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【閲覧注意】人を呪う方法(ガチ)

作者: 牛乳





 悪意にその身をゆだねる覚悟はあるか?

 ないなら立ち去れ。


 定型文じゃない。フレーバーテキストでもない。

 本気の忠告だ。

 覚悟がないなら、今すぐ立ち去れ。


 また、これから語るのはオカルトではない。

 もっと科学的、実際的な理論だ。

 生理学、心理学、認知科学……専門家ではないため正確なところはわからないが、そういった分野の話だ。

 あるいはそれは呪いとは呼べないものであるかも知れない。


 人為的に鬱を発症させる方法、とでも言おうか。


 そういった次第であるから、呪いなんてあるわけないと高をくくるのはお勧めしない。

 面白半分で心に傷を負いたくはないだろう?


 それと、これから語る内容があなたを救うことになるなどとは思わないことだ。

 呪いとはそういうものだ。

 使う側にも使われる側にも害となるのが呪いだ。


 もう一度言う。

 悪意に身を委ね、自らも呪いを受ける覚悟がないなら、この先は読まずに帰れ。


 ……これぐらい言っておけば大丈夫か?











 それでは始めよう。


 『人を呪う方法(ガチ)』




 まず一番大事なことを確認しておく。

 これを確かめておかなければ始まらない。


 あなたには、嫌いな人がいるか?


 まぁいるだろうな。いないって人は……何しに来たんだ? だったら読んでも意味ないぞ?


 別にいいけどな。

 覚悟はできてるんだろう? だったら好きにすればいい。

 ひとまず、いないってやつは、それこそいないものとして話を続けるぞ。


 では改めて。

 あなたの嫌いな人は、どんな奴だ?


 男か?

 女か?


 同級生か?

 仕事の同僚か?

 血の繋がった親族か?


 いや別にメンタリストを気取りたいわけじゃない。


 誰だっていいんだ。どんな奴だって。

 なんだったら知り合いじゃなくてもいい。面識のない相手でも問題はない。向こうがこっちを知っている必要もない。


 うざい芸能人。

 クソなクリエイター。

 顔を見たこともない婚約者。

 なんでもござれだ。


 いや待て。


 顔を知らないのはまずいか。

 まずいというか、効果が弱くなる。


 相手の情報は多ければ多いほどいいんだ。

 顔と名前、年齢、出身地、生年月日、身長体重、趣味、特技、食の好み、性的指向、休日の過ごし方、エトセトラエトセトラ。


 もちろんそこまで網羅する必要があるわけでもない。

 例えば私の場合は、外見と声とフルネーム、あと誕生日ぐらいしか知らないが、それでも十分に効果は出ている。


 詳しいに越したことはないが、必須ではない。


 顔も、必ずしも知らなくていい。そいつを象徴するような何らかのビジュアルイメージでもあれば代用可能だ。

 そいつといえばこれ、みたいな象徴的なイメージ。

 クリエイターなら代表作とかだな。ツイッターのアイコンなんかでもいいぞ。


 要は頭の中にはっきりと思い浮かべられるかどうかだ。


 この条件さえ満たされているならどんな相手だってかまわない。

 個人ではなく団体、国や一族でもいい。なんなら人間以外の動物、虫やお化けなんかでもOKだ。


 対象は選ばない。


 それよりも何よりも重要なのは、大切で必須で前提条件となるものが、強い嫌悪と憎悪だ。


 ようやく呪いっぽい話になってきた。


 そう思ったか?

