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シャルルのターンです
幼馴染の雰囲気が変わった。
大きな変化はないが、纏う空気だったり、話し方…?
あとは本の趣味か。以前は物語や旅行記が好きだと言っていたのに、歴史書や地図まで読み始めた。
しかし、これといった決定打はない。
アリアとは母親が友人のため、頻繁にお互いの家を行き来していた。両家ともに伯爵のため、爵位的にも交流があって不思議ではない。
シャルルの兄は王都で騎士団、アリアの兄は王都で領主の仕事をしている。兄たちも年齢が近いので、会えばお酒を飲みかわす仲だという。
シャルルの母は、娘が欲しかった、とアリアを可愛がっている。何年か前は、シャルルの兄グエンの婚約者にしようという話が出たほどだ。
しかしその話はアリアが嫌がって断ったと聞く。理由は何にしろ、アリアにだって選ぶ権利があるのだ、とシャルルは思った。
シャルルは社交的な兄や母と違って、基本的に無表情である。やる気はある。夢もある。それなりに。
だけど、常に笑顔で接することはとても疲れるのだ。兄や母を見習って人前で笑顔でいることを心掛けたが、とても疲れた。表情筋が死滅しそうだった。
そんな頃にアリア言われたのだ。
「シャルル、なんだかわざとらしいわ。その笑顔」
当時7歳。自分なりに積み上げていたものが、アリアの一言で一気に崩れた。
「どうしてむりに笑うの?たのしい?だれかに言われたの?」
「べつに…アリアだって、にこにこしてる方がいいでしょ」
「まあ、お客さまの前ではにこにこの方がいいかもしれないけど、シャルルはべつよ。まず、わたしの前でそんな顔しないで」
「いてて…アリア、いたい」
両頬をぐにぐにつねられ、シャルルは困った顔になる。そうか、アリアの前ではいつもの自分でいいのか、それが許されるのか。そう思うと一気に気が抜けた。
その日から、兄や母を観察し常に笑顔でいることをやめた。必要に応じて、を身に着けた。基本的に社交は兄と母の仕事。
シャルルは、社交が苦手な騎士の父と二人、目立たないように目立たないようにと控えることも上手になった。
それから、アリアと会う時は素の自分でいられるようになった。シャルルが不愛想でも、アリアは何も言わない。それが心地いい。
アリアはヴァネッサ伯爵の長女だが、爵位は兄が継ぐことになっている。それならば、アリアを…とひそかに思っていることは、まだ誰も知らない。
来年からのアカデミー入学に向けて、騎士の鍛錬もしていたシャルルは、なかなかアリアに会えないでいた。時々手紙のやりとりはしていたが当たり障りない内容が続く。正直シャルルに相手を気遣うような文面を綴れるわけでもないのだが。
母からの情報だと、アリアはここ半年体調がすぐれないと聞いていた。動悸や眩暈が主で、ベッドで過ごす時間が少し増えた、と。
しかし、久しぶりに会ったアリアの顔色は良く、いつもと変わらず朗らかだった。半年会わないだけで、急に大人びた幼馴染。些細な変化をシャルルは感じ、アリアの笑顔に心臓の音が大きく聞こえた。
アリアからヴァネッサ領の図書館へと誘われた。図書館に限らずアリアとシャルルで出かけることは多かった。人混みは好きではないシャルルは見事に顔に「いやだ」と出ていたらしい。
でもアリアと一緒ならいいか、と図書館行きを承諾したのだった。
それからしばらくして、ヴァネッサ伯からアリアが床に臥せっている、と手紙が届き、シャルルはどうしようもない不安に襲われた。