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シャルルはいつもの庭園に案内される。
今日は曇り。夏の日差しはやわらぎ、風はいつもより涼しい、樹齢何年だろうか。大きな楓の木の下にアリアはいた。葉が生い茂り、見事な日陰だ。
いつもの侍女の姿が見えない。周りを見渡すと、距離をとって見慣れた侍従が立っていた。
「シャルル」
「アリア、どうしたの」
火急の用ということで、シャルルはすぐに時間を空けた。
今日のアリアはいつもよりか顔色がいい。
病が進行したとかの報告ではないようで安堵の息をもらす。
「シャルル、わたし恐ろしいことに気づいたの。いえ、気づいていたのだけど、つい先日疑惑が確信に変わったというか…」
「どういうこと」
「落ち着いて聞いてね、シャルルにしか言えないわ。わたしの体調不良、あれはたぶん毒を盛られていたと思うの」
「ど…」
「しっ!会話を聞かれない程度に離れてもらっているけど、聞かれたら問題になると思うから…」
アリアはカモフラージュのために、手元に本を出した。今王都で流行しているただの旅行記だ。体調不良を心配したアリアの兄がお見舞いに送った一冊である。
周囲には本の内容で談笑している幼馴染にしか見えないであろう。肩が触れそうな距離で、こんな殺意がちらつく話をするわけない。
アリアの話はこうだ。
長年悩まされていた謎の体調不良。薬を飲んでも休息をとってもよくならない。何が原因かずっと調べてた。
ある時気づいたのが、食欲がなくて料理長から果実水ばかりもらって飲んでいたこと。それを1週間続けると、少し体調が回復したらしい。
果実水に何かあるのか?と調べて、実際に作る様子を見ても、問題はない。食べ合わせか?と考えても何もない。
ふと庭へ散歩に出かけたら、使用人で育てている菜園に出た。屋敷で使う食材は仕入れたり菜園で育てているものだ。中には料理で使うハーブもある。
ミントを見つけて爽やかな香りを確かめようとしたとき、違和感に気づいた。
最近読んだ書物ではない。もっと昔…ああ、チェルシーの頃に読んだ、世界の植物の本だ。
ユース国には自生していない色々な草花に心惹かれ、元気になったら旅行先で見つけてみたい、と考えていたりもしていた。数ある植物のなかで、なぜ今それを思い出すのか、運命しか感じられない。
ミントに類似しているが、これはガリグというハーブで過剰摂取すると毒になる。色が良いので染め物に使用することもあるとは聞くが…なぜ家の菜園にこれが?
アリアは急に体中から血の気が引くのを感じた。
体調不良の原因はこのガリグにあるのでは…?
では、誰が?
何のために?
「実はね、もう半月以上は体調不良が落ち着いているの。とりあえず例のハーブを摂取しての体調不良ということで仮定して、まずは食事面に気を付けたわ。でも一番大きかったのは、紅茶よ」
「こうちゃ…」
シャルルはアリアが話す内容に頭がついていかない。
アリアの話では、この伯爵家にアリアに害を及ぼす者…最悪アリアを亡き者にしようと画策している人物がいるということか…?なぜ?理由は?
シャルルがぐるぐる考えていると、アリアはシャルルにぐっと近づき、ささやいた。
「紅茶や水分を自分で準備するようになってから、体調が改善したの」
シャルルはパッと顔をあげてアリアを見る。橙の瞳が揺れていた。
その中に、険しい顔をした自分が映っている。
「侍女のジェニー、か」
アリアは小さく頷いた。
確信へ迫ります。