずだ。さっき俺と羽代が苦戦したみたいに、攻めあぐねて体力を消耗することがないと良いが。


 そして俺が出る第三シングルス、相手は三年生の稲生。そう、さっき柱に寄りかかっていたあいつだ。単純なコンパスやリーチは俺に分がある。だけど、バドミントンはそれだけじゃ決まらない。相手はスマッシュやドリブンクリアを得意とする超攻撃型。最初から最後まで運動量を落とすことなく徹底的に攻め切るスタイルを得意としていて、第三ゲームまでもつれ込んだ時の勝率は七割近くにもなる。簡易ゲームだからといって体力の消費は馬鹿にならない。しかし、慎重になりすぎても後手に回るだけ。それなら俺も全力でやりたいことをゴリ押しするのみ、だ。


「ラブオールプレー」


 今日何度目かの情報確認をしている間にも、この三か月と少しで随分聞きなれたコールと共に試合が動き始める。

 サーバーが羽代、レシーバーが遠道。羽代達にも俺が知る限りの情報は伝えたが、一体どう出るだろう?

 一瞬の沈黙、その後放たれたのはショートサーブ。うわ、羽代最初っからセンターラインとサービスラインどっちもスレスレの大分きわどいところに飛ばした。

 すぐさま反応した遠道の返球はヘアピン。これ羽代にとっては嬉しいやつかもな。すかさず踏み出してヘアピンで返す、と見せかけてラケットを立ててそっと押した。プッシュの優しい版みたいなショットだ。狙いは遠道のバック側。サーブをヘアピンで返した後バック側への返球を意識してか半歩分そっちに構えてたから、少し空いたフォア側を綺麗に突いた形。羽代、勢いよく飛び出したからてっきりドライブでも返すんかと思った……。最初っから飛ばしてんな。


「あららっ、そっち来る?」


 拍子抜けした様子の遠道。その身体よりシャトルはすでに後ろということは、後衛の乾野が拾うしかない。結構きついんじゃ?正直俺はそう思った。だけど、身長と体格からは想像できなかった軽やかな足取りで動き出し、気づけば十分シャトルに届く位置。

 キラリ、とメガネが光った気がした。


 パン!


 キレのいいスイングでシャトルはあっという間に高く飛んでいく。相手は守りの陣形サイドバイサイドに移行したから、ここからこっちの攻撃ターンになったことは間違いない。だだ、相手が余裕そうなのが気になるな。中学時代も、高校に上がってからだって、松下さんがダブルスで出場するなんて個人・団体どっちでもほぼなかったはずなのに。初見ならもっと警戒して慎重になるんじゃないかと思ったが……。松下さんを知っていそうなギャラリーは現にざわついていたし。


 スバッ!


 松下さんの記念すべきダブルスデビューショットは、キレのいいスマッシュ。飛んでいくのは遠道の方。


「さすがにそれは~、わかる!」


 気の抜ける呟きとは裏腹に迷いのない動きでラケットを立てて前進すると、そのままドライブ。まっじか、スマッシュをその打ち方で返そうなんてまず思わないだろ。


「わっ!っと……」


 しかし、運よく羽代がコース上にいた。ちょっと焦った様子だったが、しっかりラケットに当てて前に落とす。

 松下さんほどのスマッシュになってくると、タイミング、コースを予測してインパクトより先に動き出さないと、頭より高い打点で返す事なんてまず不可能のはず。今遠道はそれを初見でやった。


「ほい!」


 体勢が整わないうちに、またもや羽代のボディを狙った返球。


「はっ!」


 これも凌いだ。しかし、ここから相手二人がかりで羽代の狙い撃ちが始まった。流石前衛を得意としているだけあって、体勢を整える暇すら与えてもらえない苦しい展開なのに、相手の絶好球になるような浮いた球は一度も返していない。ネット前で速球の連続。

 シャトルをじっくり眼で追う余裕もないはずだから、多分ほぼ反射で返してる。ネットから近い距離でボディに集められると、高く上げて回避するのも一苦労。半端な上げ方じゃ叩かれて失点につながるだけだから、もし上げるなら完璧にしないと意味がない。羽代は勿論相手も上手えけど、相手だって強い。だからそう簡単に自分たちが有利な状況を手放してはくれない。

 このままではジリ貧だと判断したか、羽代が動く。ほんの少し、ボディから離れた所に飛んだドライブを見逃さず、すかさずラケットをそっと当てる。


 ポ…………コン!


