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病床の王女は、  作者: ゆずこ
9/10

留置所にいるジェニーとアリアとシャルルの兄たちの対峙です。

直接的ではありませんが、保険として残虐表現に近い文ありです。




 ここへ来て、もうどのくらいの時が経ったか。


ジェニーは王都の騎士団管轄の罪人留置所にいた。事件のことは公にはならないよう手配してくれたようだが、家族には縁を切られた。たとえここを出たとしても、彼女には行く場所など修道院以外にはないのだ。


 静かな留置所に、カツン…と革靴の音が響く。取り調べでは嘘偽りなく話した。他に何も話すことはない。


 ガリグは自然発生していたのを見つけて、伯爵家のハーブ園にこっそり植えたのだ。誰が関与していることもない。




「君か」



 聞き覚えのある声。聞き間違えるはずのない声。

ジェニーは心臓が早鐘をうつのを感じる。




「あ、あ…」




 柵越しではあるが、まさかの面会に名前を呼ぶことすらもできずに、目の前のグエンに魅入ってしまう。何年ぶりだろうか。記憶の中のグエンは、少年と青年の境目にいた。そんな記憶だ。



「ちょっとグエン、先に行くなって」

「レオンが遅いんだ。この程度の暗さ、すぐに慣れろ」



 グエンの後ろから現れたのは、ヴァネッサ伯爵の長男レオンだった。彼は王都でヴァネッサ領の管理をしているが…なぜこんなところに。

 ジェニーが視線をレオンに向けると、レオンと目があった。



「ああ、ジェニー。まさか君がこんな愚行を図るとは誰も思わなかった。可愛いアリアに長期にわたって毒を盛るなんて、君はよほど刑に処されたいとみた」

「あ…」



 言葉にならない声しか出ない。ジェニーは震えていた。

どちらも、伯爵邸で働いていた時に何度も会う機会があった。いつだってにこやかに対応してもらった記憶しかないのに、なんだ、罪人の自分を見る瞳は、今にも腰についている剣で切りかかってくる、そんな印象をうける。



「理由は聞いたよ。君、グエンに好意を寄せていたんだね。わかるよ。グエンは人当たりいいから、君も少し優しくされたんでしょう。大丈夫、他にも沢山いるから、君みたいな人」

「人聞きが悪いな」

「ほら、こっちが素のグエンだよ。あんなにこにこして愛想を振りまくグエンなんて…」



 おえ、と吐くジェスチャーをするレオン。見かねた女性騎士の看守が、レオンを咎める。



「まあいいや。君の処罰は国が決めるし、僕らは可愛いアリアに害をなした底辺の人間を見に来ただけだ。そう、食事には気を付けなよ。誰が君に悪意を持って、食事に何か入れるとも限らないから」





 じゃ、とレオンとグエンは踵を返してジェニーの前から去った。その瞬間、こみあげたものを吐き出してしまう。

 

先ほどとは違う意味で、心臓が早鐘を打っている。脂汗も冷や汗も出てきた。看守の女性騎士はレオンたちについて行ってしまい、ここには誰もいない。ジェニーの荒い息遣いだけが独房に響いていた。動悸と手足のしびれで、姿勢を保てない。冷たい石畳が頬に触れる。




ああ、何を間違ったのか。

生理的な涙がこぼれる。

呼吸が苦しい。




 ジェニーは考えることすらできなかった。

思い出されるのは、初めてあの人にお茶をお出しした日。遠い昔のことだ。



思い出そうとして、ジェニーは意識を飛ばした。













「そもそもさ、聞けば君が諸悪の根源だと思わない?」


 地下の留置所から出て、外の空気を吸う。あんな場所は二度と行きたくない。

レオンは、ぐっと伸びをして、隣を歩くグエンに尋ねた。



「ジェニーは、君とアリアの婚約の話を聞いて犯行に走ったそうだけど…」

「そんなのは母たちが勝手に盛り上がっていただけだ。事実確認もしないで使用人が広めた話。そもそも、その話はアリアから断られている」

「えっ!!!」

「シャルルがいいって」

「えっっ!!!」





その後、アリアとシャルルの婚約の話でレオンは卒倒することになった。

ラスト1話になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公が聡明で、安心して読めました! 主人公カップルがほのぼの純情なのに対して、兄たちは社会人だからか腹黒な感じがあって、良いです\(//∇//)\ [気になる点] 6話で、ガリグは染料店…
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