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病床の王女は、  作者: ゆずこ
7/10



 ジェニーが屋敷を去ったのは、シャルルと庭で話をしてから3日後のことだった。






 アリアの話は、自分だけで留めておいてはいけないと判断し、シャルルはアリアの父に面会を希望する。もちろんアリアも連れてだ。

ただならぬシャルルの様子に、ヴァネッサ伯爵は人払いをする。

 シャルルとアリアが先ほどの話を伯爵にすると、すぐにジェニーへ監視をつけた。





「久しぶりにジェニーの淹れるお茶が飲みたいわ。誰かに淹れてもらうのってとてもおいしいのよね」

「承知しました。とっておきの茶葉で淹れますね」

 

 ジェニーが専用の茶葉の入った瓶を取りに行く。

手慣れた様子でお茶を淹れている様子をアリアは見ていた。



「どうぞ」

 

 綺麗な色の香り高い紅茶が、アリアの前に出された。いつもの穏やかな微笑みの裏で、ジェニーは何を思ってアリアにお茶を飲ませていたのか。

お茶に紛れる狂気。


 

 そのお茶は手を付けられることはなかった。父や警備騎士が数人部屋へ入ってきて、お茶関連は押収。

監視していた者がジェニーが庭でガリグを育てハーブティとしてアリアに提供しようとする瞬間まで見ていたのだ。

現行犯としてジェニーは拘束された。



 ジェニーは抵抗しなかった。あっさりガリグの使用を認めたのだ。父と母の背中に守られるように立ち尽くすアリア。

 この件は公にはならなかった。ヴァネッサ伯爵は厳重に箝口令を敷いた。家のため、家族のため、何よりも命を脅かされたアリアのためだ。

アリアもそれを望んではいなかった。長年付き添ってくれた侍女だ。何を思ってそんな行動に移したのか。それだけは知りたいと思ってしまう。



 ジェニーの件の翌日、シャルルが早馬でアリアを訪ねた。




「シャルル!」

「アリア、体調は?無理はしていない?」


シャルルは、ぎゅう、とアリアの両手を握った。すると、アリアの手も、シャルルの手を力いっぱい握り返した。



「わたし、命が消えかける感覚は、怖いほどわかるの。でも、命を脅かされるってとても怖いことだわ…」

「どっちも経験したくないほど怖いことだよ。アリアは…もう少し誰かをすぐに頼って。僕じゃ頼りないとは思うけど、王都にはグエン兄さんだっているんだし」


 いつになく饒舌なシャルルに、アリアは思わず笑いがこぼれたが、すぐに瞳に影が差す。




「ジェニーがね、丁度庭からガリグを収穫したであろう瞬間に遭遇したの。他にもハーブはあったけど、ミントに混ざってガリグがあったことには驚いたわ。もしかしたらあのガリグは染料として使用するのかもしれない。でも違う、おかしいって一瞬思ったの。そう思ったら怖くなった。でも確証がないから家族には話せない…一番に浮かんだのはシャルルだったの」



 やっぱりシャルルはわたしの騎士だわ、そう笑ったアリアを、シャルルは思わず抱きしめる。

だけど、すぐに離れた。




「ごめん、思わず」

「いいの、誰かに抱きしめてもらうのも、触れてもらうのも好きよ。でもそれは、シャルルであってほしいと思うのは、いけないかしら」




 まただ。雰囲気が…少し大人びた笑顔。

よく知るアリアとは、また違う。




「…反則だ。まいったな。アリア、君の婚約者に名乗りを上げていいだろうか。ずっと考えていたんだ…。あ──…君の体調が落ち着いたら告げようと思ってたんだけど、まさかこんなことになっているとは」

「本当!?そうだったらいいなって思っていたの!覚えてる?グエン兄さまの婚約者にわたしの名前が出たけど、わたし猛反対したのよ。シャルルがいいって」

「猛反対したのは聞いたけど、そこで僕の名前が出たのは初耳だな」

「きっとお父様よ。グエン兄さまの件ですら渋い顔をしていたもの」



 アリアの婚約者の話をしに行こうと思うが、まず反対されるんだろうか。

苦い考えになりそうになったシャルルは、気になっていたことをアリアに尋ねた。



「そういえば、ここ最近の君は、本の趣味も変わった?」

「なぜ?」

「以前は、物語や旅行記ばかり読んでいたじゃないか。物語の主人公って素敵って。なのに、急に歴史書や、地図…まさかその手の人しか知らないようなガリグの別の使用法まで…」

「チェルシーのおかげよ」

「チェルシー?」



 シャルルには聞いたことのない名前だ。

アリアはにっこり笑って、シャルルの手を取った。



「さあ、これから図書館へ行くわよ!シャルルに聞いてもらいたい話もあるし!」

まもなく終了です

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