 手首で完璧に勢いを殺した球は、ネットの上で少し踊った後こちらのコートに落ちた。


「サービスオーバー1-0!」


 一分近く続いたラリーは、惜しくも相手の点。だけど、このまま狙われ続けて羽代が消耗するよりも、今みたいにギリギリを攻めて相手に油断させないようにする方が後々良いはずだ。序盤の一点や二点なら、いくらでも返せる。


「だー!ごめんなさい、勢い足りなくて……。もうちょっと押すべきでした!!」

「いや、今のはナイス判断。早めに切り上げて正解だと思うぞ。そんでさ、次なんだけど……」


 珍しく松下さんが声のトーンを下げたから、そっから先は聞こえなかった。

 何をするんだ?


 いくら羽代が速いといえど流石にあの速度で狙い撃ちされたら返球をコントロールすることは不可能だ。さっきのラリー、むしろあれだけ浮かず相手にチャンス球を与えなかったのがすげえ。

 ラリーのテンポを変えようにも、前に落とすなら体よりある程度前でシャトルを取らないと難しいし、上げるにも相手のショットの軌道が低いせいでクリアしずらい。

 相手は二人とも松下さんと羽代よりも背が高いからこそ、こっちは浮かない返球ができるのならネット前での戦いに持ち込んだ方がいい。羽代の速さと松下さんの機動力で、相手のアドバンテージである身長を無効化できるから。

 さっき桃文珠にそれをやられた俺が一番効果をわかってる。打ち下ろせる高い球が来ない限り、俺は相手にとって脅威になれない。それどころかネット前に引きずり出されたら肩より下の高さに来る球はドライブでの返球も簡単じゃないから攻め手にかけて置物になりかねない。小回りはどうしてもきかないから。


「ストップ!」

『よし!』


 レシーバーは松下さん。点差はまだ一点、焦る必要はない。

 サーバーの乾野は、センターライン寄りのショートサーブ。対して松下さんは……


 ポッ!


 ヘアピンだ?!

 このペアは当初、前衛が羽代、後衛が松下さんって形を作ろうとすることが多かった。その方がお互いの得意不得意を考えると適していたから当然の判断だったと思う。だが、祭千との練習試合をきっかけにそれは変わった。


 羽代が前からはがされたら?

 松下さんの方に全くシャトルが来なかったら?


 それに対する「答え」を持っていないこと、それがどれだけ怖いことか。「あのタイミングで気づけていなかったらって思うとゾッとする。このまま一つの強いパターンにこだわっていても勝てないって突き付けられたことは本当に運が良かった」って合宿から数週間経った頃羽代が言っていたっけな。

 それからは、前衛羽代、後衛松下さんのパターンを軸にはしつつ、どんなローテーションからでも攻撃に移れるようにありとあらゆる攻撃パターンを二人は模索していた。

 

 そして今のヘアピンからの流れは……一番最近完成したパターンに持っていくつもりか?


 松下幹人といえば、キレのあるショット。そんな印象を持ってる奴が多いはず。データ上でも、スマッシュやドライブ、プッシュに比べてヘアピンやドロップを使うことは比較的少ない。

 だかさすがの全国経験者。キレだけじゃなく、当然コントロールだって持ち合わせている。


 相手も頭をよぎったのは強打だったんだろう。前衛にとどまっていた乾野は松下さんの動きを見てとっさに下がろうとしたのか、わずかに重心が後ろに傾いていた。そのタイミングでのヘアピン。


「うぉ?!」


 やはり。これ以上ない効果を発揮した。最初の一歩が遅れた以上、もうシャトルはネットを超えて落ち始めている。下から拾うしかない。


 パァン!


 流石はレシーブの名手。多少体勢を崩したくらいでは返球を乱すことはないようだ。

 でも既にそれを待ち構えるは羽代。十分な余裕をもって落下点に入ると、見慣れた動作が始まる。どう見てもスマッシュを打ちます!という勢いを全身から感じるスイングから放たれたのは――ドロップ。


「うわぁ?!」


 綺麗な放物線を描いて相手コートに吸い込まれていったシャトルは、ショートサービスラインとセンターラインが交わるところドンピシャ、つまりコート手前側ど真ん中に落ちた。スマッシュを警戒して相手は二人とも後ろに下がっていたから、完全に逆を突いた形になる。


「サービスオーバー1-1」


 これぞ、羽代の変則フォームを利用した攻め。相手は松下さんのヘアピンに不意を突かれ、そして何とかしのいだとしても次は羽代のフォームで翻弄されることになる。普段羽代は、あんまり力が入ってなさそうなフォームからスマッシュ、カット、ドロップを打ち分けてくるから返しにくかった。それに加えて、あえて一連の動作に力が入っているように見せることでパワーショットを警戒させて逆に落とすという新たな攻撃を身に着けた今、羽代が後衛に回った時に相手が警戒しなければならない選択肢は、何倍にも増える。