 違う……とまでは言わないが、既に言っただろう。

 これはオカルトではない。


 嫌悪と憎悪。

 つまり心だが。

 魂がどうとか精神世界がなんだとか、そんな話ではない。


 心とは、感情と記憶だ。

 この三次元世界で実際に起こっている物理現象だ。


 心は物質。

 この事実を受け入れてくれ。


 実例を挙げよう。

 想像しながら読んでくれ。


 私はアイツが嫌いだ。

 口をききたくない。

 近付きたくもない。

 近寄ってほしくない。

 目を合わせたくない。視界に入れたくない。声も聴きたくない。

 同じ空気を吸いたくない。

 同じ部屋にいたくない。同じ組織にいたくない。同じ人間だと思いたくない。


 嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。嫌いだ。


 どんなに楽しい気分になっていても、あいつの存在をほんの少しでも知覚するだけでテンションがマイナスまで落ちる。

 せっかくの気分が台無しになる。

 死ね。

 消え失せろ。

 いっそこの手で殺してやる。

 いや駄目だ。

 それはイヤだ。


 罪悪感じゃない。

 近付きたくないからだ。

 それにあんな奴のために犯罪者扱いなんてされたくない。

 仮に法律が許してもやっぱりイヤだ。

 少なくとも直接手を下すのはイヤだ。

 触りたくない。

 この手に感触が残るなんて絶対にイヤだ。

 アイツの吐いた空気を吸い込むだけでも耐えがたいのに。

 自分と関係のないところで勝手に死んでくれ。

 そうして確実に死んだという情報だけ届いてくれれば言うことはない。


 ……なんて、気付けば考えているわけだ。

 これらの思考は脳が働いた結果の産物であり、すなわち神経細胞と伝達物質という肉と体液から生み出されているわけだ。

 考えたくてそうしているわけじゃなく、気付けば勝手に考えてしまっている。

 そのために脳を使わされている。

 体の一部がアイツに侵食されていると言い換えることすらできる。


 また脳を動かす燃料は糖分なので、昨日食ったチョコレートが頭の中でアイツの姿に化けたということでもあり、明日明後日それ以降に舌を楽しませてくれるスイーツ類も同じ運命を辿らされるということにもなる。

