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なんだかおかしい。
アリアはベッドの上で思い悩んでいた。アリアの記憶によれば1年ほど前から体調不良の症状が出始めた。
成長に伴ったホルモンバランスの乱れか?と思う。しかしさすがに2年も続くと心配になってくる。
アリアとしての人生でも病に苦しめられるのか?チェルシーの頃は心臓の病だった。だがアリアの病は確定していない。主治医から処方される解熱剤や抗生剤の成分を分析してもらったこともある。だが異常はなかった。薬が効いていないわけでもないのだ。
アリアは喉をうるおそうと体を起こす。水差しの水がなくなっている。侍女のジェニーは席を外しているし、料理長から果実水をもらおう、そう思ってベッドから降り立った。
柑橘系の果実が入った果実水が、喉をうるおす。料理長にお礼を言って、水差しにも少し入れてもらった。
季節は夏だ。太陽の下を歩いて健康的に日焼けするのも悪くないと思っているが、そんなことをしたら侍女が卒倒しそうである。今年の夏はあきらめよう、と、病的な白さの腕を見る。
「まあ、アリアお嬢様。どうされましたか」
テラスへと続くガラス戸から、侍女のジェニーが姿を現す。
「水差しが空だったから果実水をもらいに行ったのよ」
「気づかず申し訳ございません。さっそく入れ直しますね」
「大丈夫よ。新しくしてもらったし、しばらくはこのままでいいわ」
「そうですか」
「それはお庭のハーブ?」
「ええ」
ジェニーは紅茶を淹れるのが上手だが、ハーブを育てるのも上手だ。時々育てているハーブをお茶にしてもらい、飲んでいる。
体調がすぐれない時、眠れない時、それぞれに合わせて淹れてくれるお茶に何度も助けられた。
「今日は何のハーブティーにしてもらおうかしら。先に戻っているわね」
「承知しました。お嬢様のために、とっておきをご用意させていただきますね」
楽しみだわ、とアリアは先に部屋へ戻ろうと歩みを進める。ジェニーはその後姿をじっと見つめ、侍女の控室へと姿を消した。
執事がアリア宛ての手紙を持ってきてくれた。王都にいる兄からの絵葉書だ。王都の四季を切り取ったような絵が描かれている。内容は体調の心配。時間が取れたら領地に帰る、と。後者の内容は前回の手紙にも書いてあった。もはや社交辞令のようなものだ。
もう1通は、シャルルからだった。自分の体調がすぐれなくなってから、こうして頻繁に手紙をくれるようになった。文面はいつも簡素で短いが、シャルルなりに悩みながら筆を進めているのだろう。その姿を思い浮かべるだけで頬が緩む。
シャルルは来年からの騎士科入学に向けて日々鍛錬に励んでいるようだ。ぼーっとしているように見えて、意外としっかり考えを持っているシャルル。
今度会ったら鍛錬の厳しさでも聞いてみようかしら。
「お嬢様、何か良いことでもありました?嬉しそうですね」
「ええ。シャルルからの手紙よ。グエンお兄様が今度の休暇にローデリア領へお帰りになるって」
「まあ!皆さま心待ちにされておりましたもの。ローデリア伯爵夫妻もさぞお喜びになるでしょうね」
「わたしも久しぶりにグエンお兄さまにお会いできるのがとても楽しみだわ。それまでにこの体調不良を治さないと…」
「そうですね」
ジェニーはにこりと笑って、湯あみの準備を、と部屋から下がった。アリアはジェニーが部屋から遠ざかるのを確認して、シャルルへ返事を書く。要件のみだ。しっかり封蝋をして、人目につかないように執事の元へと急ぐ。
「おやお嬢様。今日のお加減はよろしいようで?」
「ええ。お願い、この手紙を急いでシャルルへ届けてほしいの」
承知しました。と初老の執事は手早く配送の手続きを終え、侍従へ渡す。
アリアは長い息を吐き、また自室へと戻った。
それから二日後、シャルルがアリアを訪ねた。