 予想外の攻撃が連続して襲ってくる。

 相手にとってこれほど嫌な事はないだろう。見た所松下さんのスマッシュは警戒してたみたいだけど、今の二人はそれさえ攻略すれば攻撃手段がなくなるペアではない。


「なんだ……あれは?」

「わかんないでーす。けど綺麗にやられちゃったぁ」


 乾野は口元をゆがめつつ黒縁眼鏡を光らせ、遠道は眉毛を八の字にして苦笑い。先程遭遇した稲生は地田以外ろくに経験者がいないなんて言っていたが、目の前の遠道は確か五年生ごろから大会に出場していた記録があるし、乾野も中学生から初めて着実に力をつけてきた選手だと記憶している。それをどうして、あんなに卑下する必要があるんだ?


「ナイス颯!」

「ありがとうございます!先輩のヘアピンで崩してくれたからです」


 きっと相手は松下さんのスマッシュに対して、読みさえ当たればカウンターを決めることもできるってことをさっきの一点で気づいた。だから、次のサーブレシーブでもそのパターンに持ち込むつもりだったんだろう。

 もしこっちがロブを返していれば、次の返球から怒涛の羽代狙いが始まっていただろうし、松下さんがドライブで返したとしても松下さんの体を超えるくらいのハーフショットで返球すれば、後衛の羽代が出てきて拾わざるを得ない。それをまた羽代がいる方のネット前に返せば、ネット前に引きずり出すことができる。


 見つけた突破口を意識していたからこそ、キレのある強打とフットワークを駆使して戦う松下さんがショートサーブに対してわざわざネット前の戦いを仕掛けてくるとは想像もしていなかったはずだ。


 でもそのまさか(・・・)が起きた。だから作戦を変更して今度は強打のある松下先輩を前、思いのほか前衛での反応が良かった羽代を後ろにさげて様子を見ようとしたんだろう。しかし、こちらに攻撃の隙を与えた時点で相手が後手に回るのはほぼ確定だった。初見の羽代変則フォームに対してレシーブでカウンターを仕掛けることなどまず無理。


 さっき羽代本人が、「さっきの試合では相手がロブ一辺倒だったのもあって自分が上から叩くことに意識を向けすぎてたと思う。だから、雷山の人たちが試合見てたとしても変則フォームについてはあまり警戒されていないんじゃないかな?」って言ってたけどまさにその通りだったようだ。確かにさっきの試合、一度のラリーでスマッシュとドロップやカットを打ち分けることを羽代はあまりしていなかったように思う。だからこそ二回戦でお披露目した時のインパクトはでかい。


 俺をフォローする必要がなくなった今、羽代には攻撃が単調にならないように考えるくらいの余裕はできたはずだ。そうなればラリーが続きこちらの攻撃機会が増えれば増えるほど、相手は羽代の幻影に惑わされるて後手に回ることになる。本人は、「自分のスタイル的にも速さや攻撃に慣れられたら終わりだし、体力にも自信ないから、できれば短期決戦を目指したい」なんて言っていたな。その時はダブルスでなら松下さんいるしそこまで体力の心配しなくていいんじゃねえかって思ってたけど、羽代は既にこの連戦を見据えていたのかもしれない。


 ……俺も、羽代がもっと自由に動けるように上手くなりたい。桃文殊戦、本人は自分が難しく考えすぎたせいだって言っていたけど間違いなく俺が助けられっぱなしだったせいで決め手に欠けて長引いたから。


 ダブルスと言えば松下さんもこの三か月と少しで大分動きに慣れてきたようだ。キレのいい動きに合わせて瞬時に動けてゲームメイクもできる羽代という相棒さえいれば鬼に金棒。これまで全くといっていいほどダブルスに出ていなかったことが、今回の団体戦では物凄く有利に働いてんなって思う。

 完全に前情報なし、警戒しようがないところに突然のラスボス登場。自分たちにもしそれが起こったらと思うと恐ろしい。そりゃあアジ召喚(・・・・)……じゃねえ阿鼻叫喚にもなる。雷山もオーダー見た時、監督含めて「松下が、ダブルス……?」と困惑していたっけ。だからこそ突破口を探るべく初手はスマッシュ一点読みから入った。そしてそれが成功したからこそ希望が見えてきたところで、まさかのじゃない方(・・・・・)からの予想外アタック。完全に最初っからオーバーキルだ。


 さっき松下さんのスマッシュに遠道がカウンターを返した時は大盛り上がりだった雷山応援団も、今はシンと静まり返っている。

 両隣ではスコアシートを抱えた青葉とノートをしわが寄るほど握りしめた先生が大盛り上がり。ついには俺の頭越しにハイタッチまでしている。……元気だな。


 サーブ権が移ってサーバーは松下さん。ここまでたった二点の攻防で、相手は狙いが絞れなくなった。どっちが前でも後ろでも嫌な攻撃が飛んでくる。それを防ぐには、自分たちが攻撃をし続けるしかない。


「一本!」

『よーし!』


 さて、ここから二人はどう動くだろう?

 ゆっくりと松下さんのラケットが動き出す。打ち出されたのはショートサーブ。上げても未知の攻撃が待っているし、落としても松下幹人が待っている。と、なれば無理にでも


 バシャ!


 他の球を返したくなるよな。でもネットより低い球を直線的な軌道で返そうとするのはかなり無理がある。身長がある奴ならなおさら返球に詰まることが多い。ここは無理せずハーフショットで後衛を狙うのが安全な気がするが、先程のオーバーキル失点直後にそこまで冷静に判断できる奴の方が少ない。


「2―1」


 よし。二連続得点だ。やっぱ、松下さんの場慣れと羽代の勝負強さは相性がいい。大舞台になればなるほど、進化……違う真価を発揮するペアだと近くで見ていて思う。本番でも練習と同じように動けることがどれだけ(すげ)えことかはスポーツやってる奴ならよくわかるはずだ。

 加えて羽代はここでミスはしたくないってタイミングで絶対ミスしない。本人はいまいちピンときてないらしいが、相手からしたらそれ(ミスらないこと)が一番怖いとこだと思うぞ。


 そこからはもう、ワンサイドゲームだった。


 相手に生じたわずかな「迷い」を見逃す二人じゃない。最初の一点をきっかけに、次々と繰り出される攻撃。正直データだけ見ればさっきの桃文珠の一年生より間違いなく相手も強いはず。なのにここまで完全にこちらのペースで試合が進むなんて……。俺にはまだ足りないものばかりだ。もっと、もっと上手くなろう。勝つために。


 ちなみに桃文珠の一年生は全員県外からの特待生らしい。最近部活動……特にスポーツに力を入れ始めた桃文珠は各地から有望な選手に声を掛けているらしい。確かに試合後県外の大会記録を少し探ってみれば、名前がヒットした。そのうち専門のコーチも呼ぶ予定だって話だったから、全く油断ならない。今年だってダークホースだったが、来年はもっと警戒だな。


「ゲーム。ファーストゲームワンバイ晴風高校。15-8」

「早っ、じゃなくてナイスゲーム!」


 簡易ゲームなのもあるけど、それにしてもハイペースな試合だ。驚いて口に出そうとしていた応援じゃなくて率直な感想が先に出てしまった。


 じゃあ隣のコートは……?覗いてみるとスコアは9-11、リードされてる。雷山一の実力者である地田が相手だから、苦戦するのはチームとして想定内。コーチは、第一ダブルスと第二ダブルスを入れ替えることも考えたらしい。だが、最終的にはペアとして公式戦への出場経験がない松下・羽代組よりも、うちではペアとして一番場数を踏んでいる天野・花光組をトップに置くことを選んだ。そしたら相手もトップダブルスを第一の方に持ってきた。それだけの話だ。

 相性の問題は多少あれど、仮に松下さんたちが第一ダブルスに出ていたとしたって苦戦を強いられた可能性は大いにある。少なくとも今の試合展開みたいにトントン拍子で進むことはなかったはずだ。


 このままいくと俺は、松下・羽代組の試合が終わり次第コートに入る可能性が高い。どう転んでも全力を尽くすまでだが、しっかり手先と肩回りを動かして温まった状態で臨もう。まあ、この暑さだと体がそこまで冷えることは無いだろうが、気持ちの問題だ。後悔のないようにやれることは全部やっておきたい。


「さてと、二人とも足攣ったりとか頭痛いとかはない?」

「俺はダイジョブっす!羽代は?」

「今のところ問題ありません!」

「それならよし。いい形で一ゲーム目先取できたね。二ゲーム目からなんだけど――」


 インターバルあたりからこっちに来てくれた南さんが、松下さんと羽代に何やらボードを見せている。俺じゃアドバイスとか戦略の提案なんてできないからありがたいな。


 話に耳を傾ける二人を見守りながらも、頭の中ではスマッシュを決めるイメージを繰り返す。もう何回練習したかわからない、チームの皆が認めてくれた俺の必殺技。打つ瞬間に失敗のイメージがよぎらなくなったのもいつからなのか覚えていない。それくらいいい意味で何も考えず打てるようになっている。


 先輩方も羽代も、良いパフォーマンスをしてくれているから、俺も負けてられねえな。相手側のベンチから刺すような視線を送ってくる稲生を見て、思わず拳に力が入った。


アジ召喚 阿鼻叫喚 なんだか気に入っています。

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