 視界に入れば網膜が、声が届けば鼓膜が侵され、目を逸らしたり耳を塞いだりすればその部分の筋肉が、あいつのために使われる。

 一つのエレベーターなんかに乗り合わせたりした日には、肺から心臓から全身の血管、細胞の一つ一つに至るまで、全て汚染し尽くされてしまうことになる。


 私はこの事実に耐えられなかった。


 どうにかアイツの影響下から逃れたい。

 そう思い、なるべくあいつのことを考えたり思い出したりしないように努めたのだが。

 そうしたかったのだが。


 しかし人間というのはままならないもので。

 知ってるとは思うが、意識というものは当人といえど自由に制御はできるものではないのだ。

 悟りを開いた超越者ならともかく、ただの凡人にすぎない私には無理である。


 考えまい、思い出すまいとすればするほどかえってアイツのことが浮かんでしまう。

 うまく意識から外れてくれたとしても、ふとしたきっかけで思い出してしまう。


 この『ふとしたきっかけ』というのが曲者でな……


 増えるんだ。


 増殖する。


 例えば。

 アイツと顔や雰囲気が似ている、あるいは目立つ共通点を持ったテレビタレントを見たとき。

 またアイツには〇〇という特徴があるのだが、これやこれに類する単語を見聞きしたとき。


 最初はそれぐらいだった。

 そういったときぐらいでしかなかった。

 しかし何度も何度も思い出しているうちに、『思い出す』というフレーズだけで記憶が刺激されるようになった。


 こうなるともう駄目だった。

 連想のスイッチとなるものは指数関数的に増えていった。


 思い出したときに、同時に見ていたもの。

 聞こえていた言葉。

 食べていた味。

 ニオイに手触り。

 これらがまた別の状況で新たなスイッチを増やしていく。


 頭から追い出そうと楽しいことを考えてみれば、逆にそのことを楽しんでいるときに思い出すようになってしまった。

 別の嫌なことで上書きしようと試みても、不快感が二倍になるだけだった。


 そうして足搔いている間にもスイッチは増えていく。


 ゲームをしているとき。

 動画を見ているとき。

 コーヒーを飲んでいるとき。

 筋トレをし始めるとき。

 ブラウザの『戻る』ボタンを押したとき。

 階段を下りているとき。

 首をひねって時計を見上げたとき。


 身の回りのありとあらゆるものがアイツと結びついていく。

 繰り返される再認によって記憶はどんどん補強され、忘れられなくなっていく。

 悪循環だ。


 ついには一日中アイツのことを考えているような状態になり、まるで恋でもしているみたいじゃないかなどといった吐き気を催す発想まで出てくる始末だ。

 実際に何度かえづいた。


 オナニーの最中に思い出してしまったときはマジで最低の最悪だったな。

 アイツの顔を思い浮かべながら果ててしまったのだから。

 死にたくなったよ。


 考え方を変えて、どうにか役立ててみようと思ったこともある。

 例えば、あいつを思い出すたびに姿勢を正すよう心がけてみるのはどうだろう、と。

 これは比較的うまくいった。

 前述のとおり一日中アイツに脳を侵食されているわけであるからして、その時間がそっくり背筋を伸ばしている時間に置き換わり……置き換わりはしなかったな。兼ね合うようになっただけだが。

 実際以前より姿勢がよくなった。

 健康増進に役立つことであるから、アイツのことも少しは許してやろうという気にもなれた。

 うまくいっていた。

 最初のうちは。


 しかしいつからか、因果関係が逆転し始めた。

 思い出したときに背筋を伸ばすのと同時に、姿勢に意識が向いたときにアイツを思い出すようにもなったのだ。

 つまり、スイッチがまた増えた。


 遠くを見ようとしたとき。

 重い荷物を持ち上げたとき。

 何かに驚いてのけぞったとき。

 腰が重いと感じたとき。

 目覚ましを止めようと腕を伸ばして身体を反らせたとき。


 問題なのは最後のやつだ。

 朝一番に思い浮かぶものがアイツの顔になってしまったのである。

 連鎖的に、アラームをセットするとき、すなわち一日の終わるときにも。


 これで本当に一日中、起きている間中ずっとアイツが頭の中に居座るようになってしまった。

 殺したいほど憎いアイツが。


 なんてひどい。

 どうしてこんなことになってしまったんだ。

 なんでこんな思いをしなきゃんらないんだ。


 憂鬱だ。

 何をしていても気が晴れない。

 気晴らしに何かを楽しもうにも逆効果になるばかり。


 いつまでも終わらない。

 不快感がじくじくとうずいて止まらない。


 まるで拷問だ。


 もしくは、呪い。











 さて。


 今どんな気分だ?


 あんたの嫌いな相手。

 頭の中のそいつは、どんな顔をしている?


 それではそろそろ種明かしをしよう。


 人を呪う方法。

 それは頭の中に『嫌いな相手』のイメージを定着させてやること。

 具体的には、よほど察しの悪いやつでもなければとっくに気付いているだろうが、この文章を読ませることだ。


 騙された、なんて言ってくれるなよ?

 私は最初に言ったはずだ。

 悪意にその身を委ねる覚悟がないなら読むなと。

 読むことで救われる結果にはならないと。


 そうそう、明晰夢を見ることのできるやつは気を付けろよ。

 私にはその技能はないから大丈夫だが、下手をすれば夢の中まで侵食されることになるぞ。


 勘の良いやつなら途中で離脱できたかもしれないが、果たして間に合ったかな?

 これは気付きの問題だから、趣旨さえ理解してしまえば最後まで読まなくても構わない。

 イヤな予感がした時点で手遅れかもな。


 俺は止めた。

 読んだのはあんたの意思だ。

 そしてこれをどう使うか、ということも。好きにすればいい。


 ああそれと、読ませるのは『この文章』である必要はない。

 もっと洗練された文章に書き直してもいいし、マンガや動画なんかに構成し直してもいい。

 著作権を主張するつもりはないから、ご自由に。


 それと最後に、この呪いを解く方法だが。

 絶賛募集中だ。 

 何か思いついたら教えてくれ。


 では、さようなら。

 良い眠りを